機械少女と霞んだ宝石達~The Mechanical Girl and the hazy Gemstones~

綿飴ルナ

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Episode 10 《再装填乱舞》

#91《二人の機械少女》

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「どうしてまたボクと同じ姿にするかなぁ」


 ルナは魔力感知と解析機能を同時に発動させ、もう一人の機械少女の体内を解析する事にした。
 三日月形のチャームが付いたチョーカーはルナのそれと似た構造をしているようだが、身体の作りは似て非なる部分がいくつもあった。
 つまり護身ロボットは月城組の研究室では同じものを作れない事を物語っている。
 何より一番の違いは鉱石コアがない事だ。
 彼女はルナとは違って正真正銘のロボットなのである。


「この国のルールっつーモンに従っているだけさ。オマエは如月湊音みなとによって創られた護身ロボットだからなァ」

「まぁ何となく予想はついてたけどさぁ。残念ながらボクがここに居る時点でキミの行為はだよ」

「創ったのはオレじゃねェ、湊音あいつだ」


 月城は余裕があるのか、煙草を取り出すとそれに火をつけて一服しだした。


「ずっと気になってたんだけどさぁ、どうして護身ロボットであるボクを欲しがってたの? キミの施設程の大きさなら創れただろうに。何か違いでもあるの?」

「んなもん、オレらの目的に必要だったからに決まってんだろ。つーかよォ、オマエこそやけに人間らしくなったなァ? 誰に改造してもらった……?」


 刃物のような月城の声が、抉ろうとする目付きと共に響き渡った。
 感情のなかった当時の記憶。魔石となって心を手に入れ、降り注いだ感情に混乱してソレイユ達に迷惑をかけたあの時。
 今でも気が狂いそうになる事はあるが、今はそれ以上に


「最後に父さんが綺麗にしてくれただけで、改造なんてされてないさ。そうだなぁ……、強いて言うならボクが今こうしていられるのはのおかげ、かなぁ?」


 ルナは風を操って球体にすると、手のひらの上で転がしてみせた。
 月城の反応を見る限り、彼も嬉しそうに口角を上げている。


「ハッハッハッ! 面白ぇ! わざわざ自分から言ってくれるとはなァ!」

「後の事を考えたらフェアじゃないでしょ? ボクは全力で楽しみたいわけ」


 月城が煙草を投げ捨て、後ろの電灯を見上げたかと思えば右手を上げた。
 その横でルナと瓜二つの機械少女がこちらを睨み続けている。


「残念だが今の会話、監視カメラでしっかり録画させてもらった。これでキサラギグループも終わりだなァ」

「どういう事? 話が見えてこないんだけど」

「恍けてんのかァ? 凡そ二百年前、キサラギグループが隠蔽した魔法の話だよォ」

「え? 会社が隠蔽した話なんかボク知らないよ?」


 月城が指さした電灯は目で見るだけでは何の変哲もないただの電灯だ。
 だがルナの魔力感知と合わせて解析すると、確かに監視カメラが照明に紛れて組み込まれていた。
 このやり取りを録画していたのは事実なのだろう。


「オマエくらいのロボットだったらそんくらいのデータは入ってんだろ。……まァ、コッチには証拠がある。特別に教えてやるよ」


 そうして月城が語ってくれたのは、《白夜の街》と呼ばれていた場所で起こった一つの事件だった。
 事件があったあの日、魔女が白夜の街へ出入りしている事を知った先代は、一度は捕獲に成功したものの、魔女は街を崩壊させて逃走したのだという。


「その魔女を捕獲した理由って何なの? 何か問題があったって事だよね?」

「魔女に協力を求める為、だとよ」


 先代は偶然にも怪我人を治療している姿を見かけて協力を仰いだが、魔女は拒絶し、街を崩壊した挙句に逃走。
 その事件で婚約者を失った先代は、唯一の生き残りだったらしい。
 街が崩壊した事実だけを公表して終わらせたキサラギグループに復讐を果たす為、月城組を更に拡大させて現在に至るとの事だ。


