幸せを見付けたので、お姉様に婚約者を差し上げます。

プラネットプラント

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クラレンスの最後通牒

 苦痛でしかないダンスを終えてフェルナンドにエスコートされたのはお父様のところではなく、ユージェニーとマーゴのところだった。わたしの顔など見たくないから、お姉様の近くに居るお父様のところに連れて行かなかったのだろう。
 そこにはまだクラレンスもいた。ブライアンの帰りを待っているようだ。
 ブライアンはお姉様を取り巻きのところにエスコートしている。彼らのうちの誰かがお姉様の次の曲の相手である可能性が高いからだ。
 フェルナンドはクラレンスを苦手としていると聞いていたけど、お姉様の近くにわたしがいるよりはいいらしい。そこまで嫌っているのなら、婚約も弟のブライアンと代わってもらったらいいのに。
 ミラー家の跡取りであるフェルナンドがダヴェンフィールド家を継ぐお姉様とは結婚できない。フェルナンドがわたしと結婚してお姉様の義弟になるか、わたしがブライアンと結婚して義兄になる以外、フェルナンドがお姉様と縁を繋いでおくことはできない。
 だけど、わたしの婚約者がブライアンになったら、お姉様と一緒に顔繋ぎすることもできなくなる。弟の婚約者の姉とはそういうものだ。ミラー卿もご子息の婚約者を紹介する為に連れまわせても、ご子息の婚約者の姉は連れまわせない。お姉様を連れまわすにはわたしも一緒に連れて「息子の婚約者とその姉」として紹介するしかない。
 つまり、お姉様と一緒にフェルナンドが顔繋ぎできるのは、お父様が長女と次女の婚約者を紹介しているからだ。フェルナンドをお姉様の婚約者だと間違える者もいるだろうが、そこは次期当主でもない次女では会話に付いていけないとでも話しているんだろう。

「迎えに来るまでここで大人しくしているんだ」

 ユージェニーやマーゴだってダンスをしたり、他の知人に会いに行くというのに何も考慮しない酷い言い草だ。
 お母様なんかは、顔繋ぎの最初に夫婦で挨拶した後、既婚婦人仲間とおしゃべりしている。そちらにフェルナンドが連れて行かないのは、わたしと三曲踊らなければフェルナンドが既婚婦人たちに小言を言われるからだ。
 婚約しているからには、出席した夜会で三曲踊らなくてはいけない、と彼女たちは考えている。それくらいは政略結婚でも仲が良いと周囲にアピールする義務だ、と。顔繋ぎをいくらしっかりしていても、婚約者を気遣っているなら三曲踊るはずだ、と。
 お姉様の傍に居たいフェルナンドには耳に痛い話である。
 そんな評判に煩い既婚婦人たちに近寄らないですむので、ユージェニーやマーゴのところに連れてくるのだ。

「物は言いようだな、フェルナンド卿。婚約者を放置して、どこに行く気だ?」

 ユージェニーたちの傍にいて、彼女たちと同じように存在を無視されていたクラレンスがわたしを捨て置いて立ち去ろうとするフェルナンドに声をかける。

「クリフトン卿?!」

 クリフトン卿ということは、クラレンス・クリフトンは爵位持ち?!
 フェルナンドのように名前に卿と付くのは伯爵以上の爵位を持つ貴族の令息の敬称でも、名字に卿と付くのは爵位を持った当主ということ。
 同じ卿が付いても、これには大きな違いがある。現当主と当主候補では立場が違い、現当主は家の存続を、当主候補はまだ当主になるには足りない者と見なされる。
 クラレンス・クリフトンが領地を失った没落貴族でも、当主は当主。フェルナンドとは違って、当主に廃嫡されて爵位を取り上げられることはない。
 それにフェルナンドはクリフトン卿と呼んでいた。爵位持ちでも使用人の紹介なら名前のクラレンスか、名字のクリフトンだけでいいことから雇われ人ではない、ということだ。執事や土地差配人のような上級使用人は他の使用人から敬称付きで呼ばれることが多いが、仕えている家から爵位持ちとして扱われることはない。
 クリフトン卿がフェルナンドから爵位持ちとして扱われているということは、彼はミラー家と取引のある領主ということだ。領主は土地差配人よりも上の領地経営責任者と言える。

