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しおりを挟む昼休みを知らせるチャイムが鳴る。
俺、篠原亮は弁当を鞄から取り出した。
「亮ちゃん、お弁当もらいにきた~」
「理香」
遠山理香が肩まで伸びた黒髪を揺らしながら俺の教室に駆け込んできた。ぱっちりと大きな目をしている以外に特徴のない顔は女子の多いクラスで3番目に可愛いといわれている。らしい。同じクラスになったことないから知らないけどな。
俺が作った弁当を理香に渡してやる。
「出汁巻き、ちゃんと入れてくれた?」
「ああ、約束だからな。つか亮ちゃんて呼ぶのやめろ」
「さすが亮ちゃん。ありがとね」
理香は俺の話は聞かず笑顔で手をひらひらと振ると弁当をかっさらうようにして教室から飛び出していった。
自分の机で弁当を広げていると学年で1番のイケメンと言われている櫻井和樹が俺の前の席の椅子を後ろに向けて座った。そしていつものように俺の机の上に弁当をのせて広げ始める。
「亮、お前、何で遠山と一緒に弁当食わないんだ?」
「はあ?何で俺が理香と弁当食わなきゃなんねえんだよ。アイツはアイツの友だちと食うんだろ」
「えーだって遠山って亮ちゃんのカノジョじゃねえのー?」
購買で買ってきたパンを抱えて学年で1番のチャラ男と言われている大宮司が話に入ってきた。お前焼きそばパンばっかり5個も食うのかよ。
「理香は俺のカノジョじゃねえよ」
遠山理香は俺の4つ年上の兄貴、篠原周のカノジョだ。兄貴が就職して理香が高校を卒業したら結婚することになっている。理香が18歳の誕生日を迎えるまでオープンにしたくないというのでもう少しの間みんなには内緒だ。たとえ俺と理香が噂になっても男除けになってちょうどいいんだと。俺の立場は?
俺の母親は俺が中学の時に亡くなった。父親が仕事で海外に赴任してしまってからは、料理は俺が、掃除と洗濯は兄貴が担当して生活している。
兄貴が俺の作る料理が世界一おいしいと理香に自慢してしまったためにその味を覚えたいからと時々弁当を作らされたり料理を教えたりしているのだ。
いろいろと世話になっている兄貴には頭が上がらないんだよな。おかしくて理不尽な話だと思うんだけど逆らえない。
俺は受験生なのに。
そして俺の本命は国立大学だからまだまだ勉強しなければならないのに。
就職が決まっている兄貴と推薦で大学が決まっている理香が結婚準備で浮かれているのを見るとムカつく。
リア充爆発しろ。
「だったら何で亮が遠野の弁当作ってやってんだよ。ずるいよ。俺にも作ってくれ」
和樹が不服そうに口をとがらせている。イケメンはどんな顔をしてもイケメンだな。そして何で俺がお前に弁当を作ってやらないといけないんだ。話がおかしいだろう。
「いろいろ都合があんだよ。ほら出汁巻き分けてやるから拗ねんな」
出汁巻きを和樹の弁当のご飯の上に乗せてやったら満面の笑みになった。イケメンがこんなに簡単でいいのか。
「やった。亮の出汁巻き好きなんだ。代わりにミートボールやる」
和樹が俺の顎を掴んで口の中にミートボールを放り込んだ。うまい。和樹の母さんにどんなスパイス使ってるのか聞きたい。
俺がミートボールに感動しながらもぐもぐしていると司が焼きそばパンをかじりながらにやにやと笑っている。そんな顔がサマになるんだよこいつは。
「なーんだ。亮ちゃんが浮気して和樹ともめてんのかと思ったら夫婦円満なんだなー」
「司、それも違う。俺たち夫婦じゃねえから」
「うん、亮の出汁巻きうまいな」
「亮ちゃん俺にも出汁巻きちょうだいー?」
「もう食っちまったよ。ブロッコリー食うか?」
「…いらねえ」
司は焼きそばパンを勢いよく口に入れてわしわしと咀嚼した。
俺と和樹と司は希望学部は違うけど同じ大学を目指しているのでよくつるんで勉強をしている。
理香によると学年で1番のイケメンと学年で1番のチャラ男と俺と3人でいるのはすごく目立っているらしい。
司は付き合ってる子がいるときは一緒にいないこともあるけど俺と和樹はいつでも一緒にいる。ような気がするな。でも無表情で地味な俺はひっそりとしているはずだ。身長は2人より5㎝低いぐらいだけど目立つ2人のせいで埋もれている。ただし成績はこの中では俺が1番良いんだ。学年で1番じゃないところが悲しいけど。くそ。
2人ともしょっちゅう女子に呼び出されていてうらやましい。モテるやつはいいよな。司は時々女子と付き合っては別れてるけど和樹は好きな人がいるからっていつも断っているらしい。一途なのか。だけどその好きなやつが誰なのかは教えてくれないんだ。和樹はわりと秘密主義なのかな。そういえば片思いなのか付き合ってるのかも知らないんだった。
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