10 / 12
1章
第10話:魔獣対策会議・前編
しおりを挟む
やたらデカい会議室には、やはりやたらデカい長方形のテーブルがあった。
組み立て式みたいなやつじゃなく、持ち運びに業者が必要なんじゃないの、っていうぐらいどっしりした造りだ。
そこの椅子に座らされて数分もすると、次々と初老だったり老年だったりする男性が入ってきた。
彼らは互いに挨拶をするでもなくため息まじりに着席すると、書類を眺めまわしており、重苦しい静寂に包まれていた。
(男性をあまり見ないと思っていたが……)
やはり、俺の隊は特殊なんだな。
そうだよな。女性ばっかりの隊なんて、なにか特別な事情があったんだよな。
「諸君。全般状況については、既に配布した資料を読んだな?」
ほぼ全員が着席したところで、白衣を着た初老の男性が言った。
「状況は理解しました。……これは確認なのですが、早期警戒探査術には何も反応がなかったのですね?」
白ネクタイを締めた男性が言った。
「魔術探査については、問題なく動作している事を確認済みー」
気の抜けた声で、イングリッド女史が応える。
「未知の方法による欺瞞の可能性は?」
痩せぎすの男性が、詰問調に訊ねた。
「それはー。歩哨兵と周辺住民への聞き取り結果として、誰も視認していないことを確認したのでー、多分、ナシ」
イングリッド女史はあくまでものんきに応える。
「ま、視覚欺瞞の能力まで持っていたとすれば話は変わるケドー。今のところはナシって言っちゃっていいんじゃないかな~」
「なにをのんきな―――」
痩せぎすの男を遮り、白ネクタイが言った。
「それはどういう?」
「視覚欺瞞して外から歩行あるいは飛行して接近したとすればぁー。式典会場以外にも被害が出てても、おかしくないよねー?」
イングリッド女史はあくまでも白ネクタイの青年に対して言っている風だが、どう考えても痩せぎすの男に対しての挑発だった。
「確かに。途中にある障害物は破壊してもおかしくはないですね」
「ふん!兵士どもも、高給取りの騎士どもも、ほとんどものの役に立たなかったらしいがな」
痩せぎすの男はちらりと俺を見て、言った。
「…………」
俺はその視線を黙って受け止めていた。
「セスール技術員……」
白ネクタイの男がそれとなく制止するも、痩せぎすの男は止まらなかった。
「ある部隊からの報告によると、やつらには武器も魔法も効かなかった、とある」
痩せぎすの男は資料に目を落としながら言った。
「またある部隊からの報告では、剣による討伐に成功した、とあるが?」
彼はもはや、俺個人に言っているようだった。
(なんで、俺が攻撃されてるんだ……?)
「レオ少佐。倒せた部隊には、とある共通点があってな……」
何も答えない俺に対し、痩せぎすの男は優越感すらのぞかせて語り始めようとした。
その時だった。
「皆さん、皇帝陛下がご入室されます!」
入口に立っていた兵士がそう言うと全員が立ち、黙したまま入口に向かって頭を下げる。
俺も、反射的に同じ動作を行っていた。
入室してきたのは、豪奢に煌めく衣服に身を包んだ老人だった。
金と紫色をベースにしたローブを着ており、ほとんど白みがかっている頭髪。
動きはゆっくりとしたものだったが、力強さを感じる歩調だった。
傍には若い女性が付き添っているが、見たところ十代後半といったところだ。
赤茶色の頭髪を後ろで結び、胸元を強調した赤い軍服……っぽい、衣装。
(ずいぶん若い人だが……奥さん?ボディガード?……わからん)
俺はどちらにも見覚えがなかった。
やがて上座と思われる席に皇帝が座り、たっぷり数秒かけて全員が着席した。
「それで、結論は出たのか?」
開口一番、皇帝は言った。
「まだです、陛下」
事も無げに言ったのは、会議室で最初に発言していた、白衣の男性だった。
「ふん、次元間の壁を突破した、などという話が結論ではないという自覚ぐらいはあるらしいな」
「はい、陛下。ただ、『奴らはどうすれば倒せる』のか、という点については仮説があります」
白衣の男性が言葉を続ける。
「ほう?言ってみろ」
「はい。今日現れたモンスター……仮に〈魔獣〉と呼称します。この〈魔獣〉は、一定以下のあらゆるエネルギーを無効化する特殊な外皮で覆われているようです」
「はっはっは!」
皇帝は不意に笑い出した。
「つまりは……その『一定』とやらを突破できればよかった、というわけだな?」
「……はい」
「つまりは……我が軍は、軟弱者の集まりか」
皇帝の言葉に、一同、声も出ない。
平坦な口調で説明を続けていた白衣の男性も黙っている。
「ねぇ、パパ~?」
皇帝に寄り添っていた女性が、場違いな猫なで声で言った。
(あ、娘さんなのか)
そう思うと、少しホッとする。
「どうした、シャル?」
声を和らげて、皇帝は応えた。
「どうして、ここに軍人さんがいるのぉ~?」
彼女の視線は明らかに、俺の方へ向いていた。
