ゲームの悪役令息の(死ぬ予定の)弟に転生したけど俺は必死に生き残ります!

チョコレートを食べたい

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11.俺の母様

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 俺が別邸に行くにあたって、ラーナ兄様から三つの条件が課された。

 一つ目、絶対にラーナ兄様から離れないこと。
 二つ目、絶対に別邸の人にブリオングロードの人間と悟られないこと。
 三つ目、絶対に母様に正体を明かさないこと。

 ラーナ兄様は秘密だよと目立たないようにスチュワードの制服をクローゼットから取り出し、彼は直ぐにそれに着替えた。

 するとなんと見習いスチュワードのようなラーナ兄様の誕生。

 嗚呼、これを推しがしてくれたらな……とぐへへとしていると、俺をソファに座らせていたラーナ兄様が持ち上げてきた。


「母様は精霊が見えないから大丈夫だけど、あんまり人気が多いところでこれをしちゃダメだよ。」


 人差し指を口元に当てて言い聞かせるようにジェスチャーしてくる。
 俺はそれに素直に頷き、約束を交わした。
 満足そうにラーナ兄様が笑い、横にいた精霊に何かを命じた。
 次の瞬間、ラーナ兄様の髪の毛が毛先の方からじわじわと色が焦げ茶に変わっていく。


「わぁあ~!しゅごい!」
「ありがとう。でもこれはあんまり精霊さんにお願いしちゃダメだよ。精霊さんもずっとしてたら疲れちゃうから。」

 
 ほう、ええとつまりこれをしてくれている精霊さんは水をカップに容量まで注ぐのと違って、ずっと放出してるような状態みたいなもんってことか?


「あい!」
「うん、いい子」


 髪を染めるのはやはり一人が限度なのか、俺の事は黒いケープを着せフードを被せるだけに留めていた。
 どうやらこれで準備満タンらしい。

 俺を抱きかかえたラーナ兄様は平然と自分の部屋を出た。
 すれ違う本邸のスチュワードさんたちは俺たちをチラリと見るけれど何も言わずに通り過ぎて行く。

 どうしてだろうか?目立っているのか?
 なら何故何も言ってこないのだろう。

 うーん、とモヤモヤ頭を悩ましていると、不意に空気が肌を刺すように小さめの鋭い痛みを感じるものに変わった。
 本邸の外に出たのだ。


「しゃむい……」
「もう冬だからね。精霊さんにあっためてもらう?」
「んむむ、しぇれぇしゃせいれいさん、ぽかぽか」


 するとすぐに三匹ほどの精霊さんが集まって転がっていた石を火で炙ってくれた。
 ラーナ兄様はそれを布で包み俺に持たせてくれる。

 簡易式カイロだー!あったかーい。

 それに頬を擦り付け堪能していると、ラーナ兄様はまた歩き出した。
 道には少しだけ雪が積もり始めていて、その上を精霊がピョンピョンと跳ねてダンスをしていた。

 いいな楽しそう。俺もしてみたい。

 およそ時間にして十五分くらいだろうか。
 そのくらいの時間が経過してやっと別邸の前にたどり着いた。

 見た目は別邸の割に本邸と遜色無く、本当に第二の本邸で本邸と別邸が双子のような作りだった。

 ラーナ兄様は表からは入らず、裏手に回り使用人専用扉から入った。
 何だか手馴れているな、普段からこういう事をしているのだろうか。

 別邸の中に入り迷い無く足を進めていると、急に肩を叩かれて止められた。
 バレた!?と身を竦めるけれど、ラーナ兄様は表情を変えずに振り返った。
 そこには小太りのスチュワードが居て、俺たちを疑わしそうに見ずに二カリと眩しい笑顔で喋りかけてきた。


「ターニーじゃないか。今度は三週間も何処に行っていたんだい?」
「ウェラさん。こんにちは、今回も内緒だよ。」
「はは、分かってたさ!お前さんが居なくなる理由を教えてくれたことなんて無いからね!」


 ターニー?ラーナ兄様の偽名か?
 何故別邸でラーナ兄様の偽名が浸透しているのだろうか。
 もしかして度々ラーナ兄様は別邸に来ている?


