76 / 90
76.婚姻式
しおりを挟む
◇◇◇◇◇
神殿での式を前に、アラステアは純白のテイルコートを着て、レースのヴェールを被る。そしてその上には白い生花で作られた花冠がそっと載せられた。手袋も靴もすべてを白で揃えるのがオネスト王国の婚姻式の伝統だ。アラステアの衣装もその伝統を踏襲している。
「ああ、なんて美しいのかしら。ステア」
「本当に美しいわ。きっとクリスティアン殿下も惚れ直してくださるわね」
「ありがとうございます。お祖母様、お母様」
祖母と母イブリンからの称賛を受けて、アラステアは頬を染めて礼を言う。その姿も美しくて愛らしいので、母と祖母だけでなく、その場にいた侍女やメイドも思わず見惚れるほどであった。
準備が終わるころを見計らって控室を訪れた王太子の伴侶となったローランドが「こんなに可愛いアラステアを抱きしめられないなんて」と言って悔しがっていたのは、微笑ましいエピソードとして式の後に社交界で広められることとなった。
アルフレッドとローランドの婚姻式は、ローランドが学院を卒業するのを待って行われた。アラステアとクリスティアンの婚姻式は、ちょうどその半年後に行われることとなった。
アルフレッドとローランドの婚姻式は盛大なものであった。王太子が婚姻を執り行うのであるから各国から来賓が招かれ、王都でのパレードや大規模な披露宴があり、国民の間に祝賀ムードが広まった。
それに比べると、アラステアとクリスティアンの婚姻式は簡素に見えるかもしれない。もちろん、伝統あるラトリッジ侯爵家の嫡子の婚姻式であるのだから、一般的に考えればかなり豪華なものだ。
アラステアとクリスティアンの婚姻はラトリッジ侯爵家の行事となる。神殿での式も披露宴も、親族の他に、国内の主要貴族を招待して行われる。第三王子であるクリスティアンがラトリッジ侯爵家に婿入りするという形の婚姻であるので、神殿での式には親族である国王と王妃、王太子とその伴侶、第二王子とその伴侶が参列し、披露宴には王太子とその伴侶、そう、アルフレッドとローランドが参加することになっている。
婚姻式のためにアラステアが向かう神殿の扉が開かれる。神の前でクリスティアンと愛を誓うのだと思うと、アラステアの心は高揚した。今まで生きてきた中で、一番気高く、美しく、そして優雅に見えるようにと背筋を伸ばしてアラステアは歩を進める。その視線の先には、誰よりも愛する美しいアルファが立っていた。
神殿でアラステアを迎えたクリスティアンは、その美しさと愛らしさに心が躍った。もちろん、傍目には式に相応しい優美な笑顔を浮かべているように見えているのだが。
あの入学式の日にクリスティアンが出会った悪役令息となる予定のオメガは、ローランドに抱きしめられていてとても頼りなく儚げに見えた。こんな悪役令息はいないだろうとクリスティアンは一目見て思った。クリスティアンは、あの日アラステアに恋をした。後々になってから、一目惚れをしたということに気づくのだけれども。
ローランドがアラステアを気に入ってしまったため、悪役令息として断罪されないようにともに行動することになったのは、クリスティアンにとっても僥倖であった。
そして今日、アラステアはクリスティアンの伴侶になる。アラステアが発情期ではないため、今日の時点ではクリスティアンとは番になれない。そもそもオメガの婚姻式は、発情期が訪れないように計画をし、用心のためにコントロールをするものだ。しかし、クリスティアンはアラステアを自分のオメガにすることができると思って、常になく浮かれている状態だといって差し支えないだろう。それも、愛しいオメガを前にしたアルファの本能なのかもしれないが。
「アラステア、今日は一段と美しい」
「クリスティアン様も、素敵です」
クリスティアンがアラステアの手を取り、顔を寄せて囁く。アラステアはそれに笑顔で言葉を返した。アラステアは神殿に入って来た時には、ひどく緊張していた。しかし、クリスティアンの手に触れた途端、笑顔になれるほどに緊張を解くことができたのだ。それは、愛するアルファのフェロモンによる効果であるのかもしれない。
二人の幸せに溢れた表情に、式の参列者たちも笑顔になる。
両脇に参列者が並ぶ神の前に続く回廊を、二人は手を取り合って進む。祭壇の前に立つ神官長も、心なしか微笑まし気な表情であるように見える。
神官長の寿ぎを受けてアラステアとクリスティアンはお互いを伴侶と認め、永遠を誓う。
クリスティアンはアラステアのベールをつまむと上に引き上げ、その顔を露わにする。うっすらと頬を染め、紫色の瞳を潤ませているアラステアの様子に幸福感を憶えながら、クリスティアンは顔を近づける。アラステアの桃色に色づいた唇に、クリスティアンは自分の唇を重ねた。クリスティアンはそのままアラステアの唇を少し食んだあと、名残惜し気に唇を離した。
「アラステア、愛している……」
その言葉を聞いたアラステアは、クリスティアンの顔を見つめて一粒の涙を零すと、黙って頷いた。
神の前で生涯の愛を誓った美しい二人は、祭壇に礼をすると踵を返し、参列者たちからの祝福を受けて花を浴びせられながら回廊を通り、神殿を後にする。
「アラステア、これからはずっと一緒だ。二人で幸せになろう」
「はい、クリスティアン様。一生ともに……」
アラステアとクリスティアンは身を寄せて微笑みあう。空は青く晴れ渡り、まるで二人を祝福しているかのようであった。
神殿での式を前に、アラステアは純白のテイルコートを着て、レースのヴェールを被る。そしてその上には白い生花で作られた花冠がそっと載せられた。手袋も靴もすべてを白で揃えるのがオネスト王国の婚姻式の伝統だ。アラステアの衣装もその伝統を踏襲している。
「ああ、なんて美しいのかしら。ステア」
