88 / 90
88.夢を見ている
しおりを挟む◇◇◇◇◇
「こうして、みんなでお茶会をするのも久しぶりだね」
ローランドの声音があまりにうれしそうだったので、アラステアは頬を緩めた。
王太子宮のソラリウムで開かれた茶会はローランドが主催だ。王太子の伴侶が主催であるといっても、アラステアの他にはクリスティアンとアルフレッドしか招待されていない。そう、かつてウォルトン公爵邸でたびたび開催されていた茶会の出席者と同じ顔ぶれである。
アラステアとローランドは時々二人で会っているし、クリスティアンとアルフレッドは仕事でよく顔を合わせている。しかし、一方は王の後継者であり、もう一方はラトリッジ侯爵の後継者なのである。婚姻を結んでからは、その立場を確立するための業務が多忙であったため、四人で集まる機会を持つことはできていなかった。
「うむ。我がアラステアと顔を合わせるのは、夜会や公式茶会ばかりであったから近しく話すのは久しぶりだ。その様子では、後継者としての執務も落ち着いてきたようだな」
「はい、アルフレッド殿下にお会いできてうれしく思います。我が領を僕の代で衰退させることのないよう、心して務めます」
アルフレッドが優し気に話しかけてくれることもうれしくて、アラステアは明るい声でそれに応える。そう、今のアラステアに大きな憂いはない。もちろんこれからも、何が起きても乗り越えていかなければならないという気持ちを、アラステアは持っている。
「兄上、アラステアはわたしが支えていきます。ラトリッジ侯爵領を更に繁栄させるとお約束しましょう」
クリスティアンはアラステアの手を握り、アルフレッドに笑顔を向けた。
ローランドはその笑顔が腹黒いと思ったのだが、口には出していない。ローランドにすればクリスティアンがどれだけ腹黒かろうと、可愛いアラステアが幸せであれば良いのだ。それを思えば、クリスティアンほどアラステアを守るのに適した人物はいないだろう。
攻略対象の婚約者でなければ悪役令息にならなくてすむのではないかなどと唆して、アラステアを囲い込んだクリスティアンの手腕は見事だったとローランドは思う。
主人公ノエルもヘンリーもいなくなった。『コイレボ』の物語は終わった。いや、最初からこの世界は『コイレボ』とは関係なかったのかもしれない。
いずれにしても、アラステアを傷つけた者はもういないのだ。
ローランドは彼らを片付けるのにクリスティアンが暗躍していたのだろうと考えている。しかしその真実を探る必要はない。ローランドは王太子の伴侶として、知らなければならないことと知らなくて良いことを切り分けて生きていく。オネスト王国の繁栄のために。そして、自分たちの、この四人でこうして幸せに過ごすひとときのために。
「さあ、堅苦しいことはそれぐらいにして、アラステアが前もって届けてくれたラトリッジ侯爵領のりんごの蜜漬けや特産品で作ったお菓子を味わおうよ」
「そうだな。いただこう」
アルフレッドの了承を確認したローランドの指示により、侍女たちがそれぞれに菓子を供する。蜜漬けりんごを使ったムースや、りんごにチョコレートを纏わせた小さな菓子、さくらんぼのタルトなど、とりどりの菓子が並ぶ。ミルフィーユに使用されているバターと生クリームは、ラトリッジ侯爵領の最高級品だ。
「美味しい。今回は新しい試みがあったの?」
「今回は、りんごのブランデーの質が良かったの。香りが全然違うでしょう?」
「いや、本当に美味であるな。素晴らしい」
「まあ、現ラトリッジ侯爵とラトリッジ侯爵領の職人の手柄だけれどね」
ローランドとアルフレッドが、ラトリッジ侯爵領の農産物や加工品を絶賛してくれる。その喜びを確かめるようにアラステアはクリスティアンの赤い瞳に自らの紫の瞳を合わせ、微笑んだ。
アラステアはこうして、クリスティアンとともに生きていくのだ。
ラトリッジ侯爵領を繁栄させ、国家にも利益をもたらす。それは高位貴族として生まれた以上、義務として行わなければならないことだ。
しかし、アラステアはこの世界で義務だけに縛られているわけではない。アラステアが貴族として相応しい行動を取ることが、大好きなローランドとアルフレッドのためにもなる。
そして何より、愛するクリスティアンとともに幸せな生活を送ることができるのだ。
アラステアは、夢を見ている。
大切な番。愛するクリスティアンとともに、幸せな未来を築いていく夢を。
それは、自らの力によって現実にしていくことができる夢なのだ。
【完】
★★★★★
読んでくださった皆様に感謝いたします。
これからはゆるゆると番外編を投稿していく予定です。
1,656
あなたにおすすめの小説
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます
藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。
それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。
それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で……
4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる