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13-1.どんな人たちに駒鳥は出逢ったの?
しおりを挟むお披露目会の日は、雲一つない晴天だった。俺たちの門出を、天も祝ってくれているのだろう。
「ロビンの蒼天色の瞳と同じ色だね」
ファルが嬉しそうに言っているけれどお披露目会は晩餐会だ。俺たちが出掛ける頃はまだ陽はあるけれども。
でも、お披露目会が終われば、俺はファルの伴侶だと公式に表明しても良いことになっている。既に伴侶であるし、ラプターでは正式表明に親族の許可が必要なわけでもないのだが、そこは公爵家なんだな。
そして、ファルの伴侶だとみんなに認めてもらえるのは、俺だって嬉しい。
お披露目会の日の朝は早くから、湯浴みをして、マッサージをされ、香油を丹念に塗り込まれた。ジーンが張り切っているのがわかるので、俺は逆らったりしない。
髪を結われて鳥の羽の形をした髪留めを着けられる。
衣装は、今日のために急いで仕上げられたものを身に着ける。まず、膝丈の白い上着の襟と前立て、袖口には、金色の糸で繊細な刺繍が施されている。ベストは黒で、これにも金色の糸でびっしりと刺繍がされていた。ブラウスとトラウザーズは白。白のタイにはファルの瞳と同じ翠玉の大ぶりなブローチがつけられている。
ファルの衣装は、俺と同じ形の色違いだ。上着が黒で、ベストとブラウス、トラウザーズが白だ。白いタイには俺の瞳と同じ蒼玉のブローチがつけられている。
ああ、俺の伴侶は、美しくて素晴らしい。
「ファル、素敵。王子様みたいだ」
「本物の王子殿下が何を言っているんだ。ロビンこそ、御伽噺の妖精の王子様のようだよ。素晴らしく綺麗だ」
そう言って抱き寄せようとしたけれど、ジーンに「お衣装が乱れます」と言われて阻止されていた。
こういうときのジーンは、ファルにも容赦ない。
晩餐会といっても親族だけの会なので、それほど気を張らなくても良いと言われている。
しかし、そうもいかないであろう。公爵家の親族と言えば礼儀作法に厳しい人たちばかりのはずだ。
俺を直接叱責したりはしないだろうけれど。ジーンと違って……
「緊張するよねえ」
衣装の細かいところを調整されながら、ジーンに話しかけて気を紛らわそうとする。
「何をおっしゃっているのですか。ロビン様が緊張しているところなど、ヴァレイ国王主催の夜会のときにも、お見かけしたことはございませんよ」
「ええ……」
ジーンには、俺の緊張感を信じては貰えなかった。
公爵邸の応接室で親族の皆様を迎える。
ブラッフォード公爵家の応接室は、十五名程度の人が寛げる程度の大きさであった。椅子は皮張りで座り心地の良い仕上がりになっている。卓は象嵌細工で精密な模様が描かれていた。
「二番目に狭い応接室」だとファルが言っていたので応接室もいくつかあるのだろう。
詳しいことを聞く余裕は今日の俺にはないので、後日確認してみよう。覚えていない可能性もあるけれど。
応接室には、俺の作った梟も、さり気なく飾り棚に置かれている。公爵が飾ってくれたのだろうと思う。そう思うと、純粋に嬉しい気持ちになった。
挨拶の言葉は、事前にファルと打ち合わせた。来る方の名前と、個人情報は頭に入れてあるけれど、全て公爵夫妻の仕切りで対面していくことになるのだ。
親族が来る直前に、公爵夫妻としなければならないことの打ち合わせをした。
「はああ。今日は一段と綺麗ね。ロビンは、本物の妖精の王子様なのじゃないの?
ブラッフォードの縁者にはそれほど気を張らなくて良いのよ。
妖精の王子様らしく優雅にしていらっしゃい」
「はい、お母様。ありがとうございます」
でも俺は、妖精の王子ではない。かつてヴァレイ王国の『花の名の王子』だったことはあるけれど。
その後の話を聞いていても、気を張らなくても良いというのは公爵家の感覚で、庶民には厳しいと思う。
でも、俺は王子だった経験があるので、速やかに適応しておく。ファルに恥をかかせてはいけない。
ファルの兄様たち。長兄のコンラッドは国会議員で、伴侶のプリシラは弁護士をしているそうだ。コンラッドは、黒髪に灰色の瞳で公爵にそっくりだった。次兄のオスカーは、国会図書館の研究員で、婚約者のマチルダを伴っている。オスカーは栗色の髪に灰色の瞳をした、少しばかり浮世離れした雰囲気の人だった。
あとは、公爵の弟夫妻、公爵夫人の兄夫妻に挨拶をしていく。
「本当に、御伽噺の妖精の王子様ね」と女性陣が口を揃えて言っていたのは公爵夫人が言いふらしているに違いない。俺は人間の魔道具技師である。
挨拶は、これで最後だと思ったのだけれど。
「ロビン、わたしの兄が時間を取って、君の顔だけ見に来たので挨拶してくれたまえ」
公爵がにこやかにファルと俺に新しく入って来たお客様のもとへ案内してくれる。
公爵の兄様………え!
公爵は王弟で、王位継承権第三位のお立場であった。
つまり、公爵の兄様とは、ラプター連合王国国王陛下……
「ファルコン、祝いであるのに短時間しか滞在できずに申し訳ないな」
陛下はお忍びらしく地味な、しかし、恐ろしく良い仕立ての高級な衣装で現れた。以前にヴァレイの王宮でお見かけしたことがあるのだが、かなり遠かったのでよく覚えていない。
黒髪に灰色の瞳で、公爵とよく似ているが、威圧感がすごい人だ。
「いえ、叔父上、お忙しいのに来てくださいまして感謝します。本来でしたら、2人でこちらからご挨拶せねばならなかったのに。
叔父上のお力があって、ロビンを俺の伴侶に迎えることができたのですからね。恩義を感じております」
「いや、時勢を考えると、降嫁されたヴァレイ王国のサルビア殿下との謁見は、今は難しいからな。多分、もうすぐ王城に招くことが、できると思うが」
ファルと陛下は、叔父、甥の話になっている。俺はファルの隣で王子様の笑みを顔に貼りつけながら戸惑っていた。
「そなたがファルの伴侶だな」
「はい」
俺はそこで跪こうとしたのだが、私的な場であるから必要ないと、陛下に止められてしまった。
仕方ないので一般的な礼を取った。
「ロビン・サルビアでございます。拝謁叶いまして、恐悦至極に存じます」
「堅苦しいな」
陛下の不機嫌そうな声が聞こえた。だからと言って、ほぼ初対面の国王陛下相手にいきなり砕けるわけにはいかない。俺にどうしろというのだ。
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