詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています

プラネットプラント

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アライアス

姪が王女だった。それにしても貴族が多すぎる。

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 とんでもないことがわかった。
 姪のローズマリーはローズマリー王女だった。

 なんで、姉と一緒に里帰りしているんだろう?
 王女って、そんなに簡単に王宮から出られないものだよね?!

 なんでもないことのように言ったイオン卿が怖い。
 だって、イオン卿も姉とローズマリー王女が一カ月近くこの館に滞在しているのを知っているんだよ?
 王女が母親と一緒に一ヵ月も母親の実家にいるっておかしいよね?
 そこを気にしていなさそうなイオン卿がすごすぎて怖い。

「そんなあっさり言っちゃっていいんですか?」
「『そのように言ってしまっていいのかしら?』」

 思い出したように訂正しなくていいよ、イオン卿。

「今はそんなことじゃなくて、ローズマリーが王女だってことをなんで今まで言ってくれなかったんですか?」
「お姉様から聞いていなかったのですか?」

 イオン卿は質問に質問で返してきた。

「姉は嫁ぎ先がどこか教えてくれないんです」

 何か思い当たることがあるのか、イオン卿は頷きながら言う。

「そうですか。もしかしたら、お姉様にとってあそこは思い出したくない場所なのかもしれませんね」
「どういうことですか?」
「お姉様が教えてくださるまで待ったほうがいいということです。ですが、ローズマリー王女が毎日王宮に通っているのはご存じだったでしょう?」
「ローズマリーは父親の家に勉強しに行っているとしか聞いていません」

 父親の家に行っているローズマリーの帰宅が遅くなって、お茶会の終わりのほうになってしまうのは王宮だからなのか。

 姉が知人を送り出すのと入れ替わるようにローズマリーはお茶会の席に着く。だから、姉たちとのお茶会は前半は姉とその知人。後半はローズマリーと二人だけのお茶会になる。

「ああ、なるほど。送り迎えの者が近衛騎士だということには気付きましたか?」

 近衛騎士?!
 そんなの知らないよ。誰かに教えてもらわないとわかるわけない。

 こっちは生まれてからこの館を出たのが2回だけ(攫われた時は意識がなかったから別)なんだよ?
 騎士だって市場に連れて行ってもらった時に見かけたような気がする程度なのに、近衛騎士を見分けろって無理だよ。

 貴族って、そんなこともわからないといけないの?

「近衛騎士ですか?! 知りませんでした・・・」

 私はシュンと項垂れた。

 私は貴族としては物を知らなすぎて、家庭教師のミス・アーネットは貴族じゃないから貴族の詳しいことはわからない。お茶会で話してもらう内容から学んでいくしかないのが現状だ。
 イオン卿もそれがわかっているからか、私を安心させるように笑顔を浮かべる。

「まあ、これからそれをおぼえていくのですから、仕方ありませんか」
「はい・・・」
「ローゼンバーグ侯爵令嬢以外に呼びたい令嬢はいますか?」
「じゃ、じゃあ・・・。おっとりラモーナと、グリゼルダとじゃじゃ馬イモジェン。それにアグネス。アグネスは頭が良いの」

 私がまだ10歳であるように、他の不憫系悪役令嬢も10~12歳。巨乳とか社交界の華とか、才女なんて単語とはまだ無縁だろうから使えない。10歳で才女はないよ。12歳でも、外見が大人じゃないと無理だ。

「家名は?」

 兄妹そろってゲームに登場してくる私やローゼンバーグ侯爵令嬢は家名までおぼえているけど、それ以外の令嬢の家名はおぼえていない。
 爵位すらおぼえていない。
 貴族の通う学校に通っているから、貴族なんだろうけど。

「・・・わからない」

 イオン卿は大きな溜め息を吐いた。

「レディ・リーンネット。この国に貴族の家がいくつあるかご存知でしょうか?」
「えー・・・、30くらい?」

 その質問にベッケンバウアー公爵の家に我が家、ウォルトの家、他の不憫系悪役令嬢5人の家と攻略対象の家、本物のシルヴィアの家ぐらいしか知らない私は倍より多いきりの良い数を言ってみた。

