嘘つき山猫は赤面症

nyakachi

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手負いのあの子は懐きにくい

話にきくと

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話にきくと、彼女は警戒心が強いらしい。

会社での飲み会は歓送迎会ぐらいで、あとは新年会忘年会、親睦会すらあまり参加しないらしい。
酒が呑めないわけではないが、居心地悪そうに、杯を空けている姿を見たことがある。

染めたことのなさそうな真っ暗なストレートの髪を、今時ポニーテールにまとめ。
化粧も最低限。
よくよく見れば深緑だとわかるフレームの眼鏡。
身長も体型も平均的。
強いて挙げるならあの肉感的な尻が気になるぐらいか。

同期の向井に連れられ、わざわざ居酒屋でコーラを飲んでいる。
何だ?酒を呑む気分じゃないってのか?

「退屈?」
聞くと話しかけられたのがびっくりしたのか、ちょっと慌てて頬を染めた。

へー、そんな反応するんだ。

「そんなことないですよ」
取り繕った声音。
話し掛けるなオーラが出てる気がする。

「へー」
男なれしてそうにない態度に彼氏がいるかと問えば、モテナイと答えてくる。

あー、こりゃモテナイんじゃなくて気づいてないだけだろうな。

ピリピリと警戒心を見えない糸のように周りを張り巡らせていて、小さな小動物を思わせた。

とりとめのない話をしても、警戒心は薄れず。
なんだか懐かない猫を懐柔している気にさせる。

見れば本日の居酒屋での目的、向井は俺の同期かつ友人を飲み潰したみたいだ。
お互い両想いなんだからさっさとくっつけばいいものを、二人だと気まずいと飲み会の雰囲気作りのサクラ役。
前もって集めていた会費で食事代を払って、さっさとタクシーに押し込んで、
「向井、立花をヨロシクな」
「大丈夫よー、おいしく頂きます。ん?頂かれます?」
なんて女だ。
立花、大人しく喰われてくれ。
「肉食な女は苦手だって言ってたぞ」
呆れながらも、立花のシートベルトをとめてやる。
「わかってるから、猫かぶってるのよ」
立花も面倒な女に好かれたもんだ。
「健闘を祈る」
ドアを閉めるとタクシーはするっと車の波に飲まれていく。

他の連中は集まりの趣旨を知っているからか、すでに解散していない。
困惑気味の彼女、藤川律を残して。

電車通勤だという彼女、律はさっさとこの場を離れたそうに見上げてくる。
身長差で上目遣いなだけだろう。
無防備な姿になんだかやられそうだ。

向井が律を連れてきた意図がわからない以上、食指が動いても仕方ない状況ではあるが、狼にもなれずかと言って放牧できずタクシーを捕まえて送る。

最寄り駅が近そうだ、ってか。
同じ駅?

駅に直結したタワーマンションなんだが、律はそこから15分ぐらいか。
律のマンション前でタクシーを降りると、お茶を勧められる。

ここは断るのが正解なんだろうが、律の部屋が見たい。

虎穴に挑むつもりで俺は頷いた。


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