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1章
第10話:魔獣対策会議・前編
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やたらデカい会議室には、やはりやたらデカい長方形のテーブルがあった。
組み立て式みたいなやつじゃなく、持ち運びに業者が必要なんじゃないの、っていうぐらいどっしりした造りだ。
そこの椅子に座らされて数分もすると、次々と初老だったり老年だったりする男性が入ってきた。
彼らは互いに挨拶をするでもなくため息まじりに着席すると、書類を眺めまわしており、重苦しい静寂に包まれていた。
(男性をあまり見ないと思っていたが……)
やはり、俺の隊は特殊なんだな。
そうだよな。女性ばっかりの隊なんて、なにか特別な事情があったんだよな。
「諸君。全般状況については、既に配布した資料を読んだな?」
ほぼ全員が着席したところで、白衣を着た初老の男性が言った。
「状況は理解しました。……これは確認なのですが、早期警戒探査術には何も反応がなかったのですね?」
白ネクタイを締めた男性が言った。
「魔術探査については、問題なく動作している事を確認済みー」
気の抜けた声で、イングリッド女史が応える。
「未知の方法による欺瞞の可能性は?」
痩せぎすの男性が、詰問調に訊ねた。
「それはー。歩哨兵と周辺住民への聞き取り結果として、誰も視認していないことを確認したのでー、多分、ナシ」
イングリッド女史はあくまでものんきに応える。
「ま、視覚欺瞞の能力まで持っていたとすれば話は変わるケドー。今のところはナシって言っちゃっていいんじゃないかな~」
「なにをのんきな―――」
痩せぎすの男を遮り、白ネクタイが言った。
「それはどういう?」
「視覚欺瞞して外から歩行あるいは飛行して接近したとすればぁー。式典会場以外にも被害が出てても、おかしくないよねー?」
イングリッド女史はあくまでも白ネクタイの青年に対して言っている風だが、どう考えても痩せぎすの男に対しての挑発だった。
「確かに。途中にある障害物は破壊してもおかしくはないですね」
「ふん!兵士どもも、高給取りの騎士どもも、ほとんどものの役に立たなかったらしいがな」
痩せぎすの男はちらりと俺を見て、言った。
「…………」
俺はその視線を黙って受け止めていた。
「セスール技術員……」
白ネクタイの男がそれとなく制止するも、痩せぎすの男は止まらなかった。
「ある部隊からの報告によると、やつらには武器も魔法も効かなかった、とある」
痩せぎすの男は資料に目を落としながら言った。
「またある部隊からの報告では、剣による討伐に成功した、とあるが?」
彼はもはや、俺個人に言っているようだった。
(なんで、俺が攻撃されてるんだ……?)
「レオ少佐。倒せた部隊には、とある共通点があってな……」
何も答えない俺に対し、痩せぎすの男は優越感すらのぞかせて語り始めようとした。
その時だった。
「皆さん、皇帝陛下がご入室されます!」
入口に立っていた兵士がそう言うと全員が立ち、黙したまま入口に向かって頭を下げる。
俺も、反射的に同じ動作を行っていた。
入室してきたのは、豪奢に煌めく衣服に身を包んだ老人だった。
金と紫色をベースにしたローブを着ており、ほとんど白みがかっている頭髪。
動きはゆっくりとしたものだったが、力強さを感じる歩調だった。
傍には若い女性が付き添っているが、見たところ十代後半といったところだ。
赤茶色の頭髪を後ろで結び、胸元を強調した赤い軍服……っぽい、衣装。
(ずいぶん若い人だが……奥さん?ボディガード?……わからん)
俺はどちらにも見覚えがなかった。
やがて上座と思われる席に皇帝が座り、たっぷり数秒かけて全員が着席した。
「それで、結論は出たのか?」
開口一番、皇帝は言った。
「まだです、陛下」
事も無げに言ったのは、会議室で最初に発言していた、白衣の男性だった。
「ふん、次元間の壁を突破した、などという話が結論ではないという自覚ぐらいはあるらしいな」
「はい、陛下。ただ、『奴らはどうすれば倒せる』のか、という点については仮説があります」
白衣の男性が言葉を続ける。
「ほう?言ってみろ」
「はい。今日現れたモンスター……仮に〈魔獣〉と呼称します。この〈魔獣〉は、一定以下のあらゆるエネルギーを無効化する特殊な外皮で覆われているようです」
「はっはっは!」
皇帝は不意に笑い出した。
「つまりは……その『一定』とやらを突破できればよかった、というわけだな?」
「……はい」
「つまりは……我が軍は、軟弱者の集まりか」
皇帝の言葉に、一同、声も出ない。
平坦な口調で説明を続けていた白衣の男性も黙っている。
「ねぇ、パパ~?」
皇帝に寄り添っていた女性が、場違いな猫なで声で言った。
(あ、娘さんなのか)
