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10.神子の定義は違わないようです
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光魔法の魔力を浴びた疑似魔獣はふらふらと立ち上がると、シモンに目を合わせた。
「魔獣さん、けがが治ってよかったね! これから大人しくしてくれるよね?」
シモンがにこにこと微笑みながら、甲高い声を上げて立ち上がる。
疑似魔獣はシモンに目を合わせると、唸り声を上げながら歯をむき出した。よだれが顎を伝って、地面に滴り落ちる。
疑似魔獣が示しているのは、明らかな威嚇行動だ。しかも、興奮しきった状態だ。
そして、どうやらシモンは、逃げることが頭にないようだ。自分は、魔獣を操れると心の底から思っているのだろう。シモンの物語では、そうだったのかもしれないが。
これは……、とてもよくない状況だと思われる。
フィンク先生がシモンに走り寄るのを確かめながら、僕は、疑似魔獣に向かって駆け出した。
疑似魔獣は腕を大きく振りかぶると、鋭い爪を向けてシモンを薙ぎ払った。間一髪でフィンク先生がシモンを突き飛ばし、長剣で魔獣の爪を払って攻撃を躱す。
「くっそ! とどめを刺す邪魔をしやがって!」
「どうして、魔獣さん! 僕の言うことがわからないの?」
「うるせえっ! レヒナーは黙っとけ! こいつは、お前の言うことなんざわかってねえからよ!」
フィンク先生のお口が、いつもよりさらに悪くなっていらっしゃる。
とどめを刺す邪魔をされたのだから、お気持ちはお察しするけれど。
しかし、シモンはまだ魔獣と心が通じると思っているようだ。あれほど威嚇されたうえに攻撃をされたのに、それがわからないのだろうか。
「はあっ!」
マルティン様が、疑似魔獣の後ろに回って、掛け声とともに背中に長剣を突き刺していらっしゃるのが見えた。どうやら疑似魔獣の傷口は、完全にふさがっているわけではないようだ。マルティン様は、その場所を狙っていらっしゃるようだ。
マルティン様が疑似魔獣と接近して戦闘中なので、氷魔法で凍らせる方法は取れない。マルティン様を巻き込んでしまうからだ。
近くまで行くしかない。
フィンク先生が僕の姿を確認なさってから、シモンを抱え上げて生徒が避難している方へ向かう。
格納庫の対応をしていた先生方も、こちらへ向かっていらっしゃるのが見える。
しかし、応援がたどり着く前に、かたはついた。
マルティン様は疑似魔獣に突き刺した長剣を押し上げるようにしてうなじから後頭部を切り裂いたのだ。すごい膂力だ。素晴らしい。
疑似魔獣は大きな音を立てて、地に倒れていく。
「はあっ、やっと倒れてくれた」
「マルティン様、お疲れさまでした」
その場の処理は先生たちに任せて、僕はラインハルト様のもとへ戻る。ラインハルト様は、美しい笑顔で僕を迎えてくださった。
「ラファエル、よくやったね。さすがわたしの婚約者だ」
「ありがとうございます」
ラインハルト様は、礼を取ろうとする僕の腕を引っ張ると、そのまま腕の中へ抱え込んで頭を撫でてくださった。
人前でこんなことと思いながらも、疲れている僕は、黙ってラインハルト様の腕に抱かれていた。ラインハルト様の温かさで、戦闘で興奮していた精神が鎮静化していく。
僕をこんな風にねぎらってくださるなんて。ラインハルト様は、本当にお優しくていらっしゃる。
「悪役令息が! ラファエルが、僕の魔獣さんたちを殺したああああああ! 僕が神子になって導くはずだったのにい!」
「うるさい! メービウスとアイヒベルガーに助けてもらったくせに何を言うか!」
シモンの甲高い叫び声と、フィンク先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
もしかしたら、これも断罪するときの罪状になるのかもしれない。
疑似魔獣を退治したら悪役令息と呼ばれるとは、予想外だ。物語の流れでは、僕は立派にお役目を果たしたといえるのだろう。
「レヒナー男爵令息は、どうして魔獣と交流できると思ったのでしょうか……」
「ああ、どうしてだろうな」
ディートフリート様が、不思議そうにつぶやかれる。
この世界の神子は、魔獣と交流できるわけではない。前世の記憶はこの物語のものしかないのだけれど、もしかしたら前世の世界には魔獣と交流できる神子がいたのだろうか。
いや、そうかもしれない。