「そういえばその子は?大分小さい子のようだけど」
「ああこの子。俺の弟だよ。今日は家に両親がいなくて俺が仕事場に連れてきたんだ。」
「おやそうかい。にしても、何でフードなんか被って———」
「触らないで」


 俺に伸びてきた手を叩き落として冷たく変わった声でピシャリと言い放つ。
 触られると思って硬直してしまっていた身体が、少しずつ体の力を抜いていった。

 ウェラさんとやらはその行動に気まずそうにして目を泳がし手を後ろの首に当てていた。 


「あー……すまなかったよ。訳ありなんだね。」
「いや、いいよ。もう触らないでくれたら。じゃあ俺たちはもう行くから。」


 ラーナ兄様は俺のフードの先を少し引っ張って深く被り直させ、ウェラさんの横を通り過ぎた。
 けれど何歩か歩くと後ろから呼び止められ、ラーナ兄様は足を止めた。


「何?」
「あ……その、奥様が、お呼びだぞ」


 俯いてモソモソと喋るその姿は話しかけてきた時とは真反対だった。
 ラーナ兄様は「わかってる」とだけ残してまた歩き出す。


「今日はその奥様に逢いに来たんだから。」


 ポツリと残されたウェラさんの顔は、心配に満ち溢れていた。
 


        ❏ ◪ ❒ ❏ ◪ ❒



 ひとつの部屋の前にたどり着いた。
 その部屋の扉は俺やラーナ兄様の扉のように煌びやかで、重そうな、だけど華やかで可愛らしい装飾だった。

 すぅっ、と息を吸うとラーナ兄様は三回その扉を叩いた。直ぐに少し高めな鈴のような男性の声が返ってきた。


「失礼します、奥様。」
「ずっと待っていたよターニー!」


 部屋に入った途端、俺の視界が真っ暗になった。

 なんだなんだ!?何が起きた!?んぐ、苦し。

 少し我慢していると直ぐに明るくなり、どうやら人と人との間に挟まっていたようだった。
 圧迫感が無くなったことによって息がしやすくなり、ぷふーっと息を吐き出した。

 目を開けると、下アングルで新しい見たことの無い男性の顔があった。

 見た事がない、けれど俺にそっくりな人。

 まるで韓国漫画の主人公のような桃色の髪に、俺と同じアリスブルーの瞳。

 心臓の早鐘がどんどんスピードをあげる。

 もしかして、この人が……俺の母様?


「奥様、来るのが遅れてしまい申し訳ありませんでした。」
「いやいいんだよ。さあさあ、早く席に着いて!」


 そう言って強引にラーナ兄様の背中を押して部屋の中にあるソファに座らせる。
 
 会えた、やっと俺の母様に会えた!母様!

 寝る時にいっぱい妄想していたんだ。
 母様に会ったらどんな顔をしていてどんな声なのか。
 けれど思っていたよりとても綺麗な顔に声だ……

 早く俺が息子だと明かしてしまいたい、けれどラーナ兄様と約束している。
 破ってしまいたい。
 どうしてもいざ母様を目の前にするとそんな感情を抱いてしまう。
 

「本当に素敵だね、君のその瞳。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
「やはりミーアの瞳にそっくりだ。殆ど一緒だ。」


 トロリと溶けるような瞳でラーナ兄様のを見て、その顔に手を伸ばす。
 綺麗な顔でそのような表情をするとなんだか扇情的だ。
 そんなことを母様に思ってしまって、思わず自分に恥ずかしくなってしまう。
 

「本当に素敵だな。まさか同じ瞳を持つ子がいるなんて。正に奇跡だ。神様が私に遣わせてくれたのだ。」


 ドロドロとしたものが、ラーナ兄様についていくようだ。


「あいつが産んだ子も同じ瞳だったが、如何せん髪が憎い。なぜあいつと同じ色なんだ。」
「奥、様。落ち着いてください。」


 今度は温もりのある目隠しが訪れた。
 きっとラーナ兄様の手だ。


「ミーアが幼い頃にそっくりだ……どうしてだい?本当に素晴らしい……」
「奥様、私は旦那様ではありません。」
「わかっている!だが良いでは無いか。」

 
 心臓が、悪い方向に鳴る。

 この声は本当に俺が願っていた声か。


「奥様が……産まれた、坊ちゃんなのですが……」
「ははターニー、何を言っているんだ」


 嫌な音だ。





「私は『男』など産んでいない」



 ラーナ兄様が急いで精霊に音を遮断するように頼んだが、間に合わなかった。
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