合成獣少女の異世界譚

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プロローグ

培養液の中で

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 「ガァッ、アアァァ…ヒュー…ヒュー」

 「マスター、検体の呼吸に異常が見られます。いかがなさいますか?」

 「チッ、次から次へと。呼吸器の麻痺だ、口からチューブ突っ込んで補助しておけ、俺は一旦席を外す」

 「かしこまりました、マスター」

 あの男が部下であろう連中に指示をし、部屋を出るのが見える。ようやく一息つけそうだ。…最も、今は一息つく余裕もないが。

 「アベル! 呼吸補助用チューブを!」

 「はい! …呼吸補助用チューブ、作動しました!」

 アベルという青年が何かの装置を操作すると上からチューブが降りてくる。

 「ヒュー…ゥム、ぶ、うぇ…」

 喉に何度も触れるせいで思わずえずいてしまうが、あいにく吐くものはなかった為に周りが吐瀉物だらけになるような大惨事にはならなかったのは幸いだ。

 …次第に呼吸が楽になり頭が働いてくる。今私はSF映画で見るような培養槽に浮かんでいる。
 何故そんな事になっているかというと色々な事象が絡んでくるため説明が難しい事になるのだけれど、とりあえず目的だけは明確だ。

 …先ほど部屋を出ていった男は私を最強の生物に改造したいそうだ。鼻で笑って返されるどころか頭がおかしくなったか心配されそうな話だがあの男は本気でやっているらしい。
 現にさっきまでは状態異常への耐性実験と称して様々な薬品を投与してドーピングした体に明らかに危険と分かる色をした薬を投与していた。
 その結果、私は麻痺の前にも体が石化したり、内側から燃え上がる様な痛みを味わったりした訳だが。

 とはいえ自分の体に何が起こっているのかすら分からなかった初期の頃と比べればはっきりと成果は見られている。
 聞こえるはずもない培養槽の外での会話ははっきり聞き取れているし、連中が魔法と称す炎や電撃で傷を負うことが最近なくなった。

 現状を見ると確かに夢物語ではないとも言える。むしろここへ来て3年程度でここまで変貌したのだから実に素晴らしいとまで言えるだろう。
 私が地獄の様な痛みを味わうことと、最早元の姿が分からない程に原型を留めていないことを除けばだが。

 考えを巡らせている内に近くにいるアベルと彼に指示をした男が話し始めた。

 「ふぅー、とりあえず一息つけたな。全く、俺たちのマスター様は人使いが荒らすぎるぜ」

 「そうっすか? むしろ俺たちみたいな訳ありを拾ってくれたことを考えればだいぶ良い人だと思うんすけど。多少のミスだって見逃してくれるし」

 「甘ぇなぁお前は。最近はあれでも機嫌が良いから一見良い上司に見えるけどよ、この実験体が運び込まれたばかりの頃なんかは大変だったぜ? 端からボロボロだったからすぐに死にかけるしよ、そんで急かされて上手く対応できねぇと今度はそいつが他の実験にまわされる。当然、実験体としてな?」

 「うへぇ、マジっすか? 俺こんなんなるのはごめんっすよ?」

 「俺だってごめんだっつーの。ただまあ、これほど酷い状態になるのはなかなかねぇけどな」

 「そういやこの実験体って人間なんすよね。最近ここにまわされたんでこれのことよく知らないんすけど、元はどんな感じだったんすか?」

 「あー、確かこいつここの近くに何故か一人でいるのを見つかってここに連れてこられたんだよな。そん時は気絶してたから運ぶのは楽だったぜ」

 「え、ここら辺って危険な魔獣も多いっすよね? よっぽど腕が立つやつだったんすか?」

 「いや、明らかに戦いとかできなさそうなガキだったぜ? しかも歩くこともできないくらい傷だらけだったからどうやってここまで来たのかわかんねぇんだよな。魔獣にやられたんなら死体も残んねぇはずだしよ」

 「へぇ、そいつはまたおかしな話っすね。…あ、でもこんな話聞いたことありますよ? 別の世界から人間が来るって話なんすけど」

 「なんだそりゃ、どこでそんな話聞いたんだよ」

 「いやー、俺も小耳に挟んだ程度なんで詳しくは知らないっすよ」

 「んだよ…、まあでも、もしこいつがそうだとしたらマスターのお眼鏡にかなった理由にはなるかもな。実験対象としては最高だろうよ」

 なるほど、確かに何故私を重要な実験の対象にしたのかは疑問だったけど、そういう話があるのなら一応合点はいく。実際その通りだしね。

 そうして私は思い出したくもないここに来る前の話を思い出す…
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