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60.絶体絶命
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「ノエルはレボリューションを起こして俺をアルファにしてくれた。これでアリーと結婚することができるよ」
「アルファ……?」
「そうだよ。アリーのために俺はノエルに協力したんだ」
ノエルはエリオットの望みをかなえると言った。
ノエルには『レボリューション』を起こす力がある。
その『レボリューション』とは、ノエルと何度も体を重ねることでベータがアルファに変化することを言うのだと。
ノエルはそういう奇跡を起こすことができるのだと。
そんなことをエリオットはアラステアに説明する。
そして、エリオットはアルファになるためにノエルを何度も抱いた。その見返りとしてエリオットは、ノエルが物語を完成させるために必要だという行動ができるよう協力をした。そう、レイフをノエルに紹介し、様々なイベントのために恋人同士のように振舞った。そして、ヘンリーがノエルに執着心を持つように煽ったのだ。
それらは全てアラステアのための行動だったのだと、エリオットはアラステアを拘束したまま夢見るような表情で話し続けた。
「だからアリー、俺のものになって。ねえ、子どもの頃の約束の通りにさ。
アリー、愛してるよ。可愛いアリー」
「僕は、クリスティアン様と婚約して……」
「もともと俺と結婚するって先に約束してたじゃないか。
なあに、王族と婚約していても、俺と番ってしまえば簡単に婚約破棄できるさ。ヘンリー殿下も俺たちが仲直りするのに協力するって言ってくれているから大丈夫だ」
うっとりとした表情でそのようなことを語るエリオットを見て、アラステアは寒気がした。
アラステアの意思を尊重する気もなく、エリオットはアラステアと番おうと言っているのである。
エリオットはアラステアのためと言いながら、自分のためにノエルに従っただけだ。アラステアは、エリオットがアルファになって欲しいなどと望んだことは無い。
そもそも、エリオットがアラステアに対して近づくなと言ったのだ。
エリオットは、笑顔を浮かべながら弱弱しく抵抗するアラステアの手首に小さな湿布のようなものを貼った。
「何……?」
「アリー、可愛いアリー。俺のものだ……」
エリオットがアラステアの首元に顔を埋めてくる。アラステアは必死にそれから逃れようとするが、体がうまく動かない。
そしてアラステアの体は、熱が出る直前のように火照ってきた。
何かおかしいと思うのだが、どうしてそうなっているのかよくわからない。アラステアは以前にもこのようなことがあったような気がしていた。しかし、それがどのような状況だったのか思い出すことができない。
エリオットからは何か違和感のある匂いがする。アラステアの名前を呼ぶエリオットの吐息が首筋にかかる。
気持ち悪い。気持ち悪い。
この気持ち悪さから逃れたい。
アラステアのオメガの本能は、エリオットを完全に拒否している。
いや、それでなくても無理矢理特別室に引きずり込むようなことをされて、好ましいと考えるわけはない。
それが誰であったとしても。
「ああ、アリー、薬が効いてきたようだね。良い香りがする。これがアリーのフェロモンだね。まるで薔薇園にいるかのようだ」
「やだっ……。何をしたっ……!」
「大丈夫だよ。ちょっと発情期が起きやすくなる経皮吸収型の薬を手首に貼っただけだよ。これからアリーを気持ちよくしてあげるからね……」
アラステアは、体が火照るその感覚が発情期のものだということを思い出した。
発情促進剤を使うなどとは、オメガに対する酷い暴力だ。絶体絶命の窮地に陥ったアラステアは、その恐ろしさに全身を震わせた。
アラステアの紫色の瞳は恐怖のあまり大きく見開かれ、涙をいっぱいに貯めている。エリオットはそれを嬉し気に見つめるとその目元にキスをした。
「いやだあああああっ!」
「アリー、可愛いアリー、痛いことはしたくないから大人しくして」
エリオットは、アラステアが悲鳴を上げたことに少しばかり気を悪くしたらしい。アラステアの上着を使ってその両手を拘束し、抵抗できないようにした。
そして、エリオットはアラステアの首に手をかけると、そのネックガードを外そうとした。エリオットはアラステアと番うつもりなのだから、これはその行為の前に外さなければいけないのだ。
しかし、エリオットがぐいぐいと引っ張ったりつなぎ目を探したりするが、ネックガードが外れる気配はない。
「いやっ! 放して!」
「くそっ、このタイプのネックガードはすぐ外れるはずだってノエルが言ってたのにっ!」
エリオットは、アラステアのネックガードは薄手で華奢な作りになっているため、すぐ外れると思っていた。ノエルからもそう聞いていたのだ。しかしそのネックガードはなかなか外れない。
「ああもうっ! これは道具がいるな!」
外れないネックガードにイラついたエリオットは、鞄からナイフを取り出すためにアラステアから離れた。
エリオットが自分から離れたすきに、アラステアは周囲を見渡し、扉の位置を確認した。そして、アラステアは動きにくくなっている体を引きずって、扉の方へ這っていく。
「あっ! アリー、待て!」
「いやっ! 誰か! 誰か助けて! クリスティアン様! クリスティアン様助けてっ!」
アラステアは助けを求める声を上げながら、たどり着いた扉を叩いた。
「くそっ!」
エリオットがナイフを鞘から抜いてこちらに向かってくる気配を感じながら、アラステアは最後の力を振り絞って扉を叩き、声を上げた。
怖い。気持ち悪い。
誰か助けて。
助けを求めるアラステアの首筋に、エリオットがナイフを押し当てた。
「いやあああああああああ!」
「アラステア!」
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