攻略対象の婚約者でなくても悪役令息であるというのは有効ですか

中屋沙鳥

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88.夢を見ている

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◇◇◇◇◇


「こうして、みんなでお茶会をするのも久しぶりだね」

 ローランドの声音があまりにうれしそうだったので、アラステアは頬を緩めた。
 王太子宮のソラリウムで開かれた茶会はローランドが主催だ。王太子の伴侶が主催であるといっても、アラステアの他にはクリスティアンとアルフレッドしか招待されていない。そう、かつてウォルトン公爵邸でたびたび開催されていた茶会の出席者と同じ顔ぶれである。
 アラステアとローランドは時々二人で会っているし、クリスティアンとアルフレッドは仕事でよく顔を合わせている。しかし、一方は王の後継者であり、もう一方はラトリッジ侯爵の後継者なのである。婚姻を結んでからは、その立場を確立するための業務が多忙であったため、四人で集まる機会を持つことはできていなかった。

「うむ。我がアラステアと顔を合わせるのは、夜会や公式茶会ばかりであったから近しく話すのは久しぶりだ。その様子では、後継者としての執務も落ち着いてきたようだな」
「はい、アルフレッド殿下にお会いできてうれしく思います。我が領を僕の代で衰退させることのないよう、心して務めます」

 アルフレッドが優し気に話しかけてくれることもうれしくて、アラステアは明るい声でそれに応える。そう、今のアラステアに大きな憂いはない。もちろんこれからも、何が起きても乗り越えていかなければならないという気持ちを、アラステアは持っている。

「兄上、アラステアはわたしが支えていきます。ラトリッジ侯爵領を更に繁栄させるとお約束しましょう」

 クリスティアンはアラステアの手を握り、アルフレッドに笑顔を向けた。
 ローランドはその笑顔が腹黒いと思ったのだが、口には出していない。ローランドにすればクリスティアンがどれだけ腹黒かろうと、可愛いアラステアが幸せであれば良いのだ。それを思えば、クリスティアンほどアラステアを守るのに適した人物はいないだろう。
 攻略対象の婚約者でなければ悪役令息にならなくてすむのではないかなどと唆して、アラステアを囲い込んだクリスティアンの手腕は見事だったとローランドは思う。

 主人公ノエルもヘンリーもいなくなった。『コイレボ』の物語は終わった。いや、最初からこの世界は『コイレボ』とは関係なかったのかもしれない。
 いずれにしても、アラステアを傷つけた者はもういないのだ。

 ローランドは彼らを片付けるのにクリスティアンが暗躍していたのだろうと考えている。しかしその真実を探る必要はない。ローランドは王太子の伴侶として、知らなければならないことと知らなくて良いことを切り分けて生きていく。オネスト王国の繁栄のために。そして、自分たちの、この四人でこうして幸せに過ごすひとときのために。

「さあ、堅苦しいことはそれぐらいにして、アラステアが前もって届けてくれたラトリッジ侯爵領のりんごの蜜漬けや特産品で作ったお菓子を味わおうよ」
「そうだな。いただこう」

 アルフレッドの了承を確認したローランドの指示により、侍女たちがそれぞれに菓子を供する。蜜漬けりんごを使ったムースや、りんごにチョコレートを纏わせた小さな菓子、さくらんぼのタルトなど、とりどりの菓子が並ぶ。ミルフィーユに使用されているバターと生クリームは、ラトリッジ侯爵領の最高級品だ。

「美味しい。今回は新しい試みがあったの?」
「今回は、りんごのブランデーの質が良かったの。香りが全然違うでしょう?」
「いや、本当に美味であるな。素晴らしい」
「まあ、現ラトリッジ侯爵とラトリッジ侯爵領の職人の手柄だけれどね」

 ローランドとアルフレッドが、ラトリッジ侯爵領の農産物や加工品を絶賛してくれる。その喜びを確かめるようにアラステアはクリスティアンの赤い瞳に自らの紫の瞳を合わせ、微笑んだ。

 アラステアはこうして、クリスティアンとともに生きていくのだ。

 ラトリッジ侯爵領を繁栄させ、国家にも利益をもたらす。それは高位貴族として生まれた以上、義務として行わなければならないことだ。
 しかし、アラステアはこの世界で義務だけに縛られているわけではない。アラステアが貴族として相応しい行動を取ることが、大好きなローランドとアルフレッドのためにもなる。
 そして何より、愛するクリスティアンとともに幸せな生活を送ることができるのだ。

 アラステアは、夢を見ている。
 大切な番。愛するクリスティアンとともに、幸せな未来を築いていく夢を。

 それは、自らの力によって現実にしていくことができる夢なのだ。
 
 


 【完】


★★★★★

 読んでくださった皆様に感謝いたします。
 これからはゆるゆると番外編を投稿していく予定です。
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