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つまり、セフレってこと?(6)
しおりを挟む狭いワンルームに入る。この部屋に他人を招き入れるのは初めてだ。愛のカワイイものが好きという趣味を露呈させてしまうことになるが、修哉にならいいやと思えるほど、愛はこの短時間で彼に心を開いていた。
会社関係の人でもなく、共通の知り合いもいないという気の緩みもあったのかもしれない。
まだ知り合って間もないのに……。
こんな出会ってすぐの男性を部屋にあげるのは初めてで、そんな自分に戸惑う。
「愛ちゃん、シャワー借りてもいい?」
「うん、いいよ。タオルとか、好きに使って」
到着するやいなやバスルームへ向かった修哉の背中を見送って、愛は自分と修哉の上着をハンガーにかけた。
これから、修哉と──……。
男性と肌を合わせるなんて、数年ぶりだ。学生時代に付き合っていた人と、若気の興味で何度か体を繋げたことがあったけれど、あまり良いものだという記憶がない。
でも修哉なら無理やり手酷くすることはないだろうという、根拠のない信頼があった。
それは修哉の放つ不思議な雰囲気──穏やかな声なのか、大きい体格なのか、無邪気な笑顔なのか、わからないけれど。
たとえ修哉が極悪人で、女性を食い散らかす酷い男であったとしても、一度くらい過ちを犯してもいいかと思えてしまった。
どうせ、一生誰とも結婚しない。この先、老いるまで一人で生きていくのだから。人生一度くらい、道を踏み外した経験があってもいいだろう。
火照った頭でぼんやりとそんなことを考えていると、バスルームから修哉が出てきた。
着替えを持っていたのか、下半身には黒のジャージを着て、上半身は裸のまま肩にタオルをかけている。
「シャワーありがとう」
「う、うん。私も入ってくるね」
しっとりと濡れた筋肉は無駄な脂肪が一切なく、凹凸が美しい。肩幅は広くて、でも腰はなだらかに細い。
筋骨隆々な立派な体を直視できなくて、愛は慌ててバスルームへ飛び込んだ。
体を洗い流し隅々まで磨いて、肌を整え、ドライヤーで髪を乾かす。
えっと、こういうときってどうするのが正解なの?
化粧は……って、部屋に置きっぱなしだった。素顔をさらして引かれたらどうしよう……。
あっ、着替えも持ってくるの忘れてた!
緊張のせいか、酔いのせいか、頭が混乱している。
今日一日着ていた下着を再度身につけることに抵抗を感じて、愛はバスタオルを体に巻きつけたまま、おそるおそる扉を開いた。
「修哉……?」
「愛ちゃん、出た?」
扉の隙間から顔だけ出して、ファーの絨毯の上に座り、くつろいでいた修哉に目配せする。
「ごめん、着替えそっちにあって……」
「そのままだと、体冷えちゃうよ」
バスルームの扉を引かれて、修哉はバスタオル一枚の愛を軽々と抱きかかえた。
「ひゃっ……修哉!」
「それに服は要らない」
修哉の長い脚は数歩歩いただけで、ベッドに辿り着いてしまう。
「あの……っ」
「寒くない?」
「うん、大丈夫……」
あぐらをかいた修哉の足の間に座らされ、後ろから抱きしめられる。硬くて弾力のある、熱い肌に直接触れて、ドキンと胸が大きく高鳴った。
「あの、化粧落としちゃったから、少しだけ塗ってきてもいい?」
「そんな必要ないでしょ。すっぴんでも全然変わらないよ」
「いや、変わるよ……。アラサーにすっぴんは醜い……」
ただでさえキツイ顔をしているのに。普段は化粧で誤魔化している分(きっとあまり誤魔化しきれていないけど)素肌をさらすのには抵抗がある。
「少し幼くなるね。まぁ、それが可愛いんだけど」
後ろから覗き込まれて、カァァっと顔が熱くなる。
「照れてる愛ちゃん可愛いね」
「ねぇっ、あんまり年上を揶揄わないでっ」
「はは、バレた?」
くくっと修哉が笑うと、背中に密着している修哉の腹筋が動く。
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