脳筋男装令嬢は、虐げられるだけの家を飛び出して自由に生きる!~偽りの聖女を倒し、愛も名誉も金も、全て拳で手に入れます!~

八星 こはく

文字の大きさ
38 / 51

第38話 聖女の本性

しおりを挟む
 扉を開けると、メリナはフランクの真横に座っていた。彼女の白い手が、甘えるようにフランクの太ももにおかれている。

「あら、貴方は?」

 テレサを見つめ、にっこりとメリナが笑った。その表情が意地悪く見えてしまうのは、テレサの勘違いだろうか。

 もしかして、私に気づいてるの?

「部下です」

 フランクはそう答え、自然に立ち上がった。テレサを見つめる瞳がやけに真剣なことに、ちょっとだけほっとする。

「……そろそろ、次の予約の時間かと」

 できる限り声を低くしてそう言った。もちろん真っ赤な嘘だ。予約なんて一つも入っていない。

「まあ。さすが、大人気ですのね」

 口元に手を当てて、メリナが目を見開く。上品ぶったその態度が気に入らない。

「では、わたくしはそろそろ帰りますわ。フランク殿、今度は友人として遊びにきてもいいかしら?」
「……はい、ぜひ」

 フランクはにっこりと笑ったが、すぐにテレサに向かって目でなにかを訴えかけてくる。

 メリナと仲良くしたいわけじゃないって、そう言いたいのかしら。

「フランク殿はお忙しいでしょうから……貴方、馬車まで送ってくれる?」
「……喜んで」
「まあ。嬉しいわ。わたくし、貴方とも話してみたかったの」

 ソファーから立ち上がると、メリナが正面まで歩いてくる。そしてテレサを見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 この子……!

「今日は馬車を少し離れたところにおいていますの」
「そうですか」
「ええ。ですから、心細くって」

 メリナはフランクに一礼した。大丈夫か、と口だけで聞いてきたフランクに頷いてみせ、彼女と共に屋敷を出る。

 屋敷を出て少し歩くと、メリナは唐突に立ち止まった。
 振り返って、じっとテレサを見つめる。

「ねえ」

 言いながら、メリナがテレサの手をぎゅっと握った。いきなりのことに驚いていると、くすっとメリナが笑う。

「相変わらず、カサカサの手ね」
「……貴方」
「気づかないとでも思ったの?」

 ふふっ、と笑って、メリナはとびきり意地悪く言った。

「わたくしはバウマン家の娘よ? わたくしに調べられないことなんてないわ。怪力なんていう異能、滅多にないもの」
「ここにきた時にはもう気づいていたの?」
「そうよ。そうじゃなきゃ、こんなぼろいところになんかこないわ。貴女がいなくなった時期と、ここで怪力男が働き出した時期が一致していたんだもの」

 あー面白い、とメリナは何度も笑った。焦ったテレサを見て、さらに楽しそうに笑う。

「貴女、妓楼で働いたりもしてたわね? 本当に笑えたわ」
「そこまで知ってるの」
「言ったじゃない。わたくしに調べられないことなんてないって」
「……それで、なんでわざわざ会いにきたのよ」
「決まってるじゃない。連れ戻しにきたの。お姉さまがいなくなって寂しかったんだから」

 どうせ、虐める相手がいなくなって退屈になっただけだ。メリナに嫌われていることはよく分かっている。

「お姉さまがいなくなって、婚約も破談になったわ。まさかお姉さまが、あの女を放って逃げるとはね」
「……お母さんは、どうしたの」

 家を出てから、母のことは気にしないようにしてきた。きっと、母だってそれを望んでいるだろうからと。

「埋めてあげたわ、共同墓地にね。もう、どこに行ったかも分からないわよ」

 王都のはずれに、身内がいない人間の遺体を埋める共同墓地がある。大半が、罪を犯した人間の遺体だ。
 そこに、母親が眠っている。想像するだけで泣きたくなった。

「お姉さまのせいよ。お姉さまが逃げるから」
「……今さら、私が戻るとでも思ってるの。お母さんもいない今、バウマン家に戻る理由なんてないわ」
「そう。戻らずに、フランク殿と暮らすの? お姉さまには不釣り合いなほど綺麗な人よね」

 にや、と口元を歪めてメリナが笑った。彼女を聖女と崇めている人たちが、この表情を見たらどう思うだろうか。

「お姉さまはどうせ、自分からバウマン家に戻るわ。わたくしには分かるもの」
「そんなわけないでしょ!」
「さあ、どうかしら?」

 意味ありげに言うと、メリナは早足で馬車へ向かっていた。またね、と手を振って、優雅に馬車へ乗り込む。

 私が、自分からバウマン家に戻る? そんなわけないわ。
 せっかく、自分の居場所を見つけられたんだから。

 舌打ちをして、急いで屋敷へ戻る。なぜか不安な気持ちになって、テレサは全力で走った。





「テレンスさん、大変なんです!」

 玄関の扉を開けると、顔を真っ青にしたクルトがいた。こんなに焦っているクルトは、今まで一度だって見たことがない。

「クルトさん、どうしたんですか?」
「フランク様が……フランク様の手足が、石のようになってしまったんです!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

追放された養女令嬢は、聖騎士団長の腕の中で真実の愛を知る。~元婚約者が自滅する横で、私は最高に幸せになります~

有賀冬馬
恋愛
「お前のような無能な女、私の格が下がるのだよ」 最愛の婚約者だったはずの王子に罵られ、雨の夜に放り出されたエルナ。 すべてを失った彼女が救われたのは、国の英雄である聖騎士団長・レオナードの手によってだった。 虚飾の社交界では見えなかった、本当の価値。 泥にまみれて子供たちを笑顔にするエルナの姿に、レオナードは心を奪われていく。 「君の隣に、私以外の居場所は作らせない」 そんな二人の裏側で、エルナを捨てた王子は破滅へのカウントダウンを始めていた。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...