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9-1.何が駒鳥を不安にさせるの?

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 ラプター連合王国の首都、シュライクには午後に到着した。

 シュライクは、ラプターの行政の中心であるせいか、落ち着いた街並みが続いている。
 広大な敷地を持つ白亜の王城は、美しい植栽で彩られていた。王城の噴水がある庭園や、議事堂は、予約をすれば一般にも公開されているそうだ。次にシュライクを訪れるときにでも、俺を連れて行ってくれるとファルが笑った。
 王城の近くには、貴族の邸宅街があり、ブラッフォード公爵邸は、その中でも王城に近い場所にある。
 ファルは、三男であり、既に独立しているので、シュライクに来ても公爵邸に滞在することはほぼないという。
 シュライク城下の商業街にあるブラッフォード商会の支店の隣に、ファルの自宅があるということだ。

 俺たちが案内されたファルの自宅は、こじんまりとしていて、居心地の良さそうな家だった。木目を生かした上品な家具が置かれ、飾りの少ない魔道具が配置されている。

「この家に長く滞在することはないから、小さくて居心地の良い設えにした。キャノメラナが、俺の本拠地だからね」

 日常的に家を管理しているというコリンズ夫妻に挨拶をして、俺は客間に通された。
 俺とファルは伴侶であるが、まだ寝室を共にしていなかった。理由としては、まず、親族へのお披露目がまだであること。次に、都市の移動をまだまだしなければならないので、それに支障がある体の状態になると困るからということである。
 ファルに、『キャノメラナのファルの本邸で落ち着いてからにしよう』と言われたときには、声が出なかった。

 ……そんなに体に負担がかかるものなのか。

 そして俺は、その提案に対してどんな風に答えたらよいのかわからなくて、ただ頷くことしかできなかったのだ。

 王子教育の中には閨教育もあったのだが、褒賞になることを受け入れ難かった俺は、話をそれほど真剣に聞いていなかった。

 今は、それを深く後悔している。

 ファルの家に荷物を置いてから、支店に挨拶に行った。家の隣なので便利だ。ジーンとエディにはしばらく休憩してもらって、ファルの護衛とともに店に足を運んだ。
 支店長のシートンは、やせ形で愛想の良い人物だった。
シートンと少し話した後、店の裏手にある魔道具の工房に向かう。
 魔道具の工房に行くと、心が弾む。挨拶をし、中を見学させてもらった。
 ラプターでは、飾りの少ない実用的な魔道具が好まれているようだ。一部の好事家は、受注生産で手の込んだものを求めるが、それには、恐ろしい金額がついている
 俺が宮で作っていたものは、材料も良かったので、高額が付いただろうと思いを巡らせた。

「俺が宮で作っていたものが市場に出ていたら、高値で売れたのだろうな」
「高値で売れたよ。一番高く売れた梟は、俺の父の書斎にある」
「ひゃっ」

 俺の呟きにファルが入って来て驚いた。

「ロビンが、チェスター殿下の依頼で作った魔道具は、俺の商会で扱っていた。全部かどうかはわからないけど。俺のものになっている魔道具もあるよ」

 チェスターはそんなことをしていたのか。

「チェスター殿下、俺の作った魔道具で商売をしていたのか……
ファルは御父上相手にも商売をするの?」
「当たり前だろう?親子でも関係ない。あんなに高価なものを父親に贈る理由はあまりないよ」

 ファルが少し悪そうな笑顔をしている。商売人の顔だ。
 あの梟はブラッフォード邸にあるのか。それならば……

「ファル、あの梟には音声回路を組み込んである。音声認識登録をすれば、鳴くようにできるのだけれど」
「へえ、それは良いな。音声認識登録をするには、上質な魔鉱石が必要だよね。特別料金で請け負うか。ロビン、作業をしてくれるよね」
「え、お金をとるの?」
「ロビン、さっきも言ったよ。親子でも商売では関係ないよ」

 ファル、厳しいな。

「ロビンは、実用的な魔道具にも長けているけれど、梟のような受注品に力を入れて欲しいな」
「そうなの?折り畳みランプなんて、うまくできていたと思うのだけれど」

 ヴァレイ王宮から逃亡するときに使ったランプは、折り畳み式だ。下が平らな円盤状になっていて、上に浅い三角錐が乗っているような形状になっている。上部の取っ手を引っ張ると、ランプの光る部分が出てくる構造だ。持ち運びやすいので、俺の魔道具工具入れの鞄にいくつか入れていた。隠し通路を通るときや、野営のときに、とても役に立ったのだ。
 あれについては、ジーンとエディが絶賛していた。
 小さな魔石で、最大限に光らせることができる回路を、必死に構築したのだ。あの頃は、王宮から逃げ出すことばかり考えていたから。

「ああ、あのランプは通常の店売り商品として、生産を進めたいのだけれど、かまわないかな?」
「ブラッフォード商会の役に立つなら喜んで。俺は、ファルの魔道具技師なのだから」

 俺が微笑むと、ファルが片手で目元を押さえて天を仰いだ。

「ロビン、どうしてそんな可愛いことを言うの」

 そう言いながら、ファルが俺の額に口付けた。別に可愛いことは言っていない。そして、人前でそういうことはしないで欲しい。恥ずかしいではないか。
 俺のことを可愛いと言うのはファルぐらいだ。おそらく美的感覚がおかしいのだろう。俺は美人だぞ。

 ファルと話している様子を、魔道具技師の人たちが見ているのに気付いた。

「ねえ、恥ずかしいよ。魔道具技師の人たちの注目を浴びている」

 ファルが、技師たちの方を見てにっこりと笑った。

「何か聞きたいことがあるのかな?」
「はいっ」「折り畳みランプのことで!」

 その後、折り畳みランプの回路と材質について、怒涛の質問を俺は受けることになった。彼らの興味は魔道具の回路にあった。俺たちの行動には全く興味がなかったようだ。


 翌日は、朝からお披露目会用の衣装選びと採寸をし、午後はいよいよブラッフォード公爵邸に挨拶に行く。お披露目会の前であるが、ファルのご両親には先に挨拶をしなければならない。

 俺は、気持ちを引き締めた。


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