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第38話 聖女の本性
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扉を開けると、メリナはフランクの真横に座っていた。彼女の白い手が、甘えるようにフランクの太ももにおかれている。
「あら、貴方は?」
テレサを見つめ、にっこりとメリナが笑った。その表情が意地悪く見えてしまうのは、テレサの勘違いだろうか。
もしかして、私に気づいてるの?
「部下です」
フランクはそう答え、自然に立ち上がった。テレサを見つめる瞳がやけに真剣なことに、ちょっとだけほっとする。
「……そろそろ、次の予約の時間かと」
できる限り声を低くしてそう言った。もちろん真っ赤な嘘だ。予約なんて一つも入っていない。
「まあ。さすが、大人気ですのね」
口元に手を当てて、メリナが目を見開く。上品ぶったその態度が気に入らない。
「では、わたくしはそろそろ帰りますわ。フランク殿、今度は友人として遊びにきてもいいかしら?」
「……はい、ぜひ」
フランクはにっこりと笑ったが、すぐにテレサに向かって目でなにかを訴えかけてくる。
メリナと仲良くしたいわけじゃないって、そう言いたいのかしら。
「フランク殿はお忙しいでしょうから……貴方、馬車まで送ってくれる?」
「……喜んで」
「まあ。嬉しいわ。わたくし、貴方とも話してみたかったの」
ソファーから立ち上がると、メリナが正面まで歩いてくる。そしてテレサを見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
この子……!
「今日は馬車を少し離れたところにおいていますの」
「そうですか」
「ええ。ですから、心細くって」
メリナはフランクに一礼した。大丈夫か、と口だけで聞いてきたフランクに頷いてみせ、彼女と共に屋敷を出る。
屋敷を出て少し歩くと、メリナは唐突に立ち止まった。
振り返って、じっとテレサを見つめる。
「ねえ」
言いながら、メリナがテレサの手をぎゅっと握った。いきなりのことに驚いていると、くすっとメリナが笑う。
「相変わらず、カサカサの手ね」
「……貴方」
「気づかないとでも思ったの?」
ふふっ、と笑って、メリナはとびきり意地悪く言った。
「わたくしはバウマン家の娘よ? わたくしに調べられないことなんてないわ。怪力なんていう異能、滅多にないもの」
「ここにきた時にはもう気づいていたの?」
「そうよ。そうじゃなきゃ、こんなぼろいところになんかこないわ。貴女がいなくなった時期と、ここで怪力男が働き出した時期が一致していたんだもの」
あー面白い、とメリナは何度も笑った。焦ったテレサを見て、さらに楽しそうに笑う。
「貴女、妓楼で働いたりもしてたわね? 本当に笑えたわ」
「そこまで知ってるの」
「言ったじゃない。わたくしに調べられないことなんてないって」
「……それで、なんでわざわざ会いにきたのよ」
「決まってるじゃない。連れ戻しにきたの。お姉さまがいなくなって寂しかったんだから」
どうせ、虐める相手がいなくなって退屈になっただけだ。メリナに嫌われていることはよく分かっている。
「お姉さまがいなくなって、婚約も破談になったわ。まさかお姉さまが、あの女を放って逃げるとはね」
「……お母さんは、どうしたの」
家を出てから、母のことは気にしないようにしてきた。きっと、母だってそれを望んでいるだろうからと。
「埋めてあげたわ、共同墓地にね。もう、どこに行ったかも分からないわよ」
王都のはずれに、身内がいない人間の遺体を埋める共同墓地がある。大半が、罪を犯した人間の遺体だ。
そこに、母親が眠っている。想像するだけで泣きたくなった。
「お姉さまのせいよ。お姉さまが逃げるから」
「……今さら、私が戻るとでも思ってるの。お母さんもいない今、バウマン家に戻る理由なんてないわ」
「そう。戻らずに、フランク殿と暮らすの? お姉さまには不釣り合いなほど綺麗な人よね」
にや、と口元を歪めてメリナが笑った。彼女を聖女と崇めている人たちが、この表情を見たらどう思うだろうか。
「お姉さまはどうせ、自分からバウマン家に戻るわ。わたくしには分かるもの」
「そんなわけないでしょ!」
「さあ、どうかしら?」
意味ありげに言うと、メリナは早足で馬車へ向かっていた。またね、と手を振って、優雅に馬車へ乗り込む。
私が、自分からバウマン家に戻る? そんなわけないわ。
せっかく、自分の居場所を見つけられたんだから。
舌打ちをして、急いで屋敷へ戻る。なぜか不安な気持ちになって、テレサは全力で走った。
◆
「テレンスさん、大変なんです!」
玄関の扉を開けると、顔を真っ青にしたクルトがいた。こんなに焦っているクルトは、今まで一度だって見たことがない。
「クルトさん、どうしたんですか?」
「フランク様が……フランク様の手足が、石のようになってしまったんです!」
「あら、貴方は?」
テレサを見つめ、にっこりとメリナが笑った。その表情が意地悪く見えてしまうのは、テレサの勘違いだろうか。
もしかして、私に気づいてるの?
