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72.断罪のなくなった卒業パーティーで
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「アルフレッド様、迎えに来てくださってありがとうございます。今日はわたしが祝う立場でございますのに」
「いや、婚約者を迎えに来る栄誉は、何にも代えがたいものだよ。
このように美しいローランドと今日を過ごせる我は、幸せ者だ」
ローランドは、全身白のタキシードに黄金をより合わせて作ったような糸で刺繍を施したカマーバンドを合わせ、アルフレッドの瞳と同じ色の赤いタイとチーフを身につけている。ルビーとダイヤモンドを組み合わせた黄金の髪飾りは、ローランドの美しさを際立たせていた。
アルフレッドは、ローランドと全く揃いのタキシードに、若草色のタイとチーフを合わせている。
「アルフレッド殿下、ローランドをお願いいたします」
「うむ。それではお預かりしよう」
「お父様、お母様、行ってまいります」
ウォルトン公爵夫妻に見送られ、アルフレッドは洗練された動作でローランドをエスコートすると、王家のエンブレムが光る車に乗り込んだ。
「ローランドから書簡が来るなど、何事かと思ってしまったよ。我は美しいローランドの筆跡を見るだけで、気持ちが高揚するので良いのだが」
「わたしの義弟たちのことでございますから、少しばかり心配になってしまったのです」
アルフレッドは、ローランドが心配しているのはアラステアのことだけだということを理解している。クリスティアンは、非常に優秀な生粋のアルファだ。その彼が、自分の望むオメガを囲い込めないはずはないのだ。
婚約のときに告げたという『好きな人と添えるように協力してくれ』というクリスティアンの言葉は、アラステアに自分の伴侶になれと言ったのと同義である。しかし、アルフレッドがその言葉がそういう意味であると理解したのだとしても、アラステアはそう思わなかったのだ。クリスティアンには、他に好きな人がいるのだとアラステアが思っているのであれば、その誤解は早く解いた方が良いに決まっている。
クリスティアンからは何も聞いていないが、ラトリッジ侯爵からも何やら働きかけがあったとアルフレッドは事務官から知らせを受けている。
「クリスティアンも迂闊なことを言ったものだ。我ならば、ローランドにそのようなことを言うことはなかろうな」
「ふふ、気をもたせたかったのでしょうか。クリスティアンにも可愛らしいところがあるのですね」
アルフレッドとローランドはそのようなことを語り合って、目を合わせて微笑んだ。誤解は間もなく解けることになるだろうと思いながら。
車はもうすぐ卒業パーティーの会場へ到着する。
オネスト王立学院の卒業パーティーは、在校生と卒業生の親族がまず入場し、卒業生が入場してくるのを迎え、最後に来賓を迎えるという流れになっている。例年、来賓として訪れた国王は、すぐに退出する。また、警備上の都合で我が子を祝いに来る王妃と側妃も、短時間の滞在にとどめることになっている。
パーティーは順調に始まった。国王と王妃、側妃が退出した時点で、パーティーを運営している学院関係者と生徒会メンバーにほっとした雰囲気が見られる。警備上もあとは三人の王子に重点を絞れば良いので、負担は大きく減ることになるだろう。
三人の王子は周囲に護衛を貼り付けながら、それぞれがパーティーを楽しんでいた。
アルフレッドはローランドとともに、側近とその婚約者と談笑している。
また、レイフは多くの卒業生や在校生と会話をして、評判通りの気さくな王子殿下として明るく振舞っている。
そしてクリスティアンは、アラステアとくるくるとターンを繰り返しながらダンスを楽しんでいた。美しい二人の楽しげなダンスは、卒業パーティーに華を添えている。
「アラステア、この後で話があるのだけれど」
「……はい、わかりました」
ダンスを踊りながら真剣な顔で発せられたクリスティアンの言葉に答えたアラステアは、楽しい気持ちが一気に沈み込んでしまった。
ここには、主人公ノエルはいない。断罪も行われない。
断罪がなくなったこの卒業パーティーで、ついにクリスティアンから婚約は白紙になると告げられるのだ。
クリスティアンは、いつものように王族らしい微笑をその美しい顔に浮かべ、アラステアを見つめている。
アラステアは辛い気持ちを、高位貴族らしい微笑で隠し、クリスティアンを見つめ返した。
ここで、これほどまでに辛いことをこうして処理することができるのは、自分が成長したからだとアラステアは思う。
一年前、入学式で辛い思いをしたときにはローランドが抱きしめて慰めてくれた。しかし今日は、誰からもあのような慰めを受けることはできないのだ。
アラステアは心の中で、覚悟を決めた。
クリスティアンに腰を抱かれ、アラステアはバルコニーに出た。早い時刻からパーティーは始まったので、間もなく日が暮れきる頃の空の下部は薄っすらと茜色を残している。
次のダンスのための音楽とパーティーのざわめきが聞こえるその中で、クリスティアンはアラステアと向かい合うと、その両手をそっと握った。
「アラステア、とても大切なことを伝えたい」
「はい、クリスティアン様……」
クリスティアンの赤い瞳を、アラステアの紫色の瞳が見つめ返す。
この場で泣かないようにしなければ。
すでに目の奥が熱くなっているアラステアは、クリスティアンの言葉を受け止めるために軽く深呼吸をした。
クリスティアンが次の言葉を紡ごうと口を開く。
ぱたぱたぱたぱた
クリスティアンの言葉を待つアラステアの耳に、パーティーには不似合いな落ち着きのない足音が聞こえてきた。