「高位貴族だけもそれ以上はいます。傍系まで含めれば貴族とその令息令嬢の数はざっと数千人」
「すうせんにん?!」

 驚きのあまり変な声が出た。

 貴族が数千人もいる?!
 そんなに貴族の人数が必要だとは思えなかった。
 宰相はウォルトのお父さんがしているし、フレイのお父さんも軍で働いているし、あとは彼らの部下ぐらいだから、数千人もいらないと思う。
 貴族の数が多いこの国が大丈夫なのか心配になって来る。

 だけど、イオン卿の言う数千人は全員が男性じゃない筈だ。令嬢のことを話しているんだから、半分は女性じゃないとおかしい。
 親にも兄弟がいて、その兄弟には妻がいて、その夫婦にも子どもがいる。
 娘は嫁に行くからと考えないとしても、親世代で子どもは2人以上。それに親世代にそれぞれ妻を1人づつ。親世代の数だけ子どもが2人以上いたら、二代でその一家は8人。
 二代までしか数えないのは、貴族というのは血筋で決まるもので、祖父まで爵位を持っている場合はその孫は貴族とは数えないから。父親が爵位を継承する長男じゃないかぎり、子どもは中流階級(知識階級)の庶民として扱われる。ただし、誰々の孫、誰それの姪甥・従兄弟として上流階級の催しに参加することが許される程度だ。

 話を戻すけど、貴族と呼べるのは一家で二代までと考えて8人。
 数千人を2千人と考えたら、親子二代8人で考えたら250の貴族の家があることになる。
 祖父母のうち、片方でも生き残っていたら、親子三代9人で貴族の家が220。
 その家族に未婚の娘が一人いると考えたら200になる。
 そんなことを考えていて、私の家族を思い出したら姉が3人に兄が1人に私だから、考えてみたら子どもの多い家だと思った。

 つまり、ウォルトのお父さんやフレイのお父さんの部下になれるのは親世代の男性400人くらいだから・・・それでも多いか。

「レディ・リーンネットと同じ年頃の令嬢というだけでも100人もいるんですよ。それを家名なしで名前だけで探せというのは――」

 数千人の貴族がいたら、私と同じ年頃の令嬢もかなりいることになる。
 それを名前だけで探そうとしたら、それは非常に困難だ。
 おとぎ話で舞踏会で忘れ物だった靴に会う令嬢を探した王子様の話でも、忘れ物をした令嬢は使用人として働かされていて、継母に「この家の娘はここにいる自分の娘しかいない」と言われたようなことをされるかもしれないし。

「――無理な話です」

 イオン卿が言いたいことはわかったので、そう答えるしかなかった。
 せっかく、ウォルトに頼もうと思ったのに、イオン卿ですら大変だと言われてしまったものを探させてまでさせるわけにもいかない。
 学校に通うまで、ローゼンバーグ侯爵令嬢以外とは接触できないか・・・。
 唯一接触できるローゼンバーグ侯爵令嬢も、私がマナーを身に付けるまでお茶会に呼ぶことも呼ばれることもできないし、どうしよう?

「そうですね。親戚の中から何人か来てもらいますから、それでローゼンバーグ侯爵令嬢が参加されるお茶会に行けるようになりましょう」

 ローゼンバーグ侯爵令嬢が参加するお茶会に行けるようにって言う、イオン卿の意図がわからなかった。

「なんでそのお茶会に?」
「そこで知り合いになれれば、個人的なお茶会に呼ばれる可能性もあるでしょう?」
「ああっ! それだっ!」

 個人的に招かれたお茶会でローゼンバーグ侯爵令嬢と話して、ヤンデレをシスコンに戻す方法とか、偽シルヴィアの対策がとれるようになるかもしれない。

「『そうですね』」

 ローゼンバーグ侯爵令嬢とだけでも会えるようになるとわかってテンションの上がった私に、言葉遣いを直すイオン卿の一言がかけられた。





――――――――――




※注意書き
リーンネットは館の外の世界について多くは知りません。
前世ですらテレビの中にあったものぐらいしか知らないので、社会構造についてほぼわかっていません。
貴族についてもその役割はウォルトの愚痴や姉の開くお茶会でしか知りませんので、ここで補足をします。
貴族は文官や騎士などになって仕事をしています。これはリーンネットもウォルトのお父さんやフレイのお父さんの部下として認知していますが、現代では省庁、都道府県庁、市町村の役所、警察、自衛隊のような仕事です。
これらの仕事は数千人の貴族だけではやりきれないので、中流階級(裕福な商人、弁護士、医者、学者、宗教家、銀行家、役人)の家に生まれた庶民もやっていることがあります。
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