「そっかぁ……。人間のセカイってなんというか……世知辛い事が多いみたいだねぇ……。そこから月城組の活動の方向性が変わったって事?」

「はァ? オレ達の活動内容は何も変わっちゃいねェ。拡大しただけだ」

「えっ? でも復讐の為にって……」

「あァ、オレ達の活動の為になァ。日ノ国の政治に不満を持つ組織が月城組だ。国を動かしてしまうほどのキサラギを潰して国を支配する。その為には戦争を起こせる程の力を得る為に拡大する必要があった」


 国を支配する為の準備を積み重ねてきた所で《キサラギグループが開発した護身ロボット》の情報を得た月城組は、機械少女と開発者を人質に政権を奪い取る計画を立てたのだ。
 高々と語る月城は勝算があるのか余裕を見せている。


「ふーん、そっかぁ」


 ルナは徐に拡張型集音器に手を伸ばし、犬耳の内部からひし形の飾りを取り外してニヤリと笑った。


「はーい! 今の発言、ぜーんぶ録画させてもらったよ! ち・な・み・にー、この映像、ぜーんぶ政府とキサラギグループに生中継されてるから、もう逃げ道ないよぉ!」

「はァ!? 生中継だと!? こんなところで嘘をついて何になる?」

「残念だったねぇ! これはもう用済みだからポイしよっと!」


 月城がひし形のビデオカメラを目掛けて数発撃ってきたが、ルナは弾丸が当たる前に遠くへ投げ飛ばした。
 それは微量の風魔法でブーストさせているので、計算上は黒斗達の元まで飛んでいく事になる。


「……茶番はそろそろ終わりにしねェとなァ。オマエら、このロボットとその仲間を探して!」


 月城がポケットから通信機を取り出しているが、応答がないようだ。


「残念だけどキミの仲間の殆どは動けないと思うよ。ボクの仲間がくれたからねぇ。なんならもう国が動いてるんじゃないかなぁ」

「チッ。じゃあ尚更、オマエを壊すか捕まえねェとなァ」


 そう言って月城が後ろへ下がった。
 目の前にいる機械少女が戦闘態勢を取ったので、ルナも同じように戦闘態勢を取る。


「そいじゃあ、お手並み拝見といきますか!」


 ルナと機械少女は同時に移動し、戦闘が始まった。
 機械少女が蹴りを入れ、ルナはそれを片腕で受け止める。
 ――なるほど。足の力はのようだねぇ……。
 今度はルナが一蹴り喰らわせると、機械少女が片腕で攻撃を受け取った。
 こちらも互角。どうやら見た目も戦闘能力も同じ作りのようだ。
 ――ここまで似せるだなんて流石、父さんだなぁ……。
 ルナは不敵な笑みを浮かべた。


風魔法ブリーズ!」


 ルナは空高く飛ぶと両手から交互に風魔法を放った。
 マゼンタと同等の攻撃力があるこの風は、機械少女の服に傷をつけ、少しだけ後ろへ押しやる事に成功する。


土魔法アース!」


 軽々と着地したルナはそのまま地面に片手を置いて土魔法を発動させる。
 盛り上がった土が機械少女と――ついでに月城も空高く突き上げた。


雷魔法サンダー!」


 ルナは自身の周りに土の壁を創ると、複数の電灯から電流を集めてそれを放った。
 爆音が響き渡って静寂が訪れる。砂埃が薄まったところで機械少女がルナの元へ全力で走ってきた。


「いいねぇ! バトルはこうでなくちゃ! 次は水をかけてから撃っちゃおうかなぁ!」


 そこからは衣服が破れた機械少女との格闘戦が始まった。
 蹴りを入れ、それを避けて、また蹴りを入れる。
 ルナの脳内データには蹴り技の護身術が搭載されている。
 それは名前の通り相手を傷付ける為に使うものではない。
 目の前にいる機械少女も同じ造りをしているように見えるが、仮にそうだとして、現時点で違うとすれば《魔法が使えるか》と《自立しているか》だ。


