トップアスリートはセフレを可愛がりたくてたまらない

鶴れり

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つまり、セフレってこと?(3)




 今週は災難続きだ。
 週末の風邪から始まり、一癖あるクライアントとの打ち合わせが重なった。

 極めつけには先月デザイン担当したパンフレットの色変更に誤りがあり、再度印刷会社に問い合わせて発注し直さなければならなかった。

 ようやく金曜日の終業時間を迎えた。長い長い一週間だった。
 いっそ、インフルエンザにかかって休んでしまいたかったと現実逃避したくなるくらい、心も体も疲弊していた。

「よお、お疲れー。珍しいな、雪原がミスするなんて」
「大井……嫌味でも言いにきたの?」

 大井はすでに退勤した隣の人の席の椅子に座り、愛へ体を寄せてくる。
 同期の大井宗佑は、くっきりとした目鼻立ちでスラリとした長身。長い前髪はセンターで分けており、色気のあるアラサー男性だ。アイドル事務所にいそうな、わかりやすい美形である。
 ただ、とてつもなくチャラい。常に隣には女性がいて、誰彼かまわず声をかけている印象だ。

「納期ギリギリで気づいて事なきを得たんだろ? さすがだなって褒めてるんじゃん」
「褒めてるように聞こえない」

 適当に大井をあしらいながら、さっさと帰宅の準備を始める。

「なぁ、このあと暇? 俺と飲みに行こうよ」
「ごめん、用があるから」
「何、彼氏でもできた?」
「彼氏なんて要らないから」
「まだそれ言ってんの? 周りが結婚しだすと、結婚したいなーって思ったりしない?」
「しない」

 愛はチラリと大井を見ることなく、鞄と上着を持って立ち上がる。

「雪原。俺に会いたくなったらいつでも連絡してよ」
「そんな日は一生来ないから」
「つめたーっ! そんなこと言われたら泣いちゃうよ?」
「勝手に泣いてれば。じゃ、お疲れさま」

 大井といると面倒事が増える。社内で女子人気の高い大井は、親そうに話をしているだけで他の部署の女子社員から鋭い視線を向けられるのだ。
 同期というだけの間柄なのに、仕事がやりにくくなってはたまらない。ただでさえこのキツイ顔面のせいで誤解されやすいのに。

 あぁ、もうなにもかもが面倒くさい。疲れた……。

 鉛を飲んだかのように、心が沈んでいく。
 病み上がりの弱った体に、追い打ちをかけるように仕事のストレスが降りかかって、愛の気力が底をつきかけている。

 誰か、今から会える友達いないかな……。

 スマホに登録されている連絡先をスクロールしながら、はぁと溜め息が漏れる。
 二十八歳、同い年の学生時代からの友人は、皆結婚していたり、同棲相手がいる。中には赤ちゃんがいる人まで。さすがにいきなり当日に飲みに誘うのは気が引けた。

 諦めてスマホを鞄に仕舞って歩き出す。
 電車に乗り、最寄り駅を降りて、自宅マンションまでいつもの道を通る。

 駅前のこぢんまりとした商店街はちらほらと街灯があり、人通りもそれなりにあるので、防犯対策も兼ねてあえてここを通るようにしている。
 すると、ふと備長炭の香ばしい香りがした。
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