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しおりを挟むだんだん寒くなってきた頃には俺はようやく理香との噂から解放されると思ってちょっと浮足立っていた。
鞄を持って帰ろうとしたところへ和樹が声をかけてくる。
「なあ、今日亮んちに行っていいか。数学で聞きたいところがあるんだけど」
和樹がイケメンな顔を近づけて聞いてくる。手首もゆるく掴まれてるし。こいつはパーソナルスペースの狭いタイプだよな。よくぺったりくっついてくる。ふわりと香るのはシャンプーか?いい匂いがしてちょっとドキドキする。それでも俺は無表情だけどな。
「あー悪い。今日は駄目だわ。明日ならゆっくりできるけどどうだ?」
今日は兄貴が家にいるから理香に料理を教えてくれと頼まれている。その後は俺を邪魔モノにして2人で晩メシを食べる気なのだ。ちっ。そして明日はついに理香の誕生日で兄貴はデートだ。遅くなると言っていた。明日はついに理香の誕生日で兄貴はデートだ。遅くなると言っていた。
リア充爆発しろ。
まあ受験生としてはゆっくり勉強できる日になってちょうどいいけどな。
そしてようやく俺は理香が俺のカノジョじゃないと証明できる。
「じゃあ明日頼む」
「亮ちゃん、俺も―。俺も数学やりたいー」
司も混じってくる。うーん確かに目立つかなあ。
「おう、じゃあ明日2人で来いよ。学校の帰りに一緒に来るだろ?」
「うん。そうしよう。晩メシは亮が作ってくれるのか?」
「ああ、作ってやるよ。なんか食いたいもんあるか?時間のかかるもんは作らねえぞ」
「やったー亮ちゃん大好きー。肉じゃが作ってー」
俺に抱き着こうとした司を和樹が引きはがす。
「俺、出汁巻きがいいな。1本食いたい」
「俺もー。1本食いたいー。作ってー」
「お前ら子どもみてえだなあ。わかった。作れるように準備しとくから。明日はゆっくり勉強して飯食おうぜ」
俺は和樹と司の肩口をぱしぱしと叩きながら約束した。
「楽しみー」
「俺の作った晩メシを食える喜びのあまり勉強が主な目的なの忘れんなよ」
「忘れないよ。明日の目的は数学と出汁巻きだろ」
「数学と出汁巻きと肉じゃがだろー?」
3人で笑い合う。やっと足かせが1つ外れるのがうれしくて俺は和樹と司にうまい飯を作ってやろうと思った。
理香が教室へ迎えに来ないのでLIN〇を見ると校門で待っているとある。2人と別れて校門へ行くとぽつんと待っていた理香が俺の顔を見て笑顔になった。
「亮ちゃん、今日もヨロシクね」
「おう、任せとけ。
理香、教室に来なかったんだな」
「教室の前までは行ったんだけどね。亮ちゃん、櫻井くんと大宮くんと3人で話してたでしょ。楽しそうだったし声をかけづらかったの。学年で1番のイケメンとチャラ男とクールビューティーが揃っているところに入っていくのはハードルが高いよ」
イケメンは和樹でチャラ男は司でクールビューティは?
「イケメンとチャラ男はわかるけどクールビューティーって誰だ?」
理香がびっくりした顔で俺を見る。何だよ。
「えええ亮ちゃん、自分がクールビューティーって言われてるの知らないの?」
「はああ?そんなの知らねえよ。どうして俺がクールビューティーだよ。言い出したやつの頭(あたま)沸(わ)いてんじゃねえのか?」
「そうね、こうやってしゃべってると確かにクールビューティーだとは思えないよね」
理香ははあとため息をついた。
「亮ちゃんて無表情の美人さんだからそう言われてんのよ。中身は口の悪い高校生男子なんだけど。不愛想であんまりしゃべらないからまわりからはそう見えるんだと思うよ。あたしも周さんに紹介されるまではクールビューティーだと思ってたもん。周さんとしゃべってるの聞いて驚いたよ」
いつの間にそんな話になっているんだ。解せぬ。
まあでも自分の生活には影響ないからどうでもいいな。クールビューティーだって言われても俺は和樹や司みたいにモテるわけじゃないんだし。あ、そう考えてたらなんか悲しくなってきた。気を取り直そう。
「その件はまあいいや。スーパーに寄って材料買っていこうぜ。今日は何を作りたいんだ?」
「周さんが亮ちゃんの手作り麻婆豆腐が美味しいって言ってたからそれを作りたい。コックドーとか使わないのね。それから出汁巻きが上手く巻けないから教えて欲しいの」
「あーわかった。じゃあ他にザーサイのサラダと中華風のトマトスープでも作るか。どっちも簡単だし兄貴も好きなおかずだからな。新婚生活ですぐに役立つと思うぞ」
「うんそれがいい。考えてくれてありがと。亮ちゃん、あたしよりいいお嫁さんになれるよね」
「いや、俺は嫁にはなんねえだろう」
「え?ならないの?」
「いやいやいやなんでだよ」
「ふうん?」
亮ちゃんて本当に鈍いのねと理香に言われながらスーパーに向かう。鈍いって何だよ。
「なーんだ、亮ちゃんが今日は都合が悪いのって理由は遠山とのデートだったんだー。遠山スゲー笑顔で迎えてたなー
ああー亮ちゃんを取られちゃったじゃん」
「司、うるさい」
「えー和樹こわいー」
俺と理香が一緒に帰る様子を和樹と司が見て何やら話していたことを俺は知らなかった。
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