組み立て式みたいなやつじゃなく、持ち運びに業者が必要なんじゃないの、っていうぐらいどっしりした造りだ。
そこの椅子に座らされて数分もすると、次々と初老だったり老年だったりする男性が入ってきた。
彼らは互いに挨拶をするでもなくため息まじりに着席すると、書類を眺めまわしており、重苦しい静寂に包まれていた。
(男性をあまり見ないと思っていたが……)
やはり、俺の隊は特殊なんだな。
そうだよな。女性ばっかりの隊なんて、なにか特別な事情があったんだよな。
「諸君。全般状況については、既に配布した資料を読んだな?」
ほぼ全員が着席したところで、白衣を着た初老の男性が言った。
「状況は理解しました。……これは確認なのですが、早期警戒探査術には何も反応がなかったのですね?」
白ネクタイを締めた男性が言った。
「魔術探査については、問題なく動作している事を確認済みー」
気の抜けた声で、イングリッド女史が応える。
「未知の方法による欺瞞の可能性は?」
痩せぎすの男性が、詰問調に訊ねた。
「それはー。歩哨兵と周辺住民への聞き取り結果として、誰も視認していないことを確認したのでー、多分、ナシ」
イングリッド女史はあくまでものんきに応える。
「ま、視覚欺瞞の能力まで持っていたとすれば話は変わるケドー。今のところはナシって言っちゃっていいんじゃないかな~」
「なにをのんきな―――」
痩せぎすの男を遮り、白ネクタイが言った。
「それはどういう?」
「視覚欺瞞して外から歩行あるいは飛行して接近したとすればぁー。式典会場以外にも被害が出てても、おかしくないよねー?」
イングリッド女史はあくまでも白ネクタイの青年に対して言っている風だが、どう考えても痩せぎすの男に対しての挑発だった。
「確かに。途中にある障害物は破壊してもおかしくはないですね」
「ふん!兵士どもも、高給取りの騎士どもも、ほとんどものの役に立たなかったらしいがな」
痩せぎすの男はちらりと俺を見て、言った。
「…………」
俺はその視線を黙って受け止めていた。
「セスール技術員……」
白ネクタイの男がそれとなく制止するも、痩せぎすの男は止まらなかった。
「ある部隊からの報告によると、やつらには武器も魔法も効かなかった、とある」
痩せぎすの男は資料に目を落としながら言った。
「またある部隊からの報告では、剣による討伐に成功した、とあるが?」
彼はもはや、俺個人に言っているようだった。
(なんで、俺が攻撃されてるんだ……?)
「レオ少佐。倒せた部隊には、とある共通点があってな……」
何も答えない俺に対し、痩せぎすの男は優越感すらのぞかせて語り始めようとした。
その時だった。
「皆さん、皇帝陛下がご入室されます!」
入口に立っていた兵士がそう言うと全員が立ち、黙したまま入口に向かって頭を下げる。
俺も、反射的に同じ動作を行っていた。
入室してきたのは、豪奢に煌めく衣服に身を包んだ老人だった。
金と紫色をベースにしたローブを着ており、ほとんど白みがかっている頭髪。
動きはゆっくりとしたものだったが、力強さを感じる歩調だった。
傍には若い女性が付き添っているが、見たところ十代後半といったところだ。
赤茶色の頭髪を後ろで結び、胸元を強調した赤い軍服……っぽい、衣装。
(ずいぶん若い人だが……奥さん?ボディガード?……わからん)
俺はどちらにも見覚えがなかった。
やがて上座と思われる席に皇帝が座り、たっぷり数秒かけて全員が着席した。
「それで、結論は出たのか?」
開口一番、皇帝は言った。
「まだです、陛下」
事も無げに言ったのは、会議室で最初に発言していた、白衣の男性だった。
「ふん、次元間の壁を突破した、などという話が結論ではないという自覚ぐらいはあるらしいな」
「はい、陛下。ただ、『奴らはどうすれば倒せる』のか、という点については仮説があります」
白衣の男性が言葉を続ける。
「ほう?言ってみろ」
「はい。今日現れたモンスター……仮に〈魔獣〉と呼称します。この〈魔獣〉は、一定以下のあらゆるエネルギーを無効化する特殊な外皮で覆われているようです」
「はっはっは!」
皇帝は不意に笑い出した。
「つまりは……その『一定』とやらを突破できればよかった、というわけだな?」
「……はい」
「つまりは……我が軍は、軟弱者の集まりか」
皇帝の言葉に、一同、声も出ない。
平坦な口調で説明を続けていた白衣の男性も黙っている。
「ねぇ、パパ~?」
皇帝に寄り添っていた女性が、場違いな猫なで声で言った。
(あ、娘さんなのか)
そう思うと、少しホッとする。
「どうした、シャル?」
声を和らげて、皇帝は応えた。
「どうして、ここに軍人さんがいるのぉ~?」
彼女の視線は明らかに、俺の方へ向いていた。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる