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 四阿には既にお茶の用意がされていた。お茶の付け合わせの軽食は材料さえあれば、すぐに作れるハムやチーズのサンドイッチや作り置きの焼き菓子。
 サンドイッチがあることにディアは目を丸くした。
 離れに押し込められているディアのお茶の時間は自分で入れたお茶と数日に一度、用意される保存の効く焼き菓子だけだ。お茶の用意どころか、サンドイッチなど具材を挟むだけの手間すら省かれていた。
 食事も使用人と同じか、それ以下で、給仕が必要ではないパンとチーズ、それにハムと果物がバスケットに入っているだけ。スープすらない。
 母親が生きていた頃は給仕はなくとも、スープやサラダ、主菜も用意されていたが、ディア一人になってからは、ひどくなった。
 一人で孤児院に行くようになってからは、食事作りも手伝うようになったおかげで、食べたいものは自分で作れるようになったが。

 そこまで手抜きをされていたはずが、四阿に用意されているものは義妹たちには及ばないながらも、まともなお茶の用意がされていた。

「さあ、どうぞ」

 ノーマンに椅子を引かれ、ディアはテーブルへのエスコートを素直に受けた。
 目の前の椅子にノーマンが着席するかと思えば、彼は視界にも入ってこない。
 ディアが後ろを振り返ろうとすると、斜め後ろに立っているノーマンが視界に入った。給仕をする使用人が立っている位置だ。

「お座りにならないのですか?」
「貴女が慣れないうちは、ただの騎士に徹します」

 給仕の位置にいるのは、騎士だかららしい。護衛をしているようなものだろう。
 しかし、結婚する相手と同席せずに、護衛に徹する意味がディアにはわからない。

「結婚するのですよね?」
「今日初めて会ったばかりです。同席しても緊張しませんか?」
「それは無理ですが・・・」
「同席するのは私が傍にいることに慣れてからにします。こうしているほうが、緊張せずに話せるでしょう? 私は、貴女と話せるだけで嬉しいんです」

 話せるだけで嬉しいなんて変な人だとディアは思った。
 そもそも、緊張しないように同席しない点からおかしい。求婚する前から同席して話すのは当たり前なのだ。
 にもかかわらず、ノーマンは慣れるまでは緊張させたくないと同席を断って、視界に入らない位置にいる。

 おかしな人だと思った。
 それでも、ディアはそのおかしな気遣いが嬉しかった。
 二人でする奇妙なお茶の時間は、四阿にいるというのに、ディアの胸は日向にいるようにポカポカと温かかった。
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