稜蘭高校 ドタバタ日記

藤野 朔夜

文字の大きさ
22 / 40
灯火の朱(あか) 暗闇の焔(ほむら)

しおりを挟む
  『学校の地下に、魔物が棲んでいる』
  などと言い出したのは誰なのか。
  忍はそんなことを考えながら、本日の業務をこなしていた。
  まったく謎な言葉だ。
  この学校に、地下は無い。





  魔物は、暗く奥深くに沈んでいた。
  つめたい眼差しをしたまま、冷たく暗い奥底に……。
  何者にも発見されることもなく、暗く冷たい場所に、何十年と否、何百年とソコにいた。
  そこに居ることが自然で、当たり前だった。
  魔物は動くことも考えなかったし、その魔物を捕えた者も、魔物を放っておいた。
  魔物は何でもできたのに、動く気力を無くしたように、ソコに居続けた。
  そして今、魔物はやっと色々と考え出した。
  自分を捕えた者はもうすでに居ない。
  誰かに引き継がれているとしても、その者も自分を放っておく気だ。
  ならば、ここに居続ける理由など、どこにも無いのではないか?
  先程から感じている、狂おしいほどに愛したヒトの魂の存在。
  探しに出ても、問題は有るまい……。
  廻り巡る、輪廻転生。
  人間の転生は、遅いものだと感じながら。
  魔物は愛おしいヒトの気配だけを追った。
  今の魔物には、それしか無かった。
  それ以外、考えられなかった。
  だからとりあえず、ココから出ようと考えた。
  そして愛おしいヒトの気配を追った。





  忍は何度か目の嘆息をした。
  面倒な仕事を押し付けられて、溜め息をつくなという方が、無理である。
  しかもほぼ、忍一人でやっているようなものだ。
  他のメンバーは、生徒指導室に呼び出されているか、他の学友とダベッているか。
  生徒指導室に呼び出しは、器物破損とかそんなことだろう。
  他の学友としゃべっていて、仕事をしてなくても、忍自身が注意をしないのだから、自分のせいかと忍は思っている。
  こんな生徒会だが、運営出来ているかどうかは、生徒が判断してくれさえすれば良い。
  できてないと、リコールされても、忍は肩の荷が下りるだけだから、気にはしない。
  忍はもう一度、嘆息した。


「リラ?どうしたと言うの?」
  美南玲奈は、リラ・川口・リュードリヒに付いて走りながら、彼女に問いかけた。
「何かがおかしいのです。ほら、先生方も走ってらっしゃる」
  リラは、玲奈の問いかけに走りながら答えた。
  先生だけじゃない。リラのように、異変に気付いた生徒も走っている。
  リラは込み上がってくる不快感を飲み込んで、先生たちや先輩、同級生が走る方向と同じ場所を目指して、走っている。


「恭、どうした?」
  恭にも、不快感は襲った。
  が、同室の圭吾を伴ってその場所に向かうより、部屋にいることを望んだ。
「良二も~おかし~よ~?」
  共にいた、良二も不愉快気にしている。
  陸也が気にしているが。
「なんだやねん、この変な感じ」
  良二は返事ではなく呟いた。
「あぁ、……何だろうな」
  同じように、圭吾に心配されながら、恭も良二と同じように呟いている。





  忍は突然の魔を感じた。
≪……ょう……≫
  唐突に表れた人外のモノ。
「……えっ?」
  忍は突然さに驚いて、何も出来なかった。
  人外のモノは、忍の首に手をかける。
  片手で簡単に絞められてしまう、華奢な首。
≪お前じゃない。……ょう……はドコだ?≫
  首を絞めながら人外は言う。
  忍は人外の手に自分の爪を立て、剥がそうとしながら必死に声を絞り出した。
「お前……は、何、だっ……!」
  人外は忍に爪を立てられても、気にした風もなく。忍の首を絞めたまま、扉の向こうを無感情な瞳で見通すかように見る。
≪関係ない≫
  忍は人外に問いかけることを、止めようとは思わなかった。
  それが生徒会長としての、意地だった。
  それがこの学校において、生徒の中で一番の霊能力者としての、義務だった。
「誰を……探し、て……いる、って?」
  人外は、忍のことをまったく気にしていない。
≪関係ない≫
  先と同じ回答。
  唐突に、人外の手が緩んだ。
  廊下を走るいくつかの足音。もうすでに、学校は終わっている。皆が寮へと戻っていても、おかしくはないのに。
≪……ょう……≫
  よく聞き取れない、人外の探している人物の名前だろう。それだけを残して、人外は消え去った。


「桐生さん!!」
  飛び込んできたのは、霊能力者として高い力を持つ教師と生徒会の仲間。そしてそれ相応の力を持った生徒たち。
「ゴホッ、ゴホッ……」
  首を絞められていたことで、忍はむせる。
  体は力を無くして、床にうずくまっていた。
「誰か、を……探して、いる……ようでした」
  呼吸が苦しくなりながらも、忍は話す。これは、言わなければならないことだ。
「今はまだ、しゃべらなくても良いわ。ゆっくり呼吸して。あなたは女の子なのだから、まずは自分自身を気遣いなさい。そうしたって、怒る人はいないのよ」
  忍の傍に、一緒に座り込んだ女性教師は、彼女の背中をさすりながら言う。
「でも……奴は、いなくなった、訳ではない、……ですから」
  女性教師に、何とか返答をする。このまま、あの魔物を、放置はできないのだ。
「そうね。突然のことで、遅くなってしまってごめんなさいね」
  学校に結界が張られているのは、ああいった魔物が入り込まない為。
  それなのにいた、魔物。
  力ある者たちが集まるからこその、結界の対応だったはず。
「私が、うまく対処できなかった、だけです。情けない。すみません。もう大丈夫です」
  生理的に浮かんでしまっていた涙を拭い去り、忍は背中を撫でてくれていた教師に言う。
「無理はしないでちょうだいね。突然のことだったのだもの。そんなに簡単に対処なんてできやしないわ」
  立ち上がる忍に合わせて、一緒に立ち上がりながら、女性として忍を気遣い続ける。
  この生徒会長は、力があるが為に、自分が強くないとならないと、考え過ぎている。そう教師陣は思う。
「それにしても、どこから現れて、どこへ行ったのでしょう」
  中条は考える。すぐに魔物を追うように式を飛ばしたのだが、見失っている。
  現れるのも突然で、忽然と姿を消した魔物。
「誰かを探してるって、言ってたね。誰かっていうのは、特定が出来なかったのかな?」
  ラミュエールが、忍へと問いかける。
  魔物に関しては、ラミュエールの方がわかるのかもしれない。
「無理でした。すみません。力不足で。聞こえたのは『よ』と『う』の二文字です」
  うなだれた忍。
  魔物に問いかけても、≪関係ない≫と突っぱねられた。答えが返っては来なかったのだ。
「否、君が無事であることが、何よりですから。気にはしないでください。今後の対策を考えれば良いのですから」
  中条は忍に微笑む。
  対応が遅れてしまったのは、教師陣も同じ。
  彼女は生徒だ。その彼女が無事であったこと。これ以上に良いことはきっと無い。
  魔物に危害を加えられてはいた。けれど彼女は生きている。
「まぁ、たしかにね。君が生きてることが、なにより、かな。『よ』と『う』ねぇ。探すのに時間がかかりそうだね」
  闇に近いラミュエールだからこそわかる。
  魔物が人間を殺すのは、息をするように簡単にやってのけてしまうこと。その魔物は、彼女を殺さずここから消えた。
「探しながらも、桐生さんだっけ?彼女に警護を付けるべきだろうね」
  何故殺さなかったのか。ラミュエールは考えながら、言葉を発する。
  魔物が探している人物は、彼女に関係深い人物かもしれない。それならば魔物がまた、彼女を襲う可能性もあるのだ。
「彼女をまた襲う可能性もある、と?」
  中条が、ラミュエール同様考えながら。
「可能性はある。だったら、無意味かもしれなくとも、彼女に警護を付けるべきだろう?なにより、魔物は彼女を殺してない。何かしらの接触があるかもしれないからね。魔物の消息が掴めないなら、こっちは守りに入るしかなくなる。魔物本体を探すこと、魔物の探し人を魔物より先に見付けること。魔物が接触した彼女を守ること。今できることは、そんなところだろうね」
  つらつらと、考えながら言うラミュエールの言葉に、反対する意見を教師陣は持っていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...