「本当に美しいわ。きっとクリスティアン殿下も惚れ直してくださるわね」
「ありがとうございます。お祖母様、お母様」
祖母と母イブリンからの称賛を受けて、アラステアは頬を染めて礼を言う。その姿も美しくて愛らしいので、母と祖母だけでなく、その場にいた侍女やメイドも思わず見惚れるほどであった。
準備が終わるころを見計らって控室を訪れた王太子の伴侶となったローランドが「こんなに可愛いアラステアを抱きしめられないなんて」と言って悔しがっていたのは、微笑ましいエピソードとして式の後に社交界で広められることとなった。
アルフレッドとローランドの婚姻式は、ローランドが学院を卒業するのを待って行われた。アラステアとクリスティアンの婚姻式は、ちょうどその半年後に行われることとなった。
アルフレッドとローランドの婚姻式は盛大なものであった。王太子が婚姻を執り行うのであるから各国から来賓が招かれ、王都でのパレードや大規模な披露宴があり、国民の間に祝賀ムードが広まった。
それに比べると、アラステアとクリスティアンの婚姻式は簡素に見えるかもしれない。もちろん、伝統あるラトリッジ侯爵家の嫡子の婚姻式であるのだから、一般的に考えればかなり豪華なものだ。
アラステアとクリスティアンの婚姻はラトリッジ侯爵家の行事となる。神殿での式も披露宴も、親族の他に、国内の主要貴族を招待して行われる。第三王子であるクリスティアンがラトリッジ侯爵家に婿入りするという形の婚姻であるので、神殿での式には親族である国王と王妃、王太子とその伴侶、第二王子とその伴侶が参列し、披露宴には王太子とその伴侶、そう、アルフレッドとローランドが参加することになっている。
婚姻式のためにアラステアが向かう神殿の扉が開かれる。神の前でクリスティアンと愛を誓うのだと思うと、アラステアの心は高揚した。今まで生きてきた中で、一番気高く、美しく、そして優雅に見えるようにと背筋を伸ばしてアラステアは歩を進める。その視線の先には、誰よりも愛する美しいアルファが立っていた。
神殿でアラステアを迎えたクリスティアンは、その美しさと愛らしさに心が躍った。もちろん、傍目には式に相応しい優美な笑顔を浮かべているように見えているのだが。
あの入学式の日にクリスティアンが出会った悪役令息となる予定のオメガは、ローランドに抱きしめられていてとても頼りなく儚げに見えた。こんな悪役令息はいないだろうとクリスティアンは一目見て思った。クリスティアンは、あの日アラステアに恋をした。後々になってから、一目惚れをしたということに気づくのだけれども。
ローランドがアラステアを気に入ってしまったため、悪役令息として断罪されないようにともに行動することになったのは、クリスティアンにとっても僥倖であった。
そして今日、アラステアはクリスティアンの伴侶になる。アラステアが発情期ではないため、今日の時点ではクリスティアンとは番になれない。そもそもオメガの婚姻式は、発情期が訪れないように計画をし、用心のためにコントロールをするものだ。しかし、クリスティアンはアラステアを自分のオメガにすることができると思って、常になく浮かれている状態だといって差し支えないだろう。それも、愛しいオメガを前にしたアルファの本能なのかもしれないが。
「アラステア、今日は一段と美しい」
「クリスティアン様も、素敵です」
クリスティアンがアラステアの手を取り、顔を寄せて囁く。アラステアはそれに笑顔で言葉を返した。アラステアは神殿に入って来た時には、ひどく緊張していた。しかし、クリスティアンの手に触れた途端、笑顔になれるほどに緊張を解くことができたのだ。それは、愛するアルファのフェロモンによる効果であるのかもしれない。
二人の幸せに溢れた表情に、式の参列者たちも笑顔になる。
両脇に参列者が並ぶ神の前に続く回廊を、二人は手を取り合って進む。祭壇の前に立つ神官長も、心なしか微笑まし気な表情であるように見える。
神官長の寿ぎを受けてアラステアとクリスティアンはお互いを伴侶と認め、永遠を誓う。
クリスティアンはアラステアのベールをつまむと上に引き上げ、その顔を露わにする。うっすらと頬を染め、紫色の瞳を潤ませているアラステアの様子に幸福感を憶えながら、クリスティアンは顔を近づける。アラステアの桃色に色づいた唇に、クリスティアンは自分の唇を重ねた。クリスティアンはそのままアラステアの唇を少し食んだあと、名残惜し気に唇を離した。
「アラステア、愛している……」
その言葉を聞いたアラステアは、クリスティアンの顔を見つめて一粒の涙を零すと、黙って頷いた。
神の前で生涯の愛を誓った美しい二人は、祭壇に礼をすると踵を返し、参列者たちからの祝福を受けて花を浴びせられながら回廊を通り、神殿を後にする。
「アラステア、これからはずっと一緒だ。二人で幸せになろう」
「はい、クリスティアン様。一生ともに……」
アラステアとクリスティアンは身を寄せて微笑みあう。空は青く晴れ渡り、まるで二人を祝福しているかのようであった。
1,623
あなたにおすすめの小説
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます
藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。
それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。
それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で……
4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる