心霊現象相談事務所

藤野 朔夜

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冬、訪れた変貌

第一章 ①

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  空が、薄暗い。
  空気も重く、寒々しい。
  この季節になれば、寒くはなって当たり前だが、それだけとは、何か違う。
「章君、勇君」
  生徒玄関で、立ち止まっていた二人に声がかかる。
  あまり、学校では話さない人。
「純さん」
  振り向いた二人は、相手を呼んだ。
「奇妙な薄気味悪さが漂ってるから、聖さんも気にしてて。二人だけで帰すのは危ないだろうから、帰るの遅くなるけど、一緒に帰ろう」
  靴にも履き替えず、ただそこに立っていただけの二人は、純の言葉に頷いた。
  二人も、この薄気味悪い空気に、足が止まっていたのだ。
「なんでしょう、この空気」
  出所は、つかめない。
  章にも、純にもわからないモノだった。
「何かが起こる前兆、とか?」
  窓から外を見ながら、勇が呟く。
  三人で、保健室に向かっていた。
「そうかも、しれないね」
  純も、静かに返す。
  ザワザワと不安だけが支配して行く。
  ヒタヒタと何かが近付いて来ている予感。
  重苦しさに、三人とも会話は途絶えてしまった。
  コンコンコン
  ノックをしたら、中から応答があった。
「聖さん、正さんたちとの連絡は?」
  純は保健室に入るなり、聖へと問いかける。
  純が二人を連れに言っている間に、聖は正と連絡を取っていた。
「正体不明、というわけでもないらしい。天野の気配だと」
  自分たちにはわからないモノだったが、総責任者の彼はそう断言した。
  今まで姿をまったく現さなかった相手。いきなり出て来たということか。
「出て来たと思ったら、周辺の空気がとんでもないことになったな」
  聖は窓の外を見る。
「居場所の特定は、できたんですか?」
  章が、聖にすがる目を向ける。秋人が絡んでいるからだろう。
  相手が出て来た。秋人の居場所が、わかるのかもしれない。
「今のところ、居場所の特定はできてないらしい。ただ、相手が高速であちこち動いてるから、らしいがな」
  ここだ、と思ったら、もう違う場所に移動している。
  それでは、特定はできない。
「太一や、秀さんは?」
  秀は大学で、自分たちとは違う場にいる。太一はたまに出かけたり、のんびりしてたり、まちまちだが。
  純は二人の安否を知りたかったのだろう。
「太一は元から事務所にいたらしい。秀はこの空気が蔓延してすぐに、事務所に戻ったと聞いた。今は事務所であちこち動き回る相手を、監視してるようだが。あまりに動きすぎて、次にどこに動くか考える暇もないみたいだ」
  厄介な相手、としか言いようがない。
「そう、ですか」
  少し肩を落とした章。
  相手が出て来たのに、秋人のことがわからないのだ。
「俺も、すぐに仕事片付けるから、待っててくれ」
  明日に回せる分は回しても良いだろう。今日でないといけない分だけ、やってしまおう。聖は机に向かい出す。
  章も勇も純も、何も手が付かないと言うように、ただただ外を見ていた。





「石井章君たちは、出て来ないねぇ」
  あの中条の分家の人間と一緒に出てくる気かな。
  まぁ、この体だ。車で学校を出て来られても、車を停めることはたやすい。
  道端に立っているだけでも、彼らは停まるだろう。
  あちこち移動して、場所の特定はさせてないが、いい加減面倒にもなってきた。
  どうせ会うなら、最初は石井章だと思っていたが。
  彼なら、絶望した顔を見せてくれるのではないか、と思っての行動だ。
「でも、思った以上に、僕の力が周辺に蔓延しちゃったんだよね」
  これほどまでに、力が戻るのは、いつぶりだろうか。
  この器は、実に良い。
  抵抗は面倒だったが、今となれば、それも楽しかったことだ。
  奥底に封印したら、大人しくなった体の持ち主。まぁ、封印は簡単には解けないから、大人しくなるより他なかったんだろうが。
「くくくくく」
  笑いが込み上げてしかたない。
  元々楽しい復讐劇の幕開けだ。
  どれほどの抵抗をみせようと、この体相手にどこまで彼らは、やってくれるのだろうか。
  最初から、抵抗ないのはつまらない。楽しませるだけの、抵抗は見せて欲しいのだ。
  この体を返す気はない。だから、絶望に染まる顔を、早く見せて欲しい。
  どうあがいても、自分たちが死ぬか、この体を殺すかだ。
「ふふふふふ」
  この体を殺すことなんて、彼らにはできやしないだろう。
  もとより、僕も死んでやるつもりもない。
  これほどまでに、自分の力を引き出せる器だ。
  どう抵抗してこようが、返り討ちできる自信はある。
  この体に対して、どれだけの力で対抗してくるのか、そこには興味があるけれど。
「あぁ、鬱陶しい」
  監視のように、動く僕の跡を追う、誰だかしらない奴の式が、鬱陶しい。
  多分中条の人間のモノだろう。
  今のこの姿を、まだアイツらには見せてやる気はないから、その式からも逃げる。寸分の狂いなく、僕の跡を追っているな。
  なかなかの術者だとは、思う。でも、追うだけで、先回りはできていない。
  そこまで考えが、読めないのだろう。動きすぎているから、先回りができないのか。
  なんの法則もなく動いているから、先回りなんてできなくても、当たり前なんだよね。
  元居た場所に戻ってみたり、今まで一切行かなかった所に行ってみたり。
  相手を翻弄するのも、楽しいけれど。鬱陶しいには変わりない。
  いつかはわかるよ。僕のことがね。
  石井章君が出てきたら、確実に。
  でも、まだ見せてはやらないから。早くあきらめれば良いものを。
  今更、橘秋人がいなくなったことを悔いても、もうどうしようもないのだ。もうコレは、僕の器になったのだから。
「本当、今更だよね」
  ふふふふふ。
  あぁ、宵闇が近付いている。
  この時期は、本当にすぐに暗くなるからね。
  良い位置に立っててあげないと、彼らはこの姿を見付けられないかもしれない。
  この時代には、街灯もたくさんある。立つ位置には困りはしないか。
  街の明かりも消えやしない。
  昔は暗くなれば、本当に闇だったのにねぇ。
  時代というのは、便利になって行くものなのだろう。夜が無くなって、光が溢れるのが、便利かどうかは知らないけど。
  少なくとも、今の僕には便利でしかないね。
「早く、出ておいで」
  そして、絶望を、僕に見せておくれ。
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