44 / 53
43.黒い感情
しおりを挟む謹慎中のシャルルは、国王の私室に呼び出された。
謹慎が解けるのだろうかと思ったものの、私室ということであれば、正式な通達などではないだろうと思いなおした。
謹慎中のシャルルは、静かに自分の部屋で過ごしていた。卒業パーティーの後には、心が空っぽになってしまったと思っていたが、数か月も立てば様々なことを学びなおそうという意欲も戻ってきていた。王子としての執務も徐々にもとに戻ってきている。余程のことがない限り立太子することは難しいだろうが、兄としてアルチュールを支え、いずれは臣籍降下していくのだろうと考えている。
今のシャルルには、中庭を散歩することぐらいしか外に出ることは許されていないため、長い距離の廊下を歩くことすらしばらくぶりのことであった。
「シャルル、久しいのう。座るがよい」
「国王陛下にはご機嫌麗しゅう」
「いや、この場では父と呼んでよい。お前の父親として、母親の話をするためにこの場を設けたのであるからな」
「……母上の?」
シャルルが力なく語る国王の顔を改めて見ると、心なしか窶れている感が否めない。自分が父親である国王に負担をかけてしまった自覚はある。そして王妃を北の離宮へ送らなければならなかったのだから、この数か月は大変だっただろうとシャルルにも推察できる。
しかし、改めて王妃のことで話があるとは何なのだろうか。それも、私室へ招いて話すこととは……
シャルルは、次の言葉を待って国王の顔を見つめた。
国王は、少しの時間黙り込んでいたが、意を決したように口を開く。
「シャルル、王妃は間もなく病で身罷ることになった」
「え……?」
「その前に一目会っておきたいという希望はあるか?」
シャルルとて王族だ。北の離宮へ移送された王族が病で亡くなるということの意味は、わかっている。
王妃は、生涯を北の離宮で過ごすことに決まっていた。過酷な環境であるため北の離宮へ送られた王族は短命であったが、北の塔へ幽閉されるより幾分か命を長らえさせることができる場所のはずだった。
「いえ、希望いたしません。今更……、会ったとて何になりましょうか」
シャルルは、自分が立太子できなくなったことは己の行動によるものだと思ってはいる。しかし、王妃があのように立ち回らなければ、ここまで酷い事態にならなかったのではないかとシャルルは思っていた。
そして、北の離宮にいる王妃から送られてきた手紙に、自分の罪を認めず贅沢品ばかりをねだる内容ばかりが書かれていたことも、シャルルが王妃を精神的に切り離してしまう要因にはなっていた。
「そうか、そうだな。会わない方が良いかもしれん」
国王は頷きながらそう言うと、供されていた紅茶を一口飲んで、話を続けた。
「シャルルが面会を望まないのであれば、三日後に王妃は病で身罷ることになるだろう。発表した後は速やかに葬儀を行い一年間の喪に服する」
「父上、最初からその予定だったのでしょうか……?」
「いや、王妃が大人しくしていれば、そのまま静かに離宮に置いておく予定であった」
「……まさか」
国王は、その立場に相応しくない大きなため息を吐くと、シャルルから目を反らして、息子の知らない母親の所業を語り始めた。
シャルルは、北の離宮へ閉じ込められてもフロレルを傷つけたいという気持ちを手放さない王妃の執念に愕然とした。
その黒い感情は、いったいどこから来るものなのか。
そして、面会を求めなかった自分の判断を正しいと思った。
「父上、どうして母上はフロレルをそんなに憎んでいたのでしょうか……」
「オメガなのに優秀で美しかったからであろうな。卒業パーティーの後に王妃に聞いてもそれしか答えはなかった」
「それは理不尽では」
「そうだな」
シャルルは、理不尽と口にしてから自分もそうだったのではないかとふと思った。美しくて賢かったフロレル。学園に入る前にはそれほど関係が悪くなかったのに、どうして疎ましく思うようになってしまったのか。
学園でもフロレルは素晴らしい成績を上げていた。シャルルは、アントワーヌやカミュが自分より成績が良いことには喜んでいたが、フロレルの成績については不満に思っていたのではないか。
そう、シャルルとフロレルの能力差が学園の成績発表によって、可視化されたのだ。
優秀な伴侶を得ることに満足するのではなく、オメガであるのにアルファである自分よりも優秀であることが不満だったのではないか。
王妃の執念深いフロレルへの憎しみと同じものが、シャルルの中にもあったのではないか。
シャルルはそのことに思い至り、自分自身の黒い感情に愕然とした。
おそらく王妃から刷り込まれたオメガ蔑視の感情が、シャルルの内側にあったのであろう。
これからのことを少し話してから、シャルルは国王の私室から辞した。
去り際に、ふと疑問に思ったことをシャルルは口にする。
「それにしても、病死までの期間が短いようにも思うのですが……」
「お前は、ショコラ公爵がこれ以上黙っていると思うのか?」
シャルルは国王の答えに黙り込む。
その様子を見た国王は、シャルルは王の器ではなかったと静かに愛する息子のことを諦めた。
「いずれにしても母親があれでは立太子はできぬが……」
国王が独り呟いたことは誰の耳にも届くことはなかった。
473
あなたにおすすめの小説
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
王女が捨てた陰気で無口で野暮ったい彼は僕が貰います
卯藤ローレン
BL
「あなたとの婚約を、今日この場で破棄いたします!」――王宮の広間に突然響いた王女の決別宣言。その言葉は、舞踏会という場に全く相応しくない地味で暗い格好のセドリックへと向けられていた。それを見ていたウィリムは「じゃあ、僕が貰います!」と清々しく強奪宣言をした。誰もが一歩後ずさる陰気な雰囲気のセドリック、その婚約者になったウィリムだが徐々に誤算が生じていく。日に日に婚約者が激変していくのだ。身長は伸び、髪は整えられ、端正な顔立ちは輝き、声変わりまでしてしまった。かつての面影などなくなった婚約者に前のめりで「早く結婚したい」と迫られる日々が待っていようとは、ウィリムも誰も想像していなかった。
◇地味→美男に変化した攻め×素直で恐いもの知らずな受け。
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
ノーマルの俺を勝手に婚約者に据えた皇子の婚約破棄イベントを全力で回避する話。
Q矢(Q.➽)
BL
近未来日本のようでもあり、中世の西洋のようでもある世界。
皇国と貴族と魔力が存在する世界。
「誰が皇子と婚約したいなんて言った。」
過去に戻った主人公が、自分の死を回避したいが故に先回りして色々頑張れば頑張るほど執着されてしまう話。
同性婚は普通の世界。
逃げ切れるかどうかは頑張り次第。
※
生温い目で優しく暇潰し程度にご覧下さい。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる