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背中を押して(1)
ふに、と脂肪を揉まれる感覚に、既視感を感じて目を覚ます。覚醒しきらない頭で、不埒に蠢く腕をペシッと叩いた。
「も……朝からやめて……」
「んー、おはようあいちゃん……」
うなじに顔を埋めながら眠たそうな声が聞こえる。大きくてがっしりとした手は、しっかりと両胸に固定されたままだ。
「おはよ。……も、離して」
「はぁー、クライミングしてる夢でも見てたのかなぁ」
「胸はホールドじゃないからっ。変態親父みたいなこと言わないの!」
「ふふっ。愛ちゃんを抱きながら迎える朝最高だね」
素肌同士が触れ合ってぬくもりが伝わってくる。朝晩の冷え込みが激しい十二月になって、愛よりも高い修哉の体温は心地いい。
「大好きだよ」
「んっ、」
耳元で囁かれた低音の声に、敏感に体が反応する。脚まで絡め合って抱き込まれた状態では身動きがとれない。
「昨夜さんざん聞いたよ……」
「うん。ちゃんと伝わったみたいでよかった」
「あれで伝わらないほうがおかしいと思うけど……」
何度も何度も愛を囁かれながらしつこく愛された。
セフレとして修哉とは何度も身体を交えてきたが、そのどれもとは別格で。
いろんな意味で死ぬかと思った……っ。
思い出すだけで卒倒しそうになる。
これ以上昨夜の回顧をしたら悶絶しそうなので、愛は頭を振り、時計を見ながら支度を始めた。
「あ、前みたいに愛ちゃんの衣類は買ってあるからね」
「……確信犯?」
「だって、必要でしょ?」
「うぅ……ありがとう」
嬉々として紙袋を手渡されて、呆れつつもありがたく使わせてもらうことにする。どれも愛の好みでサイズがぴったりなのがいたたまれない。
「あ、そうだ。今日からはしばらく俺の家に帰ってきてね。これ、鍵だから」
「え?」
「多分、愛ちゃんのマンションに記者が張りついてると思うよ。ここだったら、俺もいるしセキュリティも安全だから。移動はできるだけタクシー使って。外に出る時は俺がそばにつくようにするから」
昨夜、エントランスでキス写真を撮られてしまった。確かに修哉の言うとおり、ほとぼりが落ち着くまで一人行動は避けたほうが良いかもしれない。
「愛ちゃんは一般女性だから記者も変なことはしてこないとは思うんだけど……何かあったら嫌だし。愛ちゃんは俺が守るから心配しないで」
「ありがとう。でも私のことなんかより、修哉のほうが……っ」
「俺は大丈夫。なんとかなるよ」
修哉はあっけらかんとして、いつものようにトレーニング用のウェアに着替え始めた。
車に乗り、修哉に会社まで送ってもらってそのままいつものように出社する。
自分のデスクに座り、パソコンの起動させながら真っ暗な画面をぼんやりと見つめる。
修哉は大丈夫って言ってたけど、本当に大丈夫なのかな……。
キス写真を撮られたというのにもかかわらず、修哉は平然としていた。もしかしたらゴシップ誌の記者に追いかけられることが初めてではないのかもしれない。
修哉と出会う前に、元彼女とそういったことがあったのかも……。
そう思うと過去のことなのに、胸がチクリと痛んだ。
「雪原、新規のクライアントのことで相談がある。来てくれるかー?」
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諸橋主任に声をかけられて、慌てて席を立った。
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