【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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番外編

魔法騎士団へ視察に行きました その1

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「それでは、行ってまいります」
「ああ、午餐のときの報告を楽しみにしているよ」

 ラインハルト様が僕の頬にキスをしてくださったので、僕も頬にキスをお返しする。これは、婚約者であったころから変わらない習慣だ。

 婚姻式から半年ほどが経過した。王族の伴侶としての公務で忙しくしていたこともあり、最近の僕は鍛錬不足であることが否めない。
 ラインハルト様はそのような僕の気持ちを察してくださったのだろう。魔法騎士団への視察と称して鍛錬に参加できるように、現魔法騎士団長のビュッセル侯爵に依頼してくださったのだ。ビュッセル魔法騎士団長は、快く僕が視察をすることを了承してくださったそうだ。
 なんと、模擬試合も計画してくださったそうだ。あまりに楽しみで心が弾む。

「ラファエルが視察するとなれば、魔法騎士団員の士気も上がるだろうと、喜んでおられたよ」

 ラインハルト様はそう言って美しい微笑を僕に向けてくださった。どうしてラインハルト様は、僕が望んでいることがおわかりになるのだろうか。

 ラインハルト様は本当にお優しい。
 そのような方の伴侶として生きていけるのだから、僕はなんと幸せなのだろうと思う。

 魔法騎士団は昨年の国家転覆に関わる一連の事件により、少なくない人数の魔法騎士が退団することになった。その多くは病気療養をすることになり、一部は犯罪者として刑に服している。ロルバッハ公爵は、ホフマンやウーリヒの犯罪には加担していなかったことは証明された。しかし、彼らがロルバッハ公爵を担ぎ上げる気であったことは明らかだ。そして、魔法騎士団へ不用意にウーリヒを立ち入らせた責任を問われ、ロルバッハ公爵は魔法騎士団長を解任された。
 ロルバッハ公爵は、現在、領地にて蟄居をしていらっしゃるが、一生表舞台に戻っていらっしゃることは無いだろう。ホフマンとウーリヒは、ロルバッハ公爵の人生も破綻させたのだ。

 ロルバッハ公爵の後任として、ビュッセル侯爵が副団長から団長に格上げになった。

 ビュッセル魔法騎士団長は、この一年あまりは魔法騎士団の立て直しに全力を上げていた。
 王家の一員となった僕が視察に訪れるとともに、鍛錬に加わるとなれば、魔法騎士団内だけでなく、外向きにも建て直しに成功していると知らしめることになるだろう。
 ビュッセル魔法騎士団長はそう言って、僕の視察を喜んで受け入れてくださったそうだ。
 
 僕が魔法騎士団の演習場へ足を踏み入れたときには、基礎体力向上のトレーニングが行われていた。今年入団したばかりの新人がいる辺りには、ビュッセル侯爵令息……ローレンツもいるのが見える。

「魔法騎士団にも有望な新人が入団してきたと聞いています。シュテルン王国を支えるうえでも、良い方向に進むことでしょうね」
「ラファエル殿下からそのようにお言葉をいただきますこと、ありがたく思います。
 今年の新人で実力のある者は、初手から戦力と見做して扱われております。魔法騎士団は、未だ建て直し中でございますから」

 分隊長から昇進されたバウマン部隊長が、僕を魔法騎士団長の部屋まで案内しながらそのような話をしてくださる。この人も、荒れた魔法騎士団で建て直しに奔走されたことだろう。
 バウマン部隊長が昇進されたのは、魔法騎士団が人手不足だからではないはずだ。バウマン部隊長ご自身の実力と、その誠実なお人柄が評価されてのことだと思われる。まあ、人手不足で多少昇進が早くなった可能性はあるけれど。

 魔法騎士団の現状と現場のご意見などを聞きながら歩いていると、演習場の外れから声が聞こえてきた。

「……ラファエル殿下との模擬試合の相手に選ばれるなんて、お前は運がいいな」

 どうやら、僕が視察と鍛錬への参加の後に企画されている模擬試合のことを話しているらしい。バウマン部隊長が緊張した表情になった。

「本当にな、魔法騎士団に途中入団できたことも運が良かったのに。これで注目されれば、出世間違いなしだろう」
「ラファエル殿下はお強いと言われているけど、まあ学生にしてはという前置きがついてのことだろうからな」
「ああ、学生ってだけじゃなくて、王子殿下の婚約者相手だからみんな手加減してお相手してきたんだろう。実際に戦闘する者との実力差を、思い知らせて差し上げるさ」
「ははっ、御尊顔は傷つけるなよ」
「模擬試合は首から上を狙ってはいけないんだから、そんなことにはならないさ」
「流石に今日は、上級の治癒魔術師も待機してるらしいからな。大丈夫だろう」

 話をしていた魔法騎士たちは、笑い声を上げながら鍛錬に戻って行った。

 聞こえてきた話の内容のせいだろう。バウマン部隊長が蒼褪めている。僕の護衛騎士たちの顔色も悪い。

 そうか、考えたことはなかったけれど、皆、僕がラインハルト様の婚約者であったから手加減をしてくれていたのか。
 僕は十五歳を過ぎてからは、父上とブルーノ兄上にしか負けたことがなかったから自分の戦闘能力が高いものだと思い込んでいた。それに、魔獣の討伐にも力を発揮できていると思っていた。
 オスカー兄上も、僕の戦闘能力が高いからラインハルト様の婚約者に選ばれたとおっしゃっていたのだから。

 だけど……、皆で僕に手加減をして、甘やかしていたのか……

「なんと無礼なことをっ! ラっラファエル殿下、あのっ……今の話はっ!」
「いや、僕は今の話は聞かなかったことにします。そう、全力で戦ってくれることを期待していますから」
「いえいえいえ! もちろん全力で戦いますし、手加減はしないのですが、それはその……」
「周囲から見れば、僕はこれまで甘やかされてきたのでしょう。自分の本当の実力を知る良い機会です」

 僕が最近覚えた王族らしい微笑を浮かべるのを見たバウマン部隊長は、口をぱくぱくさせた後、沈黙された。どうやら僕を無理に励ますことは諦めてくださったようだ。

「いや、あいつら身の程知らずが過ぎるだろう」「知らないってのは怖いな?」「俺だったら、手加減してくださいって自分の方が土下座するよな」「上級の治癒魔術師がいるのって、ラインハルト殿下が気をつかってくださったんだろう?」「魔法騎士をこれ以上壊すわけにいかないってお考えだろ?」

 僕の護衛の皆も何やら小さな声で話し合っていた。おそらく優しい彼らは、僕が自分の実力を知って落ち込むことを気にしてくれているのだろう。

「たとえ模擬試合で叩きのめされても、僕自身が実力を知ることで、より自分を高める意欲につなげるから、大丈夫だよ」

 僕が護衛にそう言うと、何とも言えない表情で皆押し黙ってしまった。

 そうか、僕が手加減されていたのは周知のことだったのだな。
 
 それなのに僕は、身の程知らずにも魔法騎士団の鍛錬に加わりたいと思ってしまっていたのだ。

 そんな僕が魔法騎士団に訪れることを、視察という名目にしてくださったラインハルト様のご配慮とお優しさに感謝しながら、ビュッセル魔法騎士団長の元へ足を運んだ。


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