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69.義弟になるはずの二人
しおりを挟む「もう卒業式ね。いろいろなことがあったのに、なんだか一年はあっという間だったような気がする」
「そうだね。結果的には、主人公はもういないし、断罪劇は起きないだろうし、わたしは晴れ晴れとした気分だよ」
ラトリッジ侯爵邸の四阿で、アラステアとローランドは紅茶と菓子を前に語り合う。
ヘンリーがファクツ皇国に帰り、それに伴ってノエルが引き取られて行ったため、卒業パーティーでの断罪イベントはもう起きないだろう。ローランドとアルフレッドはそう考えている。しかし、クリスティアンは最後まで気を抜かない方が良いと考えて、相変わらず自分の手の者に周囲を油断なく探らせている。それは皆の知らぬことではあるのだが。
そして、アラステアは、断罪は起きないという考えと、何か起きるのではないかという不安との狭間にいた。事件の後からいつまでも不安定な様子のアラステアのことを思いやって、ローランドは二人で話をする機会を増やしている。それは、オメガ同士の方が話をしやすいだろうというローランドの配慮もあってのことだ。
今日もローランドは、アルフレッドの卒業祝いの相談をするという名目で、ラトリッジ侯爵邸を訪れている。
ラトリッジ侯爵邸のパティシエが作るココアスポンジの間に生クリームとさくらんぼの蜜漬けを挟んだケーキはローランドのお気に入りだ。今日も数ある菓子の一つとして提供されていた。
アラステアは優雅にケーキを口に運ぶローランドを見つめる。ローランドの美しい姿は、第一王子アルフレッドの伴侶として並び立つのに相応しいとアラステアは思った。そして近くにいることで、ローランドとアルフレッドは、信頼しあい、愛し合っているということを強く感じている。
「ローランド、卒業式が終わったらアルフレッド殿下と学院生活が送れなくなるね。やっぱり寂しい?」
「そうだね。寂しいという気持ちはあるかな。だけど、アルフレッド様は卒業後に立太子されることがほぼ決まっているだろう? そうなると、王子ではなく王太子の伴侶としての教育が始まるし、婚約者としての公務も増えると思う。寂しいよりも、忙しいと思うようになるのではないかな」
「そう……、そうだね。ローランドも忙しくなるのだった」
ローランドに寂しくないかと尋ねておいて、自分が寂しそうな顔をするアラステア。そんなアラステアを見たローランドは嬉しそうに微笑を浮かべた。
「ああ、アラステア可愛い。わたしが忙しくなるから寂しいと思ったのだろう?」
「え、ローランド……、いえ、寂しいなどと思ってはいけないのだけど」
「わたしがいなくても、クリスティアンがいるのだから、寂しがることはないと思うのだけれど」
「クリスティアン様は……、クリスティアン様とはそんなに一緒にいてはいけない立場になるでしょう?」
「え? どうして?」
ローランドは当然だと思って発した言葉だったが、アラステアにとってその内容は当然のことではない。小首を傾げる様子も美しいローランドの疑問に、アラステアは淡々と答える。
「卒業式が終われば……、断罪がなくなれば、僕とクリスティアン様の婚約は終わりでしょう? だから、今までのようには一緒にいられないと思うの。もちろん、同じクラスになればローランドと三人で仲良くしたいとは思うけれど、でも……」
アラステアとクリスティアンの婚約は、悪役令息が攻略対象者以外と婚約していれば断罪されないのではないかということで始まった。したがって卒業式が終われば、婚約は白紙になるものとアラステアは思っている。主人公のノエルがいなくなったため断罪はなくなったであろうが、卒業式まではこのままの関係でいようとクリスティアンも思っているだろう。しかし、その後はしかるべきときに婚約は白紙になるはずだとアラステアは思っている。
それに、あの事件の後、クリスティアンは前よりアラステアと距離を置くようになっている。もう自分とそれほど親しくしたくないのだろうとアラステアは感じているのだ。
「……何を言っているの。アラステアとクリスティアンの婚約は王家とラトリッジ侯爵家で正式に契約したものだろう? そんなに簡単に白紙にはできないよ」
「でも、クリスティアン様は、自分が好きな人と婚姻を結びたいと言っていた。
それに協力することを……、僕は約束した」
アラステアの話に驚いたローランドはその設定を打ち消そうとする。しかし、ローランドの言っていることは正論だと思いながらも、婚約直後のクリスティアンとの約束をアラステアは持ち出した。ローランドはその美しい若草色の瞳を見開いた後、小さなため息を吐いた。
「ふうん、好きな人と婚姻を結びたい、かあ」
「そう、クリスティアン様には好きな人がいらっしゃるのだから、僕が邪魔をしてはいけないのだと……、思っている」
やがて自分の義弟になるはずの二人のこじれた様子に、ローランドは自分が何とかしなければならない気持ちになった。
ローランドが言ったように王家とラトリッジ侯爵家の婚約が簡単に白紙にできるわけはない。そのようなことはわかっていてクリスティアンはアラステアに婚約を申し込んでいるのだ。アラステアもそれは理屈としてわかっていながら、白紙になるなどと言っているのだ。
クリスティアンもアラステアも実務には優秀なのに、恋愛に関しては拙すぎるのだろうか。いや、クリスティアンは明らかな好意と独占欲を示しているのだから、アラステアが鈍いのだろうか。
そのようなことを考えながらローランドは、果物が豊富に使われたラトリッジ侯爵家の菓子を口に運ぶ。
「このりんごとさくらんぼを合わせたタルトも美味だね」
「そう? お口に合って良かった。カスタードクリームにりんごのブランデーを使っているの」
アラステアに笑顔が戻ったのを見て、ローランドはほっとする。
自宅に帰ったらすぐにアルフレッドに手紙を書こう。
アラステアの可愛い笑顔を見ながら、ローランドはそう決断した。
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