トップアスリートはセフレを可愛がりたくてたまらない

鶴れり

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断れない(5)


「可愛い愛ちゃん……好きだよ」

 ドキッと心臓が跳ねた。胸がいっぱいになって、目に涙がせり上がりそうになる。

「……」

 だめ、このままでは泣いてしまいそう。心の内を修哉に悟られてはいけないのに。
 愛は想いを振り解くように、横に頭を振った。

「修哉、だめ……」
「俺は愛ちゃんが好き」

 もう一度はっきりと想いを口にした修哉は、ぐっと愛を引き寄せてそのまま唇を奪った。
 冷えた愛の唇が、修哉の熱であたためられていく。

 修哉への想いが溢れそうになるのと同時に、子供の頃から植えつけられた恐怖心が湧き起こる。

 好き。でも好きになるのが怖い。
 特別になりたい。でも特別な関係が壊れるのが怖い。
 ずっと触れてたい。でも離れる瞬間が怖い。

 相反する感情がぶつかり合って、わけがわからなくなる。振り解かなきゃいけないのに、拒否しなきゃいけないのに、身体が動かない。

「愛ちゃん」

 触れていた唇が離れると、修哉はチェスターコートの内ポケットから、一枚の茶色い封筒を取り出した。

「渡したかったの、これ」
「……持ってたの?」
「うん、ごめんね」

 よくわからないまま、封のされていない封筒を開け、半分ほど紙を出したところで手が止まった。てっきり修哉の部屋に、仕事の資料でも忘れてしまったのかと思ったが、目に飛び込んできた文字にハッと息を呑む。

「婚姻届……?」
「愛ちゃんに持っていてほしい。俺は愛ちゃんといれるなら、どんな形であっても構わないと思ってる」
「ちょ、ちょっと待って……」

 訳がわからない。
 しかもこの婚姻届の本人欄には、すでに記入と捺印が済んでいる。

「愛ちゃんを混乱させるとわかってたけど、ごめん。今が、好機だと思って」
「修哉、待って、私……」
「俺はずっと、愛ちゃんといたい」

 封筒を握りしめたまま固まる愛を包み込むように抱きしめて、先ほどよりも強く口づけられる。かぷ、と唇を喰まれて、思わず口元を緩めて深く絡み合いたくなるのを理性で押し留めた。

 修哉も愛と同じ想いを抱いていてくれた。その事実に歓喜で沸き立つ。けれど臆病な自分も出てきてしまって。

 ──このまま、修哉の熱に溺れてしまいたい。

 流されてしまえば、楽なのかもしれない。けれどそのあと死にたくなるほど後悔する未来が待っている気がして、自分の心に素直になれない。
 時間の経過と共に修哉の愛情が冷めてしまったら……? もしそうなったら、愛は耐えられる自信がない。

 修哉は物欲しそうに愛の唇を啄むが、無理に深くまで入ってこようとはせず、宥めるようにキスを続けた。ぬくもりを分け合うような、慈しむような優しいキス。

 あんまり長いと、誰かに見られてしまうかもしれない。静かな住宅街とはいえ、ここはマンションのエントランス先だ。

 閉じていた目を薄らと開けると、視界の端で何かが光ったように見えた。

「ん……」

 今の光はなに……?
 不思議に思って目線だけ横へ向けると、白いワゴン車の窓から誰かが身を乗り出している。手に持っている黒いものは、おそらくカメラだ。

 撮られてる?!
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