 ブライアン・・・。なんで、こんな大切なことを言っていかなかったの・・・。せめて敬称付けて呼んでいて欲しかった。
 爵位を持つ当主と貴族の子孫は違う。まったく違うのに・・・。

「如何にも。タウンハウスでは捕まらないから、婚約者の傍ならは捕まえられると、こちらに連れて来させてもらったが・・・想像以上だな」
「ここで無粋な話をするな」
「仕事の話をできる環境でお前が捕まらないからだろうが。それに挨拶回りをしているなら、仕事で協力関係である私に一番に会いに来るのが筋だろう。それとも、父親に任せられた仕事の荷が重いのか?」

 フェルナンドはミラー卿にクリフトン卿との仕事を任せられていたようだ。ミラー家がクリフトン家と共同でおこなっている施策の一部を任せられていたのを放っぽり出して我が家に来ていたのなら、クリフトン卿がブライアンと共に捕まえに来るのもわかる。
 次期当主ということで、家業の一部を任せられていたのだ。クリフトン卿が同年代だから、長く付き合うことを考えてフェルナンドに任せたのだろう。
 それを無碍にして我が家に来ていたとは・・・。
 フェルナンドはお姉様たちと次期当主の勉強などしている場合ではない。

「そっちこそ、挨拶に来ていないだろうが」
「話し合いの度に都合が付かずに代理を立てておいて謝りにも来ないとは、信じられないな」

 実害を受けていたから、フェルナンドの名前を聞いてクリフトン卿が顔を顰めたくなるのもわかる。非礼を働いておいて、社交の場でも挨拶にも来ないのだから、額に縦皺も寄る。

「!!――」

 フェルナンドが何か言いかけるよりも先にクリフトン卿が続けて言う。

「まあいい。交渉相手はブライアンになり、アリス嬢も参加してくれることになった。二度と顔を合わせる必要もないだろうから、謝罪も不要だ」

 クリフトン卿が言っていることは本来なら衆目のないところでしか言ってはいけない。社交の場で言うとなると、事は重大になる。クリフトン卿はフェルナンドを交渉相手にしないと、この場で宣言しているのだ。
 クリフトン卿がミラー家と取引をするとしても、フェルナンドの顔も見たくないと思っていることがどのように作用するのか、フェルナンドは気付いているのだろうか。
 ミラー卿からフェルナンドの代に代わったら、ブライアンかわたしがクリフトン卿と顔を合わせることになる。家同士が仲の悪い場合なら兎も角、仕事で協力関係である他家の当主と顔を合わせないということは、フェルナンドを跡継ぎにするには資質に問題がある、ということになる。
 今からでもまだ謝れば、フェルナンドの跡継ぎの資質は問われないだろう。

「フン! ブライアンですむ問題を大袈裟にしてくる奴と顔を合わせないですむかと思うと、嬉しくて堪らないわ」

 鼻で笑うフェルナンドは興奮していて、クリフトン卿の最後通牒には気付かなかったようだ。

「それはこちらの台詞だ。アリス嬢はブライアンが来るまで預かっておく。さっさと自分の居場所に戻るんだな」
「なんだと?!!」

 次の曲の為に人が集まったダンスフロアからフェルナンドに声がかけられる。

「フェルナンド」

 フェルナンドが振り返ったそこには次のダンス相手と共にいるお姉様がいた。わたしをエスコートしたままフェルナンドが戻って来ないことを気にしてやって来たのだろう。
 ブライアンはダンスフロアを避けて大回りで戻ってきているところだった。
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