「ディートフリート、アルブレヒト、彼の行動はあまり深く考えない方がいい。グスタフからもいろいろ聞いているけれどな……」
マルティン様の何とも言えない顔を見て、ディートフリート様と口を開きかけたアルブレヒト様は沈黙なさった。
いったいシモンは、どのような行動をしているのだろうか。そちらも気になることではある。
その日の授業は、すべてキャンセルになった。僕たちは、学校側からの聞き取りを受けてから、順次帰ることになる。
今回の事件で、レーネが重度の打撲、グスタフも打撲や擦り傷があったが、いずれも治療魔術師の治療によって、回復しており、療養を要するほどの大きなけがはなかった。疑似魔獣が暴れていた様子を考えれば、被害は軽かったのではないだろうか。
事件後については、どちらかというと、学校側のダメージの方が大きくなった。ケスナー子爵が、学校に正式な抗議の申し入れをされることとなったからだ。
ケスナー子爵にしてみれば、もっと早い段階で学校側が戦闘を中断させていれば、レーネがあれほどのけがを負わなくてすんだのではないかという思いがあるからだ。現状は治療魔術師によって回復していても、体にダメージが残る不安がなくなるわけではない。レーネの今後に影響があるかもしれないのだ。
疑似魔獣の凶暴化の原因とその責任についての追及は、調査が終了してから追加して行うという。
疑似魔獣が設定を大きく外れて凶暴化した件については、魔術師団が調査することになったのだが、僕が冷凍した疑似魔獣が大きく役立つだろうといわれている。よかった。
そして、シモンについては、光魔法に目覚めたので治療魔術師になるための指導を受けることになった。疑似魔獣の傷を治すためには莫大な、魔力が必要だったと思うので、将来有望と思われたのだろう。
奇妙な言動については、別途指導をされることになったようだ。
これで、シモンは神子に認定されるための第一歩を踏み出したのだろうか。
そして、神子になってラインハルト様と結ばれる未来が近づいたのだろうか。
僕は、悪役令息として断罪されるのか。
ラインハルト様の幸せのためなら、それは受け入れなければならない。
戦闘後、ラインハルト様の腕の中で感じた温かさを思い出して、なぜか胸が痛くなる。
でも、その理由を考えるのはよくないような気がしたので、胸の痛みは忘れることにした。
「魔獣さん、けがが治ってよかったね! これから大人しくしてくれるよね?」
シモンがにこにこと微笑みながら、甲高い声を上げて立ち上がる。
疑似魔獣はシモンに目を合わせると、唸り声を上げながら歯をむき出した。よだれが顎を伝って、地面に滴り落ちる。
疑似魔獣が示しているのは、明らかな威嚇行動だ。しかも、興奮しきった状態だ。
そして、どうやらシモンは、逃げることが頭にないようだ。自分は、魔獣を操れると心の底から思っているのだろう。シモンの物語では、そうだったのかもしれないが。
これは……、とてもよくない状況だと思われる。
フィンク先生がシモンに走り寄るのを確かめながら、僕は、疑似魔獣に向かって駆け出した。
疑似魔獣は腕を大きく振りかぶると、鋭い爪を向けてシモンを薙ぎ払った。間一髪でフィンク先生がシモンを突き飛ばし、長剣で魔獣の爪を払って攻撃を躱す。
「くっそ! とどめを刺す邪魔をしやがって!」
「どうして、魔獣さん! 僕の言うことがわからないの?」
「うるせえっ! レヒナーは黙っとけ! こいつは、お前の言うことなんざわかってねえからよ!」
フィンク先生のお口が、いつもよりさらに悪くなっていらっしゃる。
とどめを刺す邪魔をされたのだから、お気持ちはお察しするけれど。
しかし、シモンはまだ魔獣と心が通じると思っているようだ。あれほど威嚇されたうえに攻撃をされたのに、それがわからないのだろうか。
「はあっ!」
マルティン様が、疑似魔獣の後ろに回って、掛け声とともに背中に長剣を突き刺していらっしゃるのが見えた。どうやら疑似魔獣の傷口は、完全にふさがっているわけではないようだ。マルティン様は、その場所を狙っていらっしゃるようだ。
マルティン様が疑似魔獣と接近して戦闘中なので、氷魔法で凍らせる方法は取れない。マルティン様を巻き込んでしまうからだ。
近くまで行くしかない。
フィンク先生が僕の姿を確認なさってから、シモンを抱え上げて生徒が避難している方へ向かう。
格納庫の対応をしていた先生方も、こちらへ向かっていらっしゃるのが見える。
