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第一章 多々良さんと月曜日
僕と多々良さん(1)
しおりを挟むはだけかけているシャツと描写すれば何やら艶めかしいが、そんな僕の雑念など、一ミリたりとも知らない彼女は―――多々良(たたら)さんは、どうやらご機嫌斜めなようだ。
スカートに付いた泥を払って、サラサラと風に揺れていた髪の毛を耳にかける。
仕草がいちいち上品で、女の子としての至上まで上り詰めているかのようである。世の中の人間すべてがかすんでしまうほどの美貌をお持ちの多々良さんなので、上り詰めているという表現はおかしい。
言うならば頂上だ。
彼女の美しさはもう頂点である。
けれど。
「こんなことで、私が喜ぶと思ったら大間違いなのよ」
いかんせん。
「無駄に汗を書いただけで、得るものなんて何もなかったわ。あなた、一体何を考えているの? 脳に消しゴムで
も詰まっているの?」
喋りづらい。
彼女の名前は多々良(タタラ)さん。それ以上でも以下でもない。
すらりと伸びた手足は作り物のように白く、瞳は猫のようで、唇は薄ピンク色。紺色のハイソックスと傷一つな
いローファーは、多々良さんのプライドそのものだった。
きっと彼女が街を歩けば、だれもが足を止める。時を止める。息さえも瞬間止めるだろう。
そこに存在しているのが不自然なほどに、違和感のように。異物や、外的、天敵。人類からそう認識されても可笑しくないほどの、綺麗な少女なのだ。多々良さんと言う人間は。
磨くまでもない、宝石の彼女。
「キャッチボールをしたい、とあなたは言ったわ」
「言いました」
右手には使い古されたグローブをはめている。
多々良さんの方は少し新しいグローブで、その中には硬式の野球ボールが握られている。
夕焼けの河川敷の中、たまに主婦が自転車で上の道を走り、犬の散歩をする老人は微笑ましそうに僕たちを見て通り過ぎていた。
「あなたみたいな人間が、そんなことを言うなんて、何か考えがあるのだろうと思って付き合ったわ。一時間も。白いボールは何度も何度も移動したわね。もう数えきれないほどに」
「多々良さんの剛速球は、スカウトが来るレベルだと思います」
「そうね、そっちの将来も検討してみるわ」
存外に本気の顔だった。
多々良さんは何でもできる。
「将来の視野が広まったと言えば聞こえはいいけれど。だから、何なの? このキャッチボールには何の意味があったの? ねぇ、楽しかった? 自分だけ楽しんで?」
そんなつもりはなかったのだけれども、結果的に多々良さんはご立腹である。
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