僕の装備は最強だけど自由過ぎる

丸瀬 浩玄

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第六章

第62話 開戦

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 あれは1年程前だった。俺はブリンテルト王国、大森林方面防衛軍第二軍々団長として、国王に招集され王城に赴いた。

 そこには俺だけでなく、王国中の軍事面の幹部がほぼ全員揃っていた。

しかし、俺も含め皆、招集された理由も分からず、困惑気味の様子だった。

 
 やがて国王が、一人の中年の男と共に現れた。

 その男とは、かつてブリンテルト王国最高の魔術師と言われた男、ローレンツ卿だった。

 そして俺たちがここに招集された理由――ローレンツ卿がもたらした情報は、とてもじゃないが簡単に信じられるような内容ではなかった。

 ――邪神復活――

 そして、1年後に起こる邪神の完全覚醒。

 そんな眉唾物の情報を正直信じられなかった。しかし、1年後に予想されるという完全覚醒した邪神に対抗するため、俺達は集められ、軍の増強を王命として仰せつかった。

 王命である。例えそれが信じられない内容であったとしても、俺たちはその為に全力を尽くさねばならない。


 それから俺たちは、軍の上層部以外には邪神復活を秘密にしながらも、兵を集め、鍛え上げてきた。それは我国だけでなかった。あの真偽の程が不明な情報に、世界中の国々が行動を起こした事に正直驚きを禁じ得ない。



 各国が軍備拡張を進める中、ローレンツ卿が言う1年が過ぎようとしていた。


 ◇ ◇ ◇


 俺の視界には、見渡す限りの魔物の群れ……、いや、魔物の軍がブリンテルト王国の領土内に侵入してきている。

「いよいよ、きたか……」




 一ヶ月前にそれは突然始まった……

 その日は、暖かく過ごし易い日だった。天気は快晴、流れる風も穏やかだった。なのに、体の芯からくる震えを抑える事が出来なかった。


 世界中の人々は一斉に感じたのだ。

 暗く澱んだおぞましい気配。そして、他を圧倒する濃密な闇の気配。光に属する者にとって最悪の存在が現れた事を。



 その日から世界は一変してしまった。

 世界中で魔物がより凶暴化し、大きな群れとなって村や街を次々に襲い始めたのだ。

 我らブリンテルト王国軍は、それらの魔物を討伐しながら各地を転戦した。


 しかし、それはこれから始まる邪神軍との戦いにおいて、ただの前哨戦でしかなかった。

 そして今、邪神軍は本格的な侵攻を開始したのだ。



 ついに本格侵攻を開始した邪神軍は、多種多様な魔物で構成されていた。

 オーガやトロールなどの人型から、ウルフやタイガー、ベアーなどの獣型、そして異形の化物まで、その数は1万を優に超える。

 それを迎え撃つのは、ブリンテルト王国大森林方面防衛軍全五軍、二万。そしてハンターギルドから集められた義勇兵、五千。総数二万五千の大軍だ。
 

 俺が指揮する森林方面防衛軍第二軍は今回の戦場において前線に配置されていた。
 

「閣下。邪神との戦闘状態に入りました」

 最前線から報告が入る。視線の先では既に戦塵が上がり始めている。ついに邪神軍と初の本格的な戦争が始まったのだ。


 序盤の戦いは優勢に展開出来ていた。俺が率いる第二軍は各隊が常に連携し、次々押し寄せる魔物を各個撃破していく。
 
 強力な個の力を、訓練で培った連携でねじ伏せる。そんな戦いが序盤に展開されていた。だが、突如現れた黒い軍団によって、戦況は一変する。


 僅か300体ほどの黒い軍団。――細く長い手足に黒い体、そしてコウモリのような翼を持つ魔人。その双眸は赤く光り、それが何者であるかを我らに知らしめる。

 ――魔族――

 その姿は伝説にある魔族の姿。レッサーデーモン。

 魔族において下位に当たるレッサーデーモン。だが、下位と言ってもそれは魔族としてだ。文献に残されたレッサーデーモンのレベルは150。あのオーガロードを超える強さを持った化物が300体。そして更に文献にはこうある。――邪神の完全覚醒がなされた時、魔族の力はより高く引き上げられると――どれだけ力が引き上げられているか分からないが、正直洒落にならない存在だ。

 黒い軍団が参戦してから、戦場は奴等の蹂躙の場と変わり、それに伴い邪神軍の反転攻勢が始まった。


 今まで完璧に機能してきた陣形は崩壊し、各隊の連携もままならなくなる。

 魔族は指揮官を狙い襲ってくる為、指揮系統は混乱し立て直しも撤退もままならず、兵は次々と命を失っていく。

 一時撤退を指示したが、とてもじゃないが全軍に伝わりそうにもない。それどころか今では俺が居る場所すら混戦の中にあった。


 完全に俺のミス。判断の遅れが今の状況をつくってしまった。

 後悔の念が押し寄せる中、俺は少しでも状況を改善させようと指示を飛ばし、自らも前にでて戦う。だが、指示は混戦の中かき消され、組織だった抵抗がますます出来なくなっていく。

 このままではジリ貧だ。

 序盤の戦いが上手く進んだ為に、敵の戦力を甘く見てしまった。自らの戦力を過信していた。俺自身の無能さに怒りすら込み上げてくる。

 かくなる上は、この身を犠牲にしてでも、一人でも多くの部下をこの戦場から生かして返してみせる。


 ――そう思った時だった――


 ドラゴンのブレスのような赤い閃光が、邪神軍を横断するように走った。続いて邪神軍に立ち上る巨大な炎の壁。

「な、なんだ、あれは……」

 炎の壁が燃え上がる中、新たな驚きは俺のすぐ近く起こった。

 それは先ほどの邪神軍を襲った閃光と違い、矢のような細い閃光だった。赤く光るその閃光は戦場に雨のように降り注ぎ、次々と魔物だけを撃ち抜いていく。

「今度はなんだ!?」

 状況が分からないまま、状況が好転していく。

 なにが起きている? 降り注ぐ閃光の元を求めて目で追う。そして――


 そこには少年が居た。漆黒の鎧とマントを纏、漆黒の盾を持った亜麻色の髪をした少年。その少年が美しい白いペガサスに乗り、無数の閃光を魔物に向け次々と撃ち出していたのだ。

「あれは……、もしかして黒の勇者か……」

 黒の勇者。それは、邪神が覚醒してから突如として現れた最強の戦士。その戦士は各地の戦場に現れ、次々に魔物を殲滅しては何も言わず、また別の戦場に向け立ち去っていくという。

 その最強の存在が今この戦場に現れたのだ。
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