「うわぁっ!」


 不意をつかれ、ルナの身体は大きく後ろへ飛ばされた。
 機械少女は命令をこなす為、休む事なく攻撃をしかけてくる。

 ルナがもし目の前の彼女と同じ構造で作られていたなら――

 ふと脳裏をよぎった事が見透かされたかのような一撃だった。


「楽しみたいのは山々なんだけど、ボクもそんなに暇じゃないんだよね。そろそろ終止符を打たせてもらうよ!」


 ルナはとてつもなくいやらしい企み顔を浮かべて勢いよく飛び起きると、地面に手を置いて《土魔法》を、両手を振り上げて《風魔法》を、近辺にある洗い場に貯まっている少量の水と、電灯の電力を人差し指に集めて《水魔法》と《雷魔法》を放った。
 されるがままに攻撃を受け続けた機械少女は、強い電流を浴びてショートしてしまったようだ。
 ルナは身体を土でコーティングしてから機械少女に思い切り飛びかかると、躊躇する事なく彼女のチョーカーに付属している金色のバッテリーを引き抜いた。
 バッテリーが外れた機械少女は数十秒をかけて停止し、静寂が戻ってくる。


にしたのが運の尽きだったねぇ。さぁどうする? 父さんは予備のバッテリーまでは作らなかったと思うし、キミにはもう後がないんじゃない?」


 一歩一歩、着実に月城に歩み寄る。
 銃撃を何発も受けたが、鋼のように固いルナの身体はビクともしない。
 ――ようやっと……。
 ルナは心の中で重たい声を上げる。
 後はソレイユに魔力を注げば全てが終わる。
 三年程の家族の時間を奪った月城への復讐が叶う時が来た。
 これで全てを終わらせる事が出来る。

 ルナは月城の胸ぐらを掴んで地面に叩きつけた。
 もうすぐ願いが叶う。そう考えるだけで口元が上がったままだ。


「キミみたいな人間はさっさと死んでしまえばいいんだよ」


 胸ぐらを掴む手により強い力が入る。
 最初からこの男が居なければ、ルナ達の生活は壊される事はなかった。

 周辺からどす黒い煙のようなものが現れ、ルナと月城を包み込むように拡がっていく。
 ルナはその黒いものに見覚えがあった。

 だが、今はそんな事はどうでもいい。
 目の前にいるこの男はルナの仲間と沢山の人々の時間を奪ったのだ。
 今ここで鉄槌を下さなければ。
 ルナは狂気じみた憎しみと共に左手に作った拳を大きく掲げた。

 その時、背中越しに重圧を察知したルナは身震いをして恐る恐る振り向いた。
 先程まではなかったどす黒い何かが、もう一人の機械少女の近くで姿を現している。
 月城が悲鳴を上げて逃げようとしているが、ルナの右手伝いにはあまり抵抗を感じられなかった。
 彼の反応からして、この黒い何かが見えているが腰が抜けて動けないというところなのだろう。


「あれ……もしかして……」


 ルナは魔力感知を発動させて周囲の様子を伺った。
 どす黒いものの内部を解析機能と併せて視ると、そこには先程まで持っていたソレイユの鉱石コアがある。
 鉱石コアのある場所からして、どうやら機械少女と戦っていた時に落としてしまったようだ。


「……これは面白い展開になりそうですなぁ」


 ミスリルは邪属性の濃い魔力を纏っても壊れる様子は無いが、その反面多大な力を得て変貌しようとしている。
 それは藍凛あいりと出会った時のぬいぐるみや、クリスタの話に出てきた思念体とはまた違った――より凶悪な力を宿しているようだ。

 どす黒いベールが外れて明らかになったのは、ルナが知っているソレイユの姿とは違う――似て非なるものだった。
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