放課後の秘密~放課後変身部の活動記録~

八星 こはく

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第7章 日常の魔法

第34話 天野望結として

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 私には、なにができるんだろう。私は、どうしたいんだろう。
 ベッドに深く座って考える。悩み過ぎて枕に顔をうずめたら、バニラの甘い香りがした。
 最近買った、お気に入りの香水の匂いだ。

「……如月さんの気持ちなんて、教えてもらわなきゃ分からない。だからまずは、私の本音をぶつける、か」

 早瀬くんの言っていたことは、正しいと思う。正しくて、真っ直ぐで……だからこそ、怖い。
 だって、自分の正直な気持ちを真っ向から否定されたら? 想像するだけで辛くなる。
 大丈夫。如月さんは、きっとそんなことしない。
 そう分かっていても、怖いものは怖い。

「私……如月さんと一緒に高等部に進学したい。修学旅行も一緒に行きたいし、普段だって、一緒に教室で過ごしたい」

 それが、私の正直な気持ち。

「どうすれば、如月さんは教室にきやすくなるのかな」

 友達の数が増えればいい? それとも、クラス全体の雰囲気がもっとよくなればいい? 席の場所も関係ある? ペアワークがない授業ならきやすい?
 ぐるぐるといろんなことを考えたって、結論は出ない。

「……私にできることだって、きっとあるはず」

 私は、蓮さんの姿をした如月さんに出逢って変わった。そこから全てが始まった。
 如月さんが私を変えてくれた。
 私だってきっと、如月さんを変えられるはず。

「蓮さんの姿になれば、如月さんは人と普通に話せるんだよね。でもやっぱり、いつもは蓮さんの姿で学校へ行くことはできない……」

 見た目を変えることが、きっと内面を切り替えるスイッチになってるんだと思う。
 その気持ちは、よく分かる。私もいつもの姿で、天使ももの時みたいにぶりっ子っぽく振る舞うことはできない。

「……だとしたら、ちょっとの変化で、ちょっとだけ変わることができないかな?」

 たとえば私が、眼鏡を外してクリアコンタクトを入れたみたいに。
 大幅な変身は、日常生活では無理だ。だけど些細なことならできる。そして周りから見たら些細すぎることが、本人にとっては大きな変化になることだって、きっとある。
 無理かもしれない。上手くいかないかもしれない。
 如月さんに拒まれて、傷ついてしまうかもしれない。

「でも、動かなきゃ、伝えなきゃ、何も始まらない……!」

 早瀬くんがそう教えてくれた。優斗くんが本音で話す勇気を見せてくれた。
 私だって、変わりたい。一歩踏み出したい。
 変身部に入って、普段の私だって、ゆっくりだけど、変わりつつある。周りの目ばかりを気にして、本当の気持ちを出せないままでいたくない。

「これからも私は、もっともっと、変わりたい……!」

 一人でじゃなくて、如月さんと一緒に。
 そしてもっと、自分を好きになってあげたい。





 朝の空気は冷たくて、心地いい。それでも、じっと立っていれば汗をかいてしまう。
 もうすぐ、本格的に夏になるから。
 保健室の前で、じっと如月さんを待つ。
 どうか如月さんが、欠席じゃなくて、保健室にきてくれますように。
 どれくらい待っただろうか。だんだん学校が賑やかになってきて、朝のホームルーム開始時間が近づいてきた。
 これ以上ここにいたら、遅刻してしまうかもしれない。
 小学生の時から、一度も遅刻なんてしたことがない私が。
 でも、そんなこと、どうでもいい。

「……委員長……?」

 ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴ったのと同時に、如月さんの声が聞こえた。
 顔を上げると、目を丸くした如月さんと目が合う。
 よかった。如月さん、学校にきてくれた。

「な、なんで、こんなところに? それにもう、ホームルーム始まっちゃうんじゃ……」

 戸惑いながらも、如月さんは少しだけ安心しているように見えた。

「如月さん、ちょっときて」

 如月さんの腕を掴み、そのまま歩き出す。向かう先は、変身部の部室だ。
 人目につかないように、少しだけ遠回りをして旧部室棟へ入る。

「せ、先生になにか言われたの? それとも、優斗?」
「違うから」

 部室に入り、丁寧に扉を閉める。すう、と大きく息を吸い込んで、真正面から如月さんを見つめた。

「今日は天野望結として、如月さんと話したくて」
「……天野望結として?」
「うん。天使ももでも、委員長でもなくて、如月さんの友達の、ただの天野望結として」

 如月さんが、泣きそうな顔でゆっくりと頷いてくれた。
 よかった。如月さんは、私を拒んでなんかいない。

「今から私が、如月さんに魔法をかけるから」
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