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番外編
可愛い義弟 ~ローランド~
しおりを挟むローランド・ウォルトンはウォルトン公爵家の次男で、オネスト王国王太子アルフレッドの婚約者だ。
幼馴染で従兄弟でアルファのアルフレッドとは、ローランドがオメガだと診断されたときに婚約が結ばれた。しかし、ローランドと同い年の第三王子クリスティアンが同時期にアルファの診断をされたのちに奇妙なことを言いだしたのだ。「ローランドが悪役令息というものになるかもしれない」と。クリスティアンが語る先見とも妄想ともつかないような話には、現実と合致している部分があり、ローランドの不安を掻き立てた。
ローランドはアルフレッドが自分以外を愛するのなら、それを排除しようとするのは当然のことだと思う。しかし、自分がクリスティアンが話すような稚拙な虐めをするとは考えられない。
アルフレッドはクリスティアンの話を聞いて「予防措置だ」などと言いながらレイフの婚約者であるベアトリスを留学させたり、攻略対象者であるジェラルド・コートネイに接触したりするなどの工作をしていた。クリスティアンも何やら画策しているようだが、それはローランドの与り知らぬところである。
ローランドは実のところ何もしていない。そう、ローランドは、ただアルフレッドから愛されていることを信じているだけで良いのだ。それだけで悪役令息にはならないのであるから。
「お隣の席、失礼いたします」
「はい、どうぞお座りください」
クリスティアンが話す「物語」が始まる入学式の日、ローランドは一人のオメガの少年と出会うことになる。美しいのに垢抜けない様子の彼は、プラチナブロンドに紫色の瞳というもう一人の悪役令息の特徴を兼ね備えていた。
エリオット・ステイシー伯爵令息に婚約者ヅラをして纏わりつくアリー・コートネイ伯爵令息。主人公に幼稚な虐めを繰り返し、破滅していく少年。
しかし彼はアラステア・ラトリッジと名乗り、純粋な笑顔をローランドに見せた。
その時になって、アルフレッドがジェラルドに接触したのは、アリー・コートネイ伯爵令息という存在を消すためだったのだということが、そしてその計画が成功したのだということがローランドにはわかったのだ。
実際に話をしてみると、アラステアは可愛らしくて純粋でしかも賢い。ローランドは入学式の間の短い接触で好感を持った。
入学式の後でエリオット・ステイシーに話しかけ、酷い言葉を返されたアラステア。その華奢な身体を抱きしめて慰めたローランドは決意した。
アラステアを悪役令息にするなんてあり得ない。絶対に阻止して見せると。
それからローランドは、アラステアに高位貴族としての振る舞いを叩き込んだ。祖母であるラトリッジ侯爵夫人からも教育を受けているアラステアは、みるみるうちに美しい所作を身につけた。外見も磨き上げられたアラステアが、侯爵家の嫡子として相応しくないという評価を受けることはない。
そう、入学式の日のように、ローランドとクリスティアンとともにいるアラステアを身の程知らずだと笑う者はもういないのだ。
「クリスティアンはアラステアに夢中のようだな」
「ふふ、やはりそうなのですね。これは二人を結び付けなければ」
「そうだな、ラトリッジ侯爵家であれば、家柄も王家の婿入り先として申し分ない。国王陛下を説得するのは簡単であろう」
ローランドは王宮での伴侶教育の後にアルフレッドとお茶を飲みながらそのような話をした。
「クリスティアンだけでなく、アラステアもわたしの義弟になると想像するだけでうっとりいたします」
ローランドは麗しい笑顔を浮かべながら、四人で過ごす将来を語る。アルフレッドとクリスティアンとともに過ごすだけでなく、アラステアが自分の義弟となる幸せな将来を。
そんな婚約者を、アルフレッドは微笑まし気に見つめた。
そして、クリスティアンはアラステアと婚約を結び、ローランドの物語は幸福に彩られて進んだ。
そう、クリスティアンが危惧していた婚約破棄は起きなかったし、ローランドもアラステアも破滅することはなかったのだ。
「ローランド、お兄様がサウスウインズ王国からレモンとオレンジをたくさん買ってきてくれたの。フレッシュのオレンジとレモンジュースで作ったカスタードをお土産に持ってきたから、お茶会で食べましょう」
もうすぐ義弟になるアラステアは、ウォルトン公爵邸のお茶会でローランドに微笑を向ける。
ウォルトン公爵邸でお茶会を開くことができるのも数えるほどのことだろう。もうすぐローランドはアルフレッドと婚姻を結ぶのだ。しかし、アラステアとは王太子宮でまたお茶会ができるだろうと思っている。
なんと言っても、アラステアはローランドの義弟になるのである。クリスティアンに独り占めさせる気はない。
「ジェラルド殿の持ち帰るものは、いつも貴重品だね。食べるのが楽しみだ」
「うふふ。たくさん持ってきたから、お父様やお母様にも召し上がっていただけると嬉しいです」
幸せそうに微笑むアラステアを見て、ローランドは満足気に頷く。
可愛い可愛い義弟。アラステアには幸せがよく似合う。
もちろん、ローランドも幸せだ。
愛しい婚約者と、可愛くはないが優秀な義弟と、可愛い義弟に囲まれているのだから。
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すごく面白かったです!
何回読んでも面白いです
また、素晴らしい作品をよろしくお願いします
感想をくださってありがとうございます。
何回も読んでいただけるなんて光栄です。
これからも創作活動を頑張ります。
お久しぶりです。
良いな〜こんなお兄様欲しいなぁ。
感想をくださってありがとうございます。
番外編まで間が空いてしまってすみませんでした。
完結おめでとうございます!!
素敵なお話を、ありがとうござましたー!
展開にハラハラドキドキしながら読ませていただきましたー!
とても楽しかったです!
番外編も楽しみにしておりますー!
感想をくださってありがとうございます。
楽しんでいただけたのでしたらわたしにとっても僥倖です。
番外編、頑張りますのでお楽しみに!