「部下です」
フランクはそう答え、自然に立ち上がった。テレサを見つめる瞳がやけに真剣なことに、ちょっとだけほっとする。
「……そろそろ、次の予約の時間かと」
できる限り声を低くしてそう言った。もちろん真っ赤な嘘だ。予約なんて一つも入っていない。
「まあ。さすが、大人気ですのね」
口元に手を当てて、メリナが目を見開く。上品ぶったその態度が気に入らない。
「では、わたくしはそろそろ帰りますわ。フランク殿、今度は友人として遊びにきてもいいかしら?」
「……はい、ぜひ」
フランクはにっこりと笑ったが、すぐにテレサに向かって目でなにかを訴えかけてくる。
メリナと仲良くしたいわけじゃないって、そう言いたいのかしら。
「フランク殿はお忙しいでしょうから……貴方、馬車まで送ってくれる?」
「……喜んで」
「まあ。嬉しいわ。わたくし、貴方とも話してみたかったの」
ソファーから立ち上がると、メリナが正面まで歩いてくる。そしてテレサを見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
この子……!
「今日は馬車を少し離れたところにおいていますの」
「そうですか」
「ええ。ですから、心細くって」
メリナはフランクに一礼した。大丈夫か、と口だけで聞いてきたフランクに頷いてみせ、彼女と共に屋敷を出る。
屋敷を出て少し歩くと、メリナは唐突に立ち止まった。
振り返って、じっとテレサを見つめる。
「ねえ」
言いながら、メリナがテレサの手をぎゅっと握った。いきなりのことに驚いていると、くすっとメリナが笑う。
「相変わらず、カサカサの手ね」
「……貴方」
「気づかないとでも思ったの?」
ふふっ、と笑って、メリナはとびきり意地悪く言った。
「わたくしはバウマン家の娘よ? わたくしに調べられないことなんてないわ。怪力なんていう異能、滅多にないもの」
「ここにきた時にはもう気づいていたの?」
「そうよ。そうじゃなきゃ、こんなぼろいところになんかこないわ。貴女がいなくなった時期と、ここで怪力男が働き出した時期が一致していたんだもの」
あー面白い、とメリナは何度も笑った。焦ったテレサを見て、さらに楽しそうに笑う。
「貴女、妓楼で働いたりもしてたわね? 本当に笑えたわ」
「そこまで知ってるの」
「言ったじゃない。わたくしに調べられないことなんてないって」
「……それで、なんでわざわざ会いにきたのよ」
「決まってるじゃない。連れ戻しにきたの。お姉さまがいなくなって寂しかったんだから」
どうせ、虐める相手がいなくなって退屈になっただけだ。メリナに嫌われていることはよく分かっている。
「お姉さまがいなくなって、婚約も破談になったわ。まさかお姉さまが、あの女を放って逃げるとはね」
「……お母さんは、どうしたの」
家を出てから、母のことは気にしないようにしてきた。きっと、母だってそれを望んでいるだろうからと。
「埋めてあげたわ、共同墓地にね。もう、どこに行ったかも分からないわよ」
王都のはずれに、身内がいない人間の遺体を埋める共同墓地がある。大半が、罪を犯した人間の遺体だ。
そこに、母親が眠っている。想像するだけで泣きたくなった。
「お姉さまのせいよ。お姉さまが逃げるから」
「……今さら、私が戻るとでも思ってるの。お母さんもいない今、バウマン家に戻る理由なんてないわ」
「そう。戻らずに、フランク殿と暮らすの? お姉さまには不釣り合いなほど綺麗な人よね」
にや、と口元を歪めてメリナが笑った。彼女を聖女と崇めている人たちが、この表情を見たらどう思うだろうか。
「お姉さまはどうせ、自分からバウマン家に戻るわ。わたくしには分かるもの」
「そんなわけないでしょ!」
「さあ、どうかしら?」
意味ありげに言うと、メリナは早足で馬車へ向かっていた。またね、と手を振って、優雅に馬車へ乗り込む。
私が、自分からバウマン家に戻る? そんなわけないわ。
せっかく、自分の居場所を見つけられたんだから。
舌打ちをして、急いで屋敷へ戻る。なぜか不安な気持ちになって、テレサは全力で走った。
◆
「テレンスさん、大変なんです!」
玄関の扉を開けると、顔を真っ青にしたクルトがいた。こんなに焦っているクルトは、今まで一度だって見たことがない。
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「フランク様が……フランク様の手足が、石のようになってしまったんです!」
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