Premonition of spring

椎名

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Spring

出会い

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午前10時28分。
まだ微かに肌寒さが残る空気に触れながら、律人はその時を待っていた。


「あと10秒……9、8」


肌寒さが残る季節とは言いながら、律人の握った手は汗で濡れていた。
スマホに表示された時計の長針が数字の12と重なったとき、その時はきた。


「っ……よっし」


目の前で開く自動ドア。
勢いに任せて小走りした律人の行き先は緑色のエプロンをつけた書店員の元だった。


「あのっ、今日発売のHEAVENを予約していた浜崎なんですけど」

「いらっしゃいませ。浜崎様ですね、少々お待ちください」


まだ鼓動が鳴っている。
小走りした疲労感なのか否か、律人は呼吸を整えようと静かに深呼吸する。
店員がカウンター棚に手を伸ばす瞬間、落ちつかせていたはずの鼓動が再び律動した。


「こちらでお間違えないでしょうか」

「……はい、俺です」


あ。
緊張から返答を間違えたが、店員は気づかなかったふりをするように伝票を書籍から外していく。


「ではこちら、3,080円でございます」

「は、はいっ。えっと……payme使えますか」

「はい」


今の時代、スマホがあれば決済も簡単だ。
この日のために律人はスマホ決済アプリpaymeに1万円をチャージしていた。
決済を終えて書店を後にすると、A4サイズの書籍を胸に抱きしめて息をつく。


「ん~……っ、やっばい……」


律人が開店前から待ちに待っていた書籍。
それは舞台俳優の写真集だった。

『進藤奏太 second album ~HEAVEN~』

一字一句表紙の文字を指でたどりながら、まるで恋する乙女のように幸せな顔をする。
律人は大の進藤奏太ファンだった。


「うぁぁ……かっけえ、すっげー綺麗な顔だし」


大学の講義へ行かなければいけないというのに、律人は写真集を夢中で眺める。
講義開始は11時半から。
名残惜しさを残しつつ、仕方がないと写真集をそっとカバンにしまうと公共のフリースペースを後にした。
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