トップアスリートはセフレを可愛がりたくてたまらない

鶴れり

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つまり、セフレってこと?(5)


「愛ちゃんは可愛いよ?」

 至極真面目な顔で言われて、思わず固まってしまった。
 可愛い、なんて言われ慣れてなくて、どう返せばいいのかわからない。視線を右往左往させてしまう。

「そんな、うそ……っ、いつも怒ってるとか冷たそうって言われるから」
「そんなことないよ。愛ちゃんは可愛い!」
「…………ねぇ、適当に言って揶揄ってるだけでしょ」

 修哉の言う「可愛い」と、愛の認識する「カワイイ」には齟齬があるとわかると、茹だった頭が落ち着いた。
 修哉のは赤ちゃんやペットなどに向ける「可愛い」の意だ。完全に揶揄わられているだけである。

「うん、ちょっとね。でも照れてる愛ちゃんが可愛いなって思ったのは本当」
「修哉、実は遊び人……?」

 女性の扱いが上手い。女性を褒めて喜ばせて、気持ち良くなる言葉をかけてくれる。それなりに女性経験が豊富でなければできない所業だ。

「女を取っ替え引っ替えしたことはないし、浮気もしたことはないよ」
「でも彼女はずーっと途切れずいそうなタイプだね」
「いや? 忙しいときとかはフリーの期間が長いこともよくあるよ」

 嘘っぽい……と疑心暗鬼の目を向けると、修哉はカラカラと笑った。

「俺のことそんな風に言うけど、恋人が途切れないのは愛ちゃんのほうでしょ」
「私、恋人は作らない主義なの。最後に彼氏がいたのも、大学生のときだし」
「へぇ、それは意外だったな。結婚願望がないってこと?」
「そう。結婚したくないの」

 恋人を作ってしまうと、変に相手に期待させてしまって申し訳なくなる。だから今までいいなと思う人がいても、食事に誘ってくれる人がいても、頑なに断り続けてきた。
 結婚というゴールがないのに、恋人を作る意味もない。

「仕事に生きる女性、か。愛ちゃんはかっこいいね」
「まぁ、仕事一筋にしたいというよりは、結果としてそうなってしまっただけで。今週も仕事で嫌なことばっかり……」

 ついぽろっと口から愚痴がこぼれた。慌てて唇を引き結ぶ。
 せっかく楽しく飲んでいた気分を、台無しにしたくないし、修哉につまらない話を聞かせたくなかった。

「愛ちゃんは一人暮らしで、恋人もいないんでしょう? 気分が落ち込んだときどうするの?」
「うーん……ひたすら、寝る、かな。特にこれといった趣味もないし……」
「じゃあさ、そんなときは俺とここで飲もうよ。美味しい鶏と酒で、少しは気が紛れるでしょ」

 修哉はポケットからスマホを取り出し、連絡先のQRコードを提示した。

「修哉も……またやけ酒したい気分になったら連絡して。付き合ってあげる」

 愛も鞄からスマホを取り出し、コードを読み込んだ。愛のスマホの中に、修哉の連絡先が保存される。

 そしてそろそろ閉店時間が近づき、愛がお手洗いへ行って戻るとすでに会計が支払われていた。
 慌ててコートと鞄を持って、店の外へ出る。火照った体を冬の夜の風が冷ましてくれた。

「修哉、お金……っ」
「俺のやけ酒に付き合ってもらったからいいよ」
「だめだよ、病院でのお礼なのに……」
「気にしない気にしない。愛ちゃんの連絡先がお礼だよ。ところで家はこっち? 遅くなったから送っていくよ」
「連絡先なんて、お礼にならないよ……」
「ははは」

 シャッター街となった商店街を、修哉と並んで進む。
 暗い路地に入り、二つ角を曲がった先にあるのが愛の住むマンションだ。
 エントランス前まで来ると「じゃあまたね。おやすみ」と修哉が手を振る。

「修哉、ちょっと待って……!」

 上着の裾を掴んで、思わず修哉を引き留める。

「愛ちゃん?」
「……」

 なんだろう。
 この気持ちをなんと言えばいいのだろう。
 自分のことなのに、よくわからない。

 寂しい。
 心細い。
 癒されたい。
 人肌恋しい──。

「あの……えっと……」

 もう少しだけ一緒にいたい、なんて。恋人でもなく、さっき友達になったばかりの相手に、それを望むのは間違っているという自覚はあった。
 修哉の迷惑になるかも、と最後まで言葉を紡げない。

「ねぇ、愛ちゃん。まだ時間ある? もう少し一緒にいたいな。愛ちゃんといると、振られたことを忘れられる……迷惑、かな」
「……ううん、迷惑なんて……」

 愛の言葉の先を察してか、修哉から誘われて心臓が飛び跳ねる。
 恋人と別れたばかりの修哉も、きっと心寂しいのだろう。

「こう……するのはどうかな?」
「……?」

 修哉は向かい合って、真っ直ぐに愛を見下ろした。

「互いが必要だと思うときだけ、一人で居たくないと思ったときだけ、こうして今日みたいに会ったり……愛ちゃんが嫌でなければ触れ合ったりする、そんな関係になるのはどう?」
「ふ、触れ合うって……」

 愛の手を取り、指を絡めて繋ぐ。修哉のゴツゴツとした関節に、男らしさを感じて胸が高鳴った。

「もちろん、外ではできないような……大人な触れ合い」
「……つまり、セフレってこと?」
「端的に言うと、そうだね。ただし、愛ちゃんの嫌がることは絶対にしないし、もちろん避妊もする。どちらかに恋人ができたら、すぐに関係は解消する。要するに、身体だけの契約関係ってこと」

 修哉の提案は悪くない、と思ってしまった。結婚はしたくない。だから恋人は作れない。でも、やはり今日みたいに心寂しい時はある。無性に誰かと一緒に過ごしたくなる。

 同世代の友人たちには家族や恋人がいて、頻繁に誘うのも気が引ける。かといって会社の人の前では取り繕ってしまって、むしろ疲れが増してしまう。

 修哉と愛の距離感は、ものすごく都合が良かった。

 一方的に利用するのは良心が痛むが、この条件ならお互い様だ。後腐れなく、気兼ねない、身体だけの関係。

 でも、愛には一点だけ気掛かりがあった。

「その提案は私にとって悪くないんだけど……」
「なにか問題でもある?」
「私、修哉を満足させてあげられる自信がないの。最後にそういうことしたのもずっと前だし。経験豊富な修哉じゃ、役不足かも……」
「じゃあ、試してみる? 愛ちゃんも、俺のこと受け入れられないかもしれないし、相性もあるし」

 愛はおずおずと顔を上げて、修哉を見つめた。

「……うん、試してみる……」

 今きっと自分の顔は真っ赤になっている。多分、アルコールのせいだ。
 そんな愛の姿を見て、修哉は嬉しそうに口端を吊り上げた。

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