しかし、応援がたどり着く前に、かたはついた。
マルティン様は疑似魔獣に突き刺した長剣を押し上げるようにしてうなじから後頭部を切り裂いたのだ。すごい膂力だ。素晴らしい。
疑似魔獣は大きな音を立てて、地に倒れていく。
「はあっ、やっと倒れてくれた」
「マルティン様、お疲れさまでした」
その場の処理は先生たちに任せて、僕はラインハルト様のもとへ戻る。ラインハルト様は、美しい笑顔で僕を迎えてくださった。
「ラファエル、よくやったね。さすがわたしの婚約者だ」
「ありがとうございます」
ラインハルト様は、礼を取ろうとする僕の腕を引っ張ると、そのまま腕の中へ抱え込んで頭を撫でてくださった。
人前でこんなことと思いながらも、疲れている僕は、黙ってラインハルト様の腕に抱かれていた。ラインハルト様の温かさで、戦闘で興奮していた精神が鎮静化していく。
僕をこんな風にねぎらってくださるなんて。ラインハルト様は、本当にお優しくていらっしゃる。
「悪役令息が! ラファエルが、僕の魔獣さんたちを殺したああああああ! 僕が神子になって導くはずだったのにい!」
「うるさい! メービウスとアイヒベルガーに助けてもらったくせに何を言うか!」
シモンの甲高い叫び声と、フィンク先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
もしかしたら、これも断罪するときの罪状になるのかもしれない。
疑似魔獣を退治したら悪役令息と呼ばれるとは、予想外だ。物語の流れでは、僕は立派にお役目を果たしたといえるのだろう。
「レヒナー男爵令息は、どうして魔獣と交流できると思ったのでしょうか……」
「ああ、どうしてだろうな」
ディートフリート様が、不思議そうにつぶやかれる。
この世界の神子は、魔獣と交流できるわけではない。前世の記憶はこの物語のものしかないのだけれど、もしかしたら前世の世界には魔獣と交流できる神子がいたのだろうか。
いや、そうかもしれない。
「ディートフリート、アルブレヒト、彼の行動はあまり深く考えない方がいい。グスタフからもいろいろ聞いているけれどな……」
マルティン様の何とも言えない顔を見て、ディートフリート様と口を開きかけたアルブレヒト様は沈黙なさった。
いったいシモンは、どのような行動をしているのだろうか。そちらも気になることではある。
その日の授業は、すべてキャンセルになった。僕たちは、学校側からの聞き取りを受けてから、順次帰ることになる。
今回の事件で、レーネが重度の打撲、グスタフも打撲や擦り傷があったが、いずれも治療魔術師の治療によって、回復しており、療養を要するほどの大きなけがはなかった。疑似魔獣が暴れていた様子を考えれば、被害は軽かったのではないだろうか。
事件後については、どちらかというと、学校側のダメージの方が大きくなった。ケスナー子爵が、学校に正式な抗議の申し入れをされることとなったからだ。
ケスナー子爵にしてみれば、もっと早い段階で学校側が戦闘を中断させていれば、レーネがあれほどのけがを負わなくてすんだのではないかという思いがあるからだ。現状は治療魔術師によって回復していても、体にダメージが残る不安がなくなるわけではない。レーネの今後に影響があるかもしれないのだ。
疑似魔獣の凶暴化の原因とその責任についての追及は、調査が終了してから追加して行うという。
疑似魔獣が設定を大きく外れて凶暴化した件については、魔術師団が調査することになったのだが、僕が冷凍した疑似魔獣が大きく役立つだろうといわれている。よかった。
そして、シモンについては、光魔法に目覚めたので治療魔術師になるための指導を受けることになった。疑似魔獣の傷を治すためには莫大な、魔力が必要だったと思うので、将来有望と思われたのだろう。
奇妙な言動については、別途指導をされることになったようだ。
これで、シモンは神子に認定されるための第一歩を踏み出したのだろうか。
そして、神子になってラインハルト様と結ばれる未来が近づいたのだろうか。
僕は、悪役令息として断罪されるのか。
ラインハルト様の幸せのためなら、それは受け入れなければならない。
戦闘後、ラインハルト様の腕の中で感じた温かさを思い出して、なぜか胸が痛くなる。
でも、その理由を考えるのはよくないような気がしたので、胸の痛みは忘れることにした。
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