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14.実地演習で生命の危機です
しおりを挟む「うーん、確かにこのあたりのコカトリスにしては凶暴かなあ」
「しかし、常よりは頭数が多いですね」
ざくざくと長剣でコカトリスを捌きながら進むマルティン様と、その後ろでマルティン様に防御魔法をかけつつ魔石を拾って進むディートフリート様。その後ろを歩くアルブレヒト様は、コカトリスの出現場所と個体数を森の地図に記入している。
僕は今のところ、ラインハルト様の隣で護衛の担当だ。身を寄せて歩くようにとご指示を受けて、おっしゃるとおりにしている。
もっと大型の魔獣や凶暴化が進んだものが出てくることがあれば、ディートフリート様と交代するつもりだ。
コカトリスは鶏のような魔獣で、食用にもなる。
「いや、もったいない。これだけのコカトリスがあったら、寮の食事にできるのにな」
「ああ、では、帰りにここを通って回収して帰りましょう。地図に書き込んであるから大丈夫ですよ」
僕たちの後ろからついてきてくださるのは魔法騎士のバウマン分隊長だ。アルブレヒト様が、地図にしるしをつけながら、バウマン分隊長に笑顔を向けた。
「では、固めておきますね」
「ああ、クロゲライテ公爵令息、いや、ヒムメル侯爵令息まで……独り言だったのですが……」
「たくさんあるのだから、生かした方が良いだろうな」
「殿下! 恐縮であります」
僕が風魔法でコカトリスをある程度の塊にする。ラインハルト様にまで声をかけられたバウマン分隊長は、ひどく恐縮していらっしゃった。演習においては、魔法騎士が僕たち生徒に指導を行う側なのだから、ご遠慮なさらなくても良いのに。
若い騎士や魔法騎士、魔術師は寮に住んでいる。普段の実地演習ではこのようにたくさんの獲物は集まらないけれど、今回は大量にあるのだから、寮で役立ててもらうのも良いことだろう。
落ち着いた実地演習で終われば、コカトリスの回収ぐらいは容易いことだ。
そして、出立するときに、バウマン分隊長は基本的には討伐を僕たちに任せるようにとラインハルト様に告げられて、軽く押し問答になった。
バウマン分隊長は、僕たちを守るのがお仕事だ。それはわかっているのだけれど。
「打ち合わせで聞いていたよりも、順調に進んでいるようだな」
「そういえば、ほとんどコカトリスばかりですね。大物に出会っておりません」
ラインハルト様が、森の様子に疑問を抱かれたようだ。確かに、コカトリスと時々顔をのぞかせるリザードを始末しながら進んできたが、こんなに小物しかいないものなのだろうか。
森の奥から、足音が聞こえる。人間が走っているもので間違いないだろう。
僕は、意識を戦闘態勢に落とし込む。
人が森の中を走るという行動の要因は、緊急事態が起きているからであるという可能性が高い。魔獣がその人間を追っているのかもしれないのだ。
また、人間相手であれば安心だというわけではない。実地演習に紛れて、ラインハルト様を狙う刺客が入り込んでいることも考えねばならないのだ。
「はあっあっ……。たっ助けてっ!」
そう言いながら僕たちの前に倒れこんだのは、バーデン伯爵令息だった。腕から血を流し、あちらこちらに擦り傷がある。
「どうした。何があったのだ?」
「ヘッ、ヘルハウンドがっ……、あんな大きなっ……群れがいるなんて、聞いてないっ!」
「ヘルハウンド?」
駆け寄ったマルティン様の質問に答えたバーデン伯爵令息は、青ざめた様子で答える。ヘルハウンドは、この森には生息している魔獣ではある。群れを作ってチームで行動するのでいささか厄介ではあるが、大きな群れとは……
「あんな大きな群れとは、何頭ぐらいいたのだ」
「何頭……、十頭や二十頭じゃない……と……とにかく、大きいのがっ」
「戦闘態勢はどうなっている。ほかのメンバーは? みんな逃げたのか?」
「どれぐらいの距離を逃げた?」
「魔法騎士団の……人が中心に戦ってくれて、僕たちじゃ無理だから逃げろって言われて……僕は嚙みつかれて……逃げて……。
他のメンバーは……わからない……。そんなに走っていないと思う……」
マルティン様とディートフリート様が、立て続けに質問をする。それは、状況によっては、救援活動に入らねばならないからだ。
バーデン伯爵令息は、つっかえながら答えているものの体中を震わせていて、興奮状態であるのがわかる。大体のところはわかるが、話がつながっていないところもあるので現場で確認しなければならない。
よほどの恐怖だったのだろう。
この森でのヘルハウンドの群れは多くても七~八頭だ。それ以上の群れは、これまでに確認されているとは聞いていない。
「これは救援に向かわねばならないでしょう。殿下は……」
「きゃあああああっ! 助けて!」
「誰かっ!」
バウマン分隊長が救援に向かうと決断したところで、ヘルハウンドの吠える声とともに、複数の悲鳴が聞こえてきた。
シモンとマルク様が、こちらに走ってくる。その後ろにヘルハウンドの群れが見える。追いつかれていないということは、ここからかなり近い場所で彼らがヘルハウンドに遭遇したのだろう。
人間が走って、ヘルハウンドから逃げられるはずはない。魔法騎士と、おそらくユンカー子爵令息の二人で、ある程度のヘルハウンドの足止めをできているのだろう。しかし、それでは追いつかないほどのヘルハウンドがいるわけだ。
本当に生命の危機だ。学校で行う演習の範囲を超えている。
僕は、戦闘態勢に入る。
「ディートフリート様、アルブレヒト様、ラインハルト殿下をお願いいたします」
「お任せください」
「承知しました」
「ラファエル、待て。わたしも行く」
「すぐに片付けて参りますゆえ、しばらくお待ちくださいませ」
僕はラインハルト様の声を振り切って、足を踏み出した。ラインハルト様は戦闘能力も高くていらっしゃるが、僕がこの場にいるのに、他の生徒を助けるために危険にさらすわけにはいかない。
おそらく、ディートフリート様もアルブレヒト様も同じ意見だろう。
「あああっ! ラインハルトさまあ、助けてええええ」
シモンが甲高い叫び声をあげて、ラインハルト様に突進していく。さすがに主人公は機会を逃さないようだ。
しかし、今の僕には悪役令息としてのふるまいをする余裕はない。
この身を挺してでも、ヘルハウンドの群れからラインハルト様を御守りしなければならないのだから。
バウマン分隊長が、「殿下を安全な場所へ!」と言いながらヘルハウンドに向かっていくのが見える。
ラインハルト様がこちらに来ようとするのを、アルブレヒト様が押しとどめている。
僕は長剣を鞘から抜き、それに魔力を纏わせた。
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