攻略対象の婚約者でなくても悪役令息であるというのは有効ですか

中屋沙鳥

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46.隠しキャラかもしれない

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 王族の婚約者であるアラステアは、夏と同様に冬の祭礼でも神殿での祭祀に参加することになる。
 今年は、夏に大雨災害があったため、夏の祭礼ではそれに関する祈りも組み込まれていた。冬の祭祀についても祈りにはそれに関するものも組み込まれることになるだろう。

 夏の祭礼の前に各地を襲った大雨は、道路を寸断し、未だに完全復旧していない場所もある。復旧の速度は各領地の地力によるところが大きいのだが。作物についてはそれほど甚大な被害が出ていないのが救いであった。
 大雨の被害は、王都近くのラトリッジ侯爵領にはなかった。そして、コートネイ伯爵領には被害があったものの、迅速な復旧がなされていた。コートネイ伯爵領はもともと交易に重点を置いた街づくりがなされているため、街道も整備されていた。今回被害があった場所の復旧工事により、弱点が補強されたといってもいいだろう。
 しかし、コートネイ伯爵領の近隣にあるステイシー伯爵領には、甚大な被害が出ていた。
 ステイシー伯爵領には森林が多く、林業が主な産業になっている。その森林の中の林道がかなりの被害を受けたのだ。山の中の細い道の復旧はなかなか進まず、ステイシー伯爵はそれによりかなり多忙になっている。
 本来であれば、エリオットが王都で遊んでいる余裕などはないはずなのだ。

 しかし、エリオットは遊び仲間との、そしてノエルとの遊興に耽っていた。



「年が明けたら、ファクツ皇国からヘンリー第二皇子殿下が体験留学されることになった」
「ファクツの第二皇子殿下といえば、わたしたちと同学年ですね」

 アルフレッドの言葉に相槌を打ちながら、ローランドはりんごのカスタードパイを口に入れて頬を緩めた。
寒くなってきたため、ウォルトン公爵邸のお茶会は応接室で行われている。北方の紅茶の香りとアラステアが手土産として持ってきた、りんごのカスタードパイの香りが漂っている。

「ファクツのヘンリー皇子は、前にクリスティアンが話していた『隠しキャラ』ということはないのか?」
「いえ、夢の中の物語には出てきませんでしたけれど。
 でも、もう似て非なる物語になってきているから、『隠しキャラ』でもおかしくないのかもしれません」
「かくしきゃら……とは何ですか?」

 アルフレッドとクリスティアンが話す『隠しキャラ』という言葉をアラステアは聞いたことがない。
 『隠しキャラ』とは、物語の攻略対象全てを攻略したら出てくる登場人物のことだ。『隠しキャラ』は、新たに主人公が攻略できる人物となる。
 クリスティアンの説明を聞いて、アラステアは『コイレボ』とは複雑な物語なのだと思った。

「もう、話が変わりすぎているのでわからないけれど、ヘンリー皇子は年明けから卒業式までの短期留学をされるのだから、隠しキャラである可能性も否定できないといえるだろうね」
「あの……、攻略対象なのであれば、主人公が……、ノエルが係わりに来るのではありませんか? その、仲良くしようとして……」
「……そう、そうだな」
「ああ、確かに」
「はああああ、大変だね」

 アラステアの言葉を聞いて、クリスティアンもアルフレッドもローランドもため息を吐いた。あの傍若無人なノエルに関わられては、国際問題にもなりかねない。

 ヘンリーは銀色の髪に水色の瞳の大柄な美丈夫だ。攻略対象として身分も容姿も申し分ない。
しかし、クリスティアンもアルフレッドも面倒ごとは御免被りたい。何しろヘンリーは他国の皇子なのであるから。

 同学年であるからには、クリスティアンがヘンリーの在学中のお相手をすることになる。もちろん、アラステアとローランドも、その一端を担うことになるだろう。
 学生として留学するわけだから皆と平等に扱うというのは建前に過ぎない。不敬も不手際も不祥事もあってはならないのだ。

「ふむ。とにかく失礼のないようにしなければならぬな。国家間の友好関係に影響する」

 アルフレッドの現実的な言葉に、皆は頷く。
 四人は黙々とりんごのカスタードパイを口に運び、紅茶を飲んだ。

 その沈黙を破ったのは、ローランドだった。

「ねえ、もしかしたら、ヘンリー皇子が主人公のノエルと仲良くなって、他に迷惑がかからなくなる可能性もあるのではないかな?」
「仲良くなれれば良いがな」
「そのような希望的観測には頷けないよ」
「まず、ノエルとお話をしようと思ってくださるでしょうか?」

 美しい微笑を浮かべてローランドが口にした言葉は、皆に楽観ではなく恐れを抱かせるものだった。アルフレッドもクリスティアンもアラステアも、ローランドの方を向いて首を横に振った。

「駄目か……」

 ローランドはがっくりしながら、新しいお茶を淹れるようにと侍女に指示を出した。

 ヘンリーが隠しキャラだと決まったわけではないのだ。とにかく、無暗にノエルを近づけるわけにはいかない。
 とにかくヘンリーの留学日程と、彼が受ける授業計画を立てて、不測の事態にも対応できるようにしなければならないのだ。

 クリスティアンは、憂鬱な気持ちで淹れなおされたお茶を飲んだ。



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