そう思うと、少しホッとする。
「どうした、シャル?」
声を和らげて、皇帝は応えた。
「どうして、ここに軍人さんがいるのぉ~?」
彼女の視線は明らかに、俺の方へ向いていた。
組み立て式みたいなやつじゃなく、持ち運びに業者が必要なんじゃないの、っていうぐらいどっしりした造りだ。
そこの椅子に座らされて数分もすると、次々と初老だったり老年だったりする男性が入ってきた。
彼らは互いに挨拶をするでもなくため息まじりに着席すると、書類を眺めまわしており、重苦しい静寂に包まれていた。
(男性をあまり見ないと思っていたが……)
やはり、俺の隊は特殊なんだな。
そうだよな。女性ばっかりの隊なんて、なにか特別な事情があったんだよな。
「諸君。全般状況については、既に配布した資料を読んだな?」
ほぼ全員が着席したところで、白衣を着た初老の男性が言った。
「状況は理解しました。……これは確認なのですが、早期警戒探査術には何も反応がなかったのですね?」
白ネクタイを締めた男性が言った。
「魔術探査については、問題なく動作している事を確認済みー」
気の抜けた声で、イングリッド女史が応える。
「未知の方法による欺瞞の可能性は?」
痩せぎすの男性が、詰問調に訊ねた。
「それはー。歩哨兵と周辺住民への聞き取り結果として、誰も視認していないことを確認したのでー、多分、ナシ」
イングリッド女史はあくまでものんきに応える。
「ま、視覚欺瞞の能力まで持っていたとすれば話は変わるケドー。今のところはナシって言っちゃっていいんじゃないかな~」
「なにをのんきな―――」
痩せぎすの男を遮り、白ネクタイが言った。
「それはどういう?」
「視覚欺瞞して外から歩行あるいは飛行して接近したとすればぁー。式典会場以外にも被害が出てても、おかしくないよねー?」
イングリッド女史はあくまでも白ネクタイの青年に対して言っている風だが、どう考えても痩せぎすの男に対しての挑発だった。
「確かに。途中にある障害物は破壊してもおかしくはないですね」
「ふん!兵士どもも、高給取りの騎士どもも、ほとんどものの役に立たなかったらしいがな」
痩せぎすの男はちらりと俺を見て、言った。
「…………」
俺はその視線を黙って受け止めていた。
「セスール技術員……」
白ネクタイの男がそれとなく制止するも、痩せぎすの男は止まらなかった。
「ある部隊からの報告によると、やつらには武器も魔法も効かなかった、とある」
痩せぎすの男は資料に目を落としながら言った。
「またある部隊からの報告では、剣による討伐に成功した、とあるが?」
彼はもはや、俺個人に言っているようだった。
(なんで、俺が攻撃されてるんだ……?)
「レオ少佐。倒せた部隊には、とある共通点があってな……」
何も答えない俺に対し、痩せぎすの男は優越感すらのぞかせて語り始めようとした。
その時だった。
「皆さん、皇帝陛下がご入室されます!」
入口に立っていた兵士がそう言うと全員が立ち、黙したまま入口に向かって頭を下げる。
俺も、反射的に同じ動作を行っていた。
入室してきたのは、豪奢に煌めく衣服に身を包んだ老人だった。
金と紫色をベースにしたローブを着ており、ほとんど白みがかっている頭髪。
動きはゆっくりとしたものだったが、力強さを感じる歩調だった。
傍には若い女性が付き添っているが、見たところ十代後半といったところだ。
赤茶色の頭髪を後ろで結び、胸元を強調した赤い軍服……っぽい、衣装。
(ずいぶん若い人だが……奥さん?ボディガード?……わからん)
俺はどちらにも見覚えがなかった。
やがて上座と思われる席に皇帝が座り、たっぷり数秒かけて全員が着席した。
「それで、結論は出たのか?」
開口一番、皇帝は言った。
「まだです、陛下」
事も無げに言ったのは、会議室で最初に発言していた、白衣の男性だった。
「ふん、次元間の壁を突破した、などという話が結論ではないという自覚ぐらいはあるらしいな」
「はい、陛下。ただ、『奴らはどうすれば倒せる』のか、という点については仮説があります」
白衣の男性が言葉を続ける。
「ほう?言ってみろ」
「はい。今日現れたモンスター……仮に〈魔獣〉と呼称します。この〈魔獣〉は、一定以下のあらゆるエネルギーを無効化する特殊な外皮で覆われているようです」
「はっはっは!」
皇帝は不意に笑い出した。
「つまりは……その『一定』とやらを突破できればよかった、というわけだな?」
「……はい」
「つまりは……我が軍は、軟弱者の集まりか」
皇帝の言葉に、一同、声も出ない。
平坦な口調で説明を続けていた白衣の男性も黙っている。
「ねぇ、パパ~?」
皇帝に寄り添っていた女性が、場違いな猫なで声で言った。
(あ、娘さんなのか)
そう思うと、少しホッとする。
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