トップアスリートはセフレを可愛がりたくてたまらない

鶴れり

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乗り越えて(5)


 一人、修哉の部屋で黙々とキーボードを叩く。
 しばらくは会社に出社せず、在宅勤務だ。全ての業務のデザイン担当を降りた愛は、諸橋主任から指示されてひたすら資料づくりに励んでいた。

 週刊誌の発売まであと二日。

「記事が取り下げられなかったらどうしよう……。やっぱり会社には居づらくなるよね……」

 愛の思慮に欠けた行動のせいで、会社に迷惑をかけてしまったのだから、辞職することになっても致し方ない。
 せめて、与えられた仕事だけは完璧にこなそう。
 そう一念発起して、資料づくりに没頭した。

 終業時刻となり、諸橋主任へ一報をいれてからパソコンの電源を落とす。
 外は暗くなってきているが、修哉はまだ帰ってこない。

 何かご飯でも作ろうかと思ったが、食欲もないし、料理をする気分になれなくて、愛は先に入浴することにした。
 久々にゆっくりと湯船に入り、体を磨いて修哉の部屋着を借りる。お風呂に入って頭も体もほんの少しスッキリとした気がした。

 濡れた髪をタオルドライしていると、テーブルに置いていたスマートフォンが鳴り響いた。
 画面に表示された名前を見て、緊張が走る。

「お疲れさまです。デザイン課の雪原です」
『お疲れさまです。広報の園宮です。雪原さんに急遽お伝えしたいことがあって──……』

 スマホを握りしめる手が震える。丁寧に説明してくれる園宮の話に集中して耳を傾ける。

「本当ですか……っ?!」

 全身の力が抜けて、愛は冷たい床の上に座り込んだ。

 園宮からの電話を切った後も、その場から立ち上がれない。

「よかった、本当によかったぁ……っ」

 無事に記事掲載禁止の申立てが裁判所で受理され、今回の記事が販売されることはなくなったのだ。

「このこと、修哉は知ってるのかな」

 無性に修哉に会いたくて、声が聞きたくなって。スマホの連絡先の画面をスクロールする。
 すると突然着信があり、名前も確認せず勢いのまま通話ボタンを押してしまった。

『あ、雪原? お疲れさま、今大丈夫?』
「大丈夫だよ。その声は、大井?」
『うん。雪原さ、今日会社来てなかったけど大丈夫か?』

 同期として心配してくれたのだろう。特に大井は記者に追いかけられていたところを見られている。

「うん。ちょっと色々あってね……今日は在宅勤務してた」
『色々って、あの記者か? そんなにしつこく付きまとわれてるのか?』
「そのことはもう解決したから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
『そう? ならいいんだけどさ……』

 床に座り込んでいた愛は、ソファへ移動しようと立ち上がった。すると帰宅したばかりの修哉と目が合う。
 電話中なので、口だけ動かして「おかえり」と伝えた。

「大井には変なところ見られてばっかりで、情けないね。でももう終わったから、しばらくしたら会社にも──……ひゃっ!」

 修哉に後ろから抱きしめられて、そのまま部屋着の隙間に手を入れられる。外から帰宅したばかりの修哉の手が冷たくて、その温度差に思わず悲鳴をあげた。

『どうした? 大丈夫?』
「っ、ごめん、水こぼして……冷たくてびっくりしただけ……っ。会社にもすぐ戻れると思うから……」

 修哉の手がお腹や腰回りを撫でる。初めはひんやりとした温度に体が反応していたのに、すぐに不埒な動きをする手に翻弄されてしまう。
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