ひきこもり×シェアハウス=?

某千尋

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俺、動く

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 俺は本当にどうしようもない人間だ。
 ずっと気付かないフリをして生きてきた。
 事実を突きつけてくる大学から逃げた。差を見せつけてくる他人から逃げた。そして、俺を傷つけない世界に逃げ込んだ。

 逃げ込んだ先で俺は勘違いをした。いや、思い込もうとした。
 自分は本当は有能な人間であると。本当は、やればできる人間であると。

 一種の洗脳みたいなものだ。そうやって十五年間ひたひたに夢の世界に浸っていた俺は、突然現実に引き摺り出されてもすぐに目を覚ますことができなかった。

 でも、目を瞑ったままでも、現実は襲いかかってくる。
 最早、気付かないフリなどできない。
 己の愚かさを、己の不甲斐なさを。
 嘆くことは簡単だ。立ち止まることは簡単だ。

 でも、そうした結果、俺の手元には何も残らない。俺の選択肢が増えることはない。
 先延ばしにしても、何もいいことなどないのだ。むしろ、先延ばしにすればする程、俺の可能性はなくなっていく。
 一刻も早く、動かないといけない。

 坂崎と話した翌日、俺は職業斡旋所にいた。
 何度も通っているため、勝手知ったる庭状態だ。

 でも、今日からの俺は、今までの俺とは明確に違う。
 これまでは頑なに事務員以外の募集を無視してきた。
 肉体労働は嫌だとか、接客は嫌だとか。

 引きこもっていた俺は筋肉も体力もないし、人見知りかつコミュ障のダブルコンボで相手を楽しませる話術なども持っていない。
 ないない尽くしでどちらも適性があるとは思えない。
 でも、筋肉も体力も鍛えればそれなりになるだろうし、仕事だと思えばある程度会話もできるかもしれない。

 やる前から排除すべきではない。なりふりかまっていられる状態ではない。俺は、あがくんだ。

 その意気込みは、他人から見てもわかるようだった。

「なんだか野口さん、いつもと雰囲気違いますね」

 何度か相談した担当者が言う。

「はい。とにかく仕事を見つけることが先だと思って。事務員以外の仕事も視野に入れようかと」

 俺が言うと、担当者はうんうんと頷く。

「そうですね。私もそれがいいと思います。そうしましたら、商業施設の常駐警備なんていかがですか?」

「……警備?」

「はい。ちょうど求人が来ているんです。高卒以上であれば問題ありませんし、夜勤もありますが、まだお若いですからそこまでご負担にならないかと」

「……あの、私力とかないですけど大丈夫でしょうか」

 全く想定していなかった職種に動揺する。俺の脳内にはSPのイメージが浮かんだ。俺に不審者を取り押さえるようなことができるとは思えない。

「仕事内容は見回りや監視、防犯カメラのモニターチェック等ですので、力が要る仕事ではありませんよ。もちろん立ち仕事なので大変な面もありますが」

 聞いてみると、俺が思っている警備とは違った。
 その内容なら、俺でもできるような気がしてくる。

「基本的に残業はありませんから、その分資格取得の勉強をする時間も取れると思います。最終的に事務員のようなデスクワークを希望するなら、事務ソフト系の資格やプログラミングの勉強をするのも良いと思います」

 あまりに具体的な提案をされて思わずまじまじと担当を見る。

「野口さんはこれまで働いてきませんでしたが、やっと一歩踏み出したんです。頑張りましょう」

 俺は、この担当の顔を初めてちゃんと見た。この人は、こんなに真摯な目をしていたのか。こんなに、俺のことを考えてくれていたのか。俺は、じんわりと胸が熱くなるのを感じた。

「……面接、頑張ります」

 求人情報を見ると月の手取りは十五万円程度だろう。俺が望んでいた仕事ではない。むしろ、忌避していた仕事だ。けれど、これが今俺ができる仕事なんだろう。

 俺は、就職活動を始めて、初めて心から頑張ろうと思った。
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