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コーヒーとクッキー(修哉視点)(5)
関節は突き出ていて、爪の形が変形した歪な指。
初めて修哉の手を見た人からは、手を車に轢かれたのかと勘違いされることもある。
そのくらい歪んだデコボコの手は、クライミング選手としての勲章だ。
汗で滑らないように、両手に白いチョークの粉をつける。
高さ十五メートルの壁の頂上を見上げて、大きく深呼吸をした。
ピッ、ピーン。
スタートの合図を知らせる音ともに、壁に設置されているホールドを素早く掴む。全身の力をフルに使い、一目散へ頂上を目指す。
どの筋肉をどう動かすか、どのホールドを掴み、足に掛けるかは、身体が覚えていて考えずとも勝手に動く。
最後に完登のボタンをタッチすると、ポーンという音が鳴る。
あらかじめ腰につけていたリードと呼ばれる命綱が、ゆっくりと修哉を地上へ運んでくれる。
「タイム、五秒五七」
「まぁまぁ、か。もう少し四秒に近づきたいところだな」
ノートにタイムを記録して、ベンチへ座る。一秒以下のタイムを縮めることが、いかに難しいか、スポーツ選手なら皆苦戦するところだ。
スポーツクライミングは、大きく三つの競技に分かれている。
登り切った回数を競う『ボルダリング』
登る高さを競う『リードクライミング』
登る速さを競う『スピードクライミング』
そしてオリンピック大会ではこの三種目を複合した結果で成績を決める『コンバインド』がある。
以前はマイナースポーツとして認知度も低く、競技人口も少なかった。しかしオリンピック種目として新たに追加されることとなり、急激にその人気は高まっている。
体育大学出身の修哉は、元々は登山家を目指していた。山に登り、岩登りなどを経験するうちにスポーツクライミングの魅力に取り憑かれ、その道へ進んだ。
陸上競技や水泳、他の球技種目とは全く異なるスポーツ。
自分の体重全てが指先と足先にかかり、垂直、もしくは傾斜のある壁を重力に反して登っていくのだ。
足はシューズを履いている分、まだ指への負荷は分散されるが、手指はダイレクトに影響を受ける。手指の怪我で競技を休養せざるを得ない選手は多い。
競技で日々酷使している指は指紋がなく、スマホなどの機器の指紋認証は反応しない。
初めて会う人には高い確率で「手、怪我されたのですか?」と聞かれる。
歪で、ボコボコで、皮膚とは思えないほど硬い指。
──しゅうやのゆび、きもちいいの……っ!
とろんと顔を蕩けさせて、何度も何度も快楽に登りつめる愛の乱れた姿が脳裏に浮かんだ。
あぁ、やばいな。どんどん愛ちゃんにハマっていく……。
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