元社畜とツンデレ騎士様と時々魔物

睡眠丸

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ツンデレ騎士襲来 ※王子属性ではない模様

銀の鎧のツンデレ騎士様(2)

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「はい、喧嘩はそこまで……って、ソル鎧取ったの?」

 奥からサンドイッチとスープを持ってクラウスさんが来た。
 ミネストローネのような赤いスープは、ほっこり湯気がたち、とても美味しそうに見える。

「不可抗力だ。もういい」

「そうかい」

 クラウスさんは優しく微笑むと、指をくるくる回し、何かを呟いた。
 キラキラと、小さな光が宙を舞って消えた。

「なにしたんですか、クラウスさん」
「お店を閉店にしたんだ。もう誰も入ってこれないよ」

 片手一つで閉店作業を終えてしまったということか。本当、魔法とやらは便利である。ここで長いこと過ごすことになるのであれば、ぜひとも習得したいけれど、魔力だのマナだの、そういった力は私にあるのだろうか。
 いつの間にかソルは椅子に座り、サンドイッチを食べ始めていた。

「サクラさんも食べる?」

「……後で貰います」

 欲望には素直に従う。

「ホールの方で、どったんばったん聞こえてたけど、何があったの?」

「この女が、何もないところで転んだんだ」
「なっ! この人が私を押し倒そうとしたんです!」

 緑色の瞳が、嫌に歪んでこちらを見つめていた。ふん、と気にしないことにする。

「仲良くなったんだね」
「「いやいや」」

 不可抗力でハモってしまったが、一切仲良く何てなっていない。
 むしろ初対面時より仲が悪くなってしまっている気がする。

「クラウスさん、この方、ご友人なんですか? どういったご関係で?」

「幼馴染っていうのが一番しっくりくるかなぁ」

「腐れ縁の方がしっくりくるな」

 うんうん、とソルは頷く。

「ご友人は選んだ方がいいですよ……?」
「なんだと?」

 眉を吊り上げながら、ソルが言う。綺麗な顔立ちだから、迫力がある。

「おい、クラウス、本当にこいつを雇うのか?」
「どうやらソルはサクラさんがお気に召さないみたいだねぇ」

 やれやれ、と肩をすくめてクラウスさんが言う。

 雇い主の友人の一言で解雇されてはたまらない、訴えかけるような目でクラウスさんを見れば、茶色の瞳を細めて微笑んだ。

「サクラさんが、この店で働くことは決定事項だよ。ソル、君でも覆せないさ。それに、さっき一緒にこのお店を盛り上げていくお話が決まったところだからね!」

「そうですとも!」

 ふんす、とガッツポーズでソルにアピールをする。

「……お前がいたところで、この何の変哲もない喫茶店が繁盛するとは思えないんだけどな」

「悲観的ですねぇ。ソルは。そんなんで人生楽しいんですか?」

「喧嘩売ってんのか? 頭お花畑女」

「わーこわいこわい」

 なんとなくだけれど、ソルの扱いがわかってきた。
 この程度の軽口なら言っても大丈夫だろうという曖昧な扱いの感覚だけど。

「サクラさんとたくさん話せて、幸せだねぇ、ソル」

「どこをどうみたら、そう見えるんだよお前」

 呆れたようにソルは言う。その言葉には十割同意する。
 お皿を空っぽにし、おなかを満たしたソルは、硬貨をテーブルの上に置き、鎧をかぶり直した。

「ソル、もう行くの?」

「ああ、その女がうるせーからな」

 言うなり、身をひるがえしてお店から出て行ってしまった。
 嵐のような男の人だったな。

「サクラさん、大丈夫?」

 傷ついているとでも思われたのだろうか、クラウスさんが私を覗きこみ聞いてくる。

「あ、ええ。あれくらいは全然……」
 正直、前の世界でのクレーム、悪口より大したことは言われていない。
 人格、存在の否定が通常だったと聞かれ比べれば、まるでクラッシック音楽のように右から左に聞き流せる嫌味である。こころに引っかき傷ひとつついちゃいない。
 
 私の心配よりは、クラウスさんとソルの友情に亀裂が入っていないかが心配である。向こうからしてみれば、顔なじみの店に変な女がいたのだ。ムッとして態度が悪くなるのも多少はしょうがないだろう。

「大丈夫、ソルは本当にサクラさんが嫌いなら、ご飯も食べずに帰っちゃうから」
「そう、なんですね……」

「女性が身近にいない環境で育ってるから、恥ずかしかったのかもしれない」

「もし、そうなら思春期の男の子みたいじゃないですか」
「うん、だから隠そうとしてるよね」

 幼馴染さん、それを暴いてしまっていいのだろうか。

 銀の鎧で、金髪で、顔がいい男性。そして少々女性が苦手。
 なんだろう、属性だけあげていくと、とても乙女ゲームっぽい気がする。おそらくモテるんだろうな、ということは自明の理である。
 女性への耐性がない(らしい)から、もしかしたらその好意さえ気づかないのかもしれない。または、行為の出し方がとても不器用になっていたりするのかもしれない。
 
 ああ、しっくりくるな。
 
 私を助けてくれたときの態度、言葉。優しいのにとげとげしい。
 素直にお礼を言わせてくれないような雰囲気。

「ツンデレ……?」

 乙女ゲーマーとしての血がそうさせるのか、勝手に属性をつけてしまった。

 ソル、職業:なんでも屋 属性:ツンデレ

 きっと、好きな子に素直になれなかったり、不器用な愛情をぶつけてしまうのだろう。幼いころなんか、好きな子の気を引こうと大きなカブトムシを捕まえて見せびらかすタイプなのだろう。
 「こんなに大きな虫を取れたぞ! 凄いだろう!」と。虫が大嫌いな女の子はそれを嫌がらせに受け取ってしまう……。悲しいすれ違いだ。
 
 そういう裏設定を勝手に考えたら泣けてきた。私の好みの属性であれば、ぜひ攻略させてほしいと懇願したかもしれない。
 
 だがしかし、誠に残念ながら、私は、王子様属性の人間がタイプなのであった。

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