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【32】あなたと前だけを(2)
しおりを挟むメリッサの妊娠をきっかけに、今まで一度も読んだことのない育児書を読んでみたり、メリッサには「気が早いわ」と言われそうだが、離乳食作りを練習してみた。
たとえ家に一人ぼっちでも、誰かを想いながら過ごす時間は充実していた。
勿論、薬作りの鍛錬も休むことなく続けた。
薬草畑の雑草を抜いて水をやり、必要があれば剪定する。
採集した薬草は下処理をして部位ごとに分け、天日干しにする。乾燥した薬草は瓶に入れ、保存する。
ある程度材料が揃えば、フラミーニアの作った薬を町に売りにいくつもりだ。簡単で需要の多い薬ならば、それなりに売れるだろう。
「ふぅ、こんなもんかな……」
朝からひっきりなしに動き回り、椅子に座って一休みしたのは、日が傾いた頃だった。
玄関の扉に付けたベルが五回鳴る。セノフォンテの帰宅を知らせるベルは、防犯を考慮して鳴らす回数を決めた。
勢いよく扉を開けると、髪を乱したセノフォンテが居た。
「おかえりっ」
「ただいま」
家の中に入り、白騎士服の上着を脱ぐ。上着についた埃を払い、皺にならないようハンガーにかけるとフラミーニアの座る椅子の隣に腰掛けた。
「……なんか未だにここで暮らすの、変な感じがするな」
「薬草の臭いがきついかな? 私も最初慣れるまでは少し違和感があったかも」
「匂いもそうだけど。帰ってフランが迎えてくれるのがなんか……」
「あっ。伯爵家みたいに、侍女服を着て頭を下げて待っていた方が良かった?」
「馬鹿。そんなことフランに望むわけない」
セノフォンテは気怠そうに頬杖をつきながら明後日の方向を向いている。
セノフォンテはアプレーア伯爵家の長男だ。王太子の側近護衛騎士としての仕事があるからか、爵位を継ぐのは二男らしい。しかし元々は上流貴族令息。使用人のいない暮らしに慣れないのも無理はない。
「私も頑張るけど、セノが望むなら使用人を雇っても良いよ?」
「こんな小さな家、使用人なんて必要ないよ」
「ん。そっか……?」
森の湧き水にミントを浮かせた飲料水をゴクンと飲む。
家族でも使用人でもないフラミーニアと一つ屋根の下にいるのに違和感があるのだろうか。フラミーニアのことは使用人とでも思ってくれれば良いのに。
フラミーニアは閉鎖された環境で育ったせいか、一般常識が欠如している。たまにメリッサやセノフォンテの言っていることがわからないことがある。今回も言葉にするのは難しくて、曖昧に誤魔化した。
「お仕事で疲れたでしょう? ご飯にしよっか」
「汗かいたから、先に湯を使っても良い?」
「もちろん!」
裏口から外へ出る。あらかじめ火を当てていた焼け石を水を張った樽の中に入れた。
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