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66.茶会の企画
しおりを挟むクリスティアンは、アラステアに見送られることなくラトリッジ侯爵邸から王宮へ帰った。
「わたしに会うために、無理をさせてしまったのかな……」
アラステアの祖母から体調を崩してしまったと聞いたクリスティアンは、心配に胸を痛めた。
クリスティアンは、アラステアに見舞いたいと祖母に伝えたのだが、時刻も遅いので明日以降にして欲しいと伝えられてしまっては、それ以上を求めることはできなかったのである。
アラステアは、祖母に泣いた理由を話すことはできなかった。祖母は、事件に巻き込まれたためにアラステアが精神的に不安定になっていると思っている。それ自体は間違ってはいない。そして、もともと祖母は、アラステアとクリスティアンはお互いが惹かれ合って婚約したと聞いている。したがって、まさか婚約が白紙になると思ってアラステアが落ち込んでいるなどとは、祖母には想像できないことだった。
◇◇◇◇◇
ようやく医者からの許可が出たため、アラステアは、七日ぶりに学院に向かった。学院に到着して車から降りると、ローランドが校舎へ向かう回廊から自分の方へ近づいてくるのが見えた。
アラステアは、微笑を浮かべ、自分もローランドに向かって足を進める。
「ローランド、お久しぶり……」
「アラステア! 会いたかった!」
「ローランド……」
アラステアは、高位貴族にしては表情豊かな笑顔を浮かべたローランドに強く抱きしめられた。その様子に少しばかり驚いたもののアラステアは、ローランドの気持ちにこたえるために、その背中に手をまわして抱きしめ返す。
「アラステアが無事でよかった……。本当に……」
「心配をかけて、ごめんなさい」
「次のウォルトン公爵邸の茶会に、ラトリッジ侯爵領のさくらんぼの蜜漬けを持ってきたら許してあげる」
いつものようにぎゅうぎゅうとアラステアを抱きしめるローランドから言われた言葉に、アラステアはふふと笑いを漏らした。
ラトリッジ侯爵領特産のさくらんぼを蜜漬けにしたものは、新製品として開発中の品物だ。皆で試食をしようと話をしていたのをローランドが話題にしてくれたのだと思うと、アラステアはうれしくなった。
「試作品が届いているから、次のお茶会には必ず持っていくよ」
「ふふ、うれしい」
微笑みあったアラステアとローランドは、回廊を通って教室へ向かった。
クリスティアンとアルフレッドは午前中に公務があったため、カフェテリアで待ち合わせをして合流することになっている。四人が特別室を使用できるように、護衛騎士が手配をしていた。
アラステアには、クリスティアンと会うのが気まずいという気持ちもあったが、学院の中でそのようなことは言っていられない。何しろ、まだ二人は婚約者のままなのであるのだから。そして、このまま学院に通い続けるのであれば恐らく卒業まで同じクラスで過ごさなければならないのだ。たとえ婚約がなくなるにしても良い関係を築いておいた方が良いだろう。
アラステアがただ落ち込むだけでなく、先のことを考えることができたのは、ローランドの力が大きい。アラステアは、同じオメガであり、高位貴族としての自分が目指す目標となっているローランドと接することで、落ち着きを取り戻しつつあった。
クリスティアン様が本当に好きな人と結ばれるために協力をするのは、最初からの約束だ。
アラステアは、そのことを思い出しながらローランドとともに特別室へ向かった。
クリスティアンとアルフレッドは一足早く特別室へ到着していたようで、外にいる護衛に声をかけてアラステアとローランドは中へ入る。
「アラステア! 会いたかったよ」
「クリスティアン様、先日はお見舞いに来てくださったのにお見送りもできず、申し訳ございませんでした」
「もう、体調は大丈夫なのかい?」
「ええ、医師からももう大丈夫と言われています」
クリスティアンは、丁寧に頭を下げようとするアラステアの手を握りしめて、自分の隣の席へと誘う。クリスティアンがいつものように手をつないでくれるのを、今のアラステアは嬉しく思ってはいけないと考えてしまう。しかし、つながれた手を振り払うわけにもいかないアラステアは、微笑を浮かべてクリスティアンの隣に腰を下ろした。
その間に、ローランドはさっさとアルフレッドに抱き着いて頬にキスをしてから座っている。アラステアは流石に仲が良いと思ったものの、口には出さずにいた。そして、ローランドのことが少しうらやましくもあるのだが、それを気取られてはいけないとアラステアは考えている。
クリスティアンはラトリッジ侯爵邸ではアラステアに触れることをためらっていた。しかし、ローランドとともに特別室に現れたアラステアは自然な表情をしていたため、ついクリスティアンはいつものように手を握ってしまった。それに微笑を浮かべてくれるアラステアの様子を見て安心したクリスティアンは、手をつないだまま食事が運ばれるのを待つことにする。
「我の弟は何でもできると思っていたが、不器用なところもあるようだな」
アルフレッドが呟いたその言葉は、ローランドにしか聞こえていない。
「アルフレッド様、アラステアがさくらんぼの蜜漬けをウォルトン公爵家のお茶会に持ってきてくれるそうなのです。ご都合はいつがよろしいでしょうか?」
「なるほど、それは楽しみであるな。なるべく早くウォルトン公爵邸に行けるように調整しよう。クリスティアン、それで良いな」
「はい。アルフレッド兄上、承知いたしました」
ローランドの言葉にアルフレッドとクリスティアンは笑顔で答える。それは、エリオットやヘンリーそしてノエルの行く末がアラステアとローランドに伝えられる日になるのだろう。
ローランドはそれを理解して、ウォルトン公爵邸の茶会を企画する。
アラステアは、この後の物語はどうなるのだろうかと思いながら、三人の様子を見ていた。
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