それは、アラステアとクリスティアンのいるバルコニーに向かって駆けてくる足音であった。
「いや、婚約者を迎えに来る栄誉は、何にも代えがたいものだよ。
このように美しいローランドと今日を過ごせる我は、幸せ者だ」
ローランドは、全身白のタキシードに黄金をより合わせて作ったような糸で刺繍を施したカマーバンドを合わせ、アルフレッドの瞳と同じ色の赤いタイとチーフを身につけている。ルビーとダイヤモンドを組み合わせた黄金の髪飾りは、ローランドの美しさを際立たせていた。
アルフレッドは、ローランドと全く揃いのタキシードに、若草色のタイとチーフを合わせている。
「アルフレッド殿下、ローランドをお願いいたします」
「うむ。それではお預かりしよう」
「お父様、お母様、行ってまいります」
ウォルトン公爵夫妻に見送られ、アルフレッドは洗練された動作でローランドをエスコートすると、王家のエンブレムが光る車に乗り込んだ。
「ローランドから書簡が来るなど、何事かと思ってしまったよ。我は美しいローランドの筆跡を見るだけで、気持ちが高揚するので良いのだが」
「わたしの義弟たちのことでございますから、少しばかり心配になってしまったのです」
アルフレッドは、ローランドが心配しているのはアラステアのことだけだということを理解している。クリスティアンは、非常に優秀な生粋のアルファだ。その彼が、自分の望むオメガを囲い込めないはずはないのだ。
婚約のときに告げたという『好きな人と添えるように協力してくれ』というクリスティアンの言葉は、アラステアに自分の伴侶になれと言ったのと同義である。しかし、アルフレッドがその言葉がそういう意味であると理解したのだとしても、アラステアはそう思わなかったのだ。クリスティアンには、他に好きな人がいるのだとアラステアが思っているのであれば、その誤解は早く解いた方が良いに決まっている。
クリスティアンからは何も聞いていないが、ラトリッジ侯爵からも何やら働きかけがあったとアルフレッドは事務官から知らせを受けている。
「クリスティアンも迂闊なことを言ったものだ。我ならば、ローランドにそのようなことを言うことはなかろうな」
「ふふ、気をもたせたかったのでしょうか。クリスティアンにも可愛らしいところがあるのですね」
アルフレッドとローランドはそのようなことを語り合って、目を合わせて微笑んだ。誤解は間もなく解けることになるだろうと思いながら。
車はもうすぐ卒業パーティーの会場へ到着する。
オネスト王立学院の卒業パーティーは、在校生と卒業生の親族がまず入場し、卒業生が入場してくるのを迎え、最後に来賓を迎えるという流れになっている。例年、来賓として訪れた国王は、すぐに退出する。また、警備上の都合で我が子を祝いに来る王妃と側妃も、短時間の滞在にとどめることになっている。
パーティーは順調に始まった。国王と王妃、側妃が退出した時点で、パーティーを運営している学院関係者と生徒会メンバーにほっとした雰囲気が見られる。警備上もあとは三人の王子に重点を絞れば良いので、負担は大きく減ることになるだろう。
三人の王子は周囲に護衛を貼り付けながら、それぞれがパーティーを楽しんでいた。
アルフレッドはローランドとともに、側近とその婚約者と談笑している。
また、レイフは多くの卒業生や在校生と会話をして、評判通りの気さくな王子殿下として明るく振舞っている。
そしてクリスティアンは、アラステアとくるくるとターンを繰り返しながらダンスを楽しんでいた。美しい二人の楽しげなダンスは、卒業パーティーに華を添えている。
「アラステア、この後で話があるのだけれど」
「……はい、わかりました」
ダンスを踊りながら真剣な顔で発せられたクリスティアンの言葉に答えたアラステアは、楽しい気持ちが一気に沈み込んでしまった。
ここには、主人公ノエルはいない。断罪も行われない。
断罪がなくなったこの卒業パーティーで、ついにクリスティアンから婚約は白紙になると告げられるのだ。
クリスティアンは、いつものように王族らしい微笑をその美しい顔に浮かべ、アラステアを見つめている。
アラステアは辛い気持ちを、高位貴族らしい微笑で隠し、クリスティアンを見つめ返した。
ここで、これほどまでに辛いことをこうして処理することができるのは、自分が成長したからだとアラステアは思う。
一年前、入学式で辛い思いをしたときにはローランドが抱きしめて慰めてくれた。しかし今日は、誰からもあのような慰めを受けることはできないのだ。
アラステアは心の中で、覚悟を決めた。
クリスティアンに腰を抱かれ、アラステアはバルコニーに出た。早い時刻からパーティーは始まったので、間もなく日が暮れきる頃の空の下部は薄っすらと茜色を残している。
次のダンスのための音楽とパーティーのざわめきが聞こえるその中で、クリスティアンはアラステアと向かい合うと、その両手をそっと握った。
「アラステア、とても大切なことを伝えたい」
「はい、クリスティアン様……」
クリスティアンの赤い瞳を、アラステアの紫色の瞳が見つめ返す。
この場で泣かないようにしなければ。
すでに目の奥が熱くなっているアラステアは、クリスティアンの言葉を受け止めるために軽く深呼吸をした。
クリスティアンが次の言葉を紡ごうと口を開く。
ぱたぱたぱたぱた
クリスティアンの言葉を待つアラステアの耳に、パーティーには不似合いな落ち着きのない足音が聞こえてきた。
それは、アラステアとクリスティアンのいるバルコニーに向かって駆けてくる足音であった。
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