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第7章 日常の魔法
第33話 ただの勘
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「……とりあえず、部室戻らないと」
如月さんはもう行ってしまって、私はこれ以上追いかけられなかった。
悲しいし、悔しいけれど、それが現実だ。
「……早瀬くん、どう思ったのかな」
好きな人が実は男だった、なんてことが判明して、早瀬くんはきっと動揺しているはずだ。
それなのに、ちゃんと私の背中を押してくれた。
今頃部室で、二人はどんな話をしているのだろう。
深呼吸をして、走ってきた道を戻る。ゆっくりと部室の扉を開けると、中からはいつも通りの賑やかな笑い声が聞こえてきた。
「え……?」
予想していた雰囲気とは全然違って、頭が混乱する。
どういうことなの?
「あ、委員長、おかえり。如月さんは?」
「一人になりたいって、帰っちゃって……」
「あーあ。ちゃんと話できた?」
「それはその……なんというか……」
伝えなきゃ、と思っていたことは伝えた。だけど……。
「そ、それはそうと、早瀬くんたちは?」
如月さんとのことを上手く説明できなくて、言葉を濁した。
「え? 俺たち? あー、もしかして、雪ちゃんが男だったってこと?」
手を叩いて、早瀬くんは優斗くんに視線を向けた。そして、にっこりと笑う。
昨日までの笑顔と何一つ変わっていない、優しい笑顔だ。
「前も言ったでしょ。本当の姿がどんな姿でも関係ないって」
「それはそう、だけど……」
「そりゃあまあ、びっくりはしたよ。あんなに可愛い雪ちゃんが男だなんて、思わなかったし。でも、よく考えたら一石二鳥じゃない?」
「え?」
「だって、男の姿も女の姿も楽しめるんだよ? しかも、男の姿だって、綺麗で可愛いし」
「は、はあ……?」
いつも通りの勢いで言われると、心配していた私の方がおかしいの? という気分になってくる。
それくらい、早瀬くんに変化がないから。
「とにかくさ、好きなものは好き! それだけでしょ」
椅子に座って、早瀬くんは長い足を組んだ。その横で、優斗くんは複雑そうな表情をしている。
でも、どこか安心しているような気がした。
男だってことがバレても、早瀬くんの態度が変わらなくてほっとしたのかな。
「ねえ、委員長。たぶんだけど、委員長って、考え過ぎなんじゃない?」
「……考え過ぎ?」
「うん。如月さんのことも、自分のことも。考えるのはいいことだけど、考え過ぎちゃうと、どうすればいいか分からなくなっちゃう時もあるでしょ」
「……うん」
如月さんが大切だからこそ、いろいろと考えてしまう。せっかく築き上げた友情が壊れてしまうことが怖いから。
私が、臆病だから。
「俺は、正直に自分の気持ちを伝えるしかないと思う」
早瀬くんは、力強くそう言った。
「だって、相手がどう思ってるかとか、教えてくれないと分かんないじゃん。だからまず、自分が本音をぶつけないと。向き合いたい相手なら、なおさら」
「お前は直球過ぎるけどな」
横から優斗くんが口を挟んできた。優斗くんを見て、早瀬くんが嬉しそうに笑う。
「だって、それが俺の長所だから! 優斗くんだって俺のそういうとこ、嫌いじゃないでしょ?」
「調子乗んな、アホ」
優斗くんが早瀬くんの肩を軽く叩く。痛い、と言いながらも、早瀬くんは楽しそうだ。
短期間でこの二人、ものすごく距離が縮まったんだな。
やっぱり、ちゃんと本音で話せたから?
「ねえ、早瀬くん」
「なに?」
「修学旅行のこととか、如月さんが嫌がりそうなことを話題にしたのって、わざとだよね?」
「まあね。このままじゃ高等部にいけないかもって噂、聞いちゃったし」
早瀬くんは顔が広いから、いろんな噂を聞いていても不思議じゃない。
でも、そんな噂が流れてるなんて……如月さんが知ったら、よけいに教室へ行きにくくなっちゃうんじゃないのかな。
「俺、委員長にも如月さんにも感謝してるんだ。二人のおかげで、雪ちゃん……優斗くんと仲良くなれたわけだし。だから、俺もなにかしたくて」
あそこまで嫌がられるとはな……と呟いて、早瀬くんは頭をかいた。
「でも、とにかく現状はちょっと変わった。未来だってきっと、ちょっと変わってるはずだよ」
「そんなこと言って……」
「ごめんごめん。でも委員長も、このまま終わりにするつもりなんてないんでしょ?」
挑発するような眼差しに、当たり前だ、とすぐに頷きで返す。
今日はもう、如月さんは帰ってしまった。でも、ずっと話せなくなったわけじゃない。
私はちゃんと、如月さんと向き合いたい。
「委員長のこと、応援してる。それに如月さんもたぶん、本当は委員長がきてくれるのを待ってるんじゃないのかな」
「どうしてそう思うの?」
「ぶっちゃけ、ただの勘。でも俺の勘って、結構当たるから」
自信満々に言って、早瀬くんが笑った。その隣で、呆れたように、でも、穏やかな顔で優斗くんが笑った。
大丈夫だよ、如月さん。
変身部は、壊れてなんかない。私たちの居場所は、そんなに脆弱なところじゃなかったんだよ。
「じゃあ私、早瀬くんの勘、信じるから」
何の根拠もない、早瀬くんの勘。
でもなぜか、すごく信じられるような気がした。
如月さんはもう行ってしまって、私はこれ以上追いかけられなかった。
悲しいし、悔しいけれど、それが現実だ。
「……早瀬くん、どう思ったのかな」
好きな人が実は男だった、なんてことが判明して、早瀬くんはきっと動揺しているはずだ。
それなのに、ちゃんと私の背中を押してくれた。
今頃部室で、二人はどんな話をしているのだろう。
深呼吸をして、走ってきた道を戻る。ゆっくりと部室の扉を開けると、中からはいつも通りの賑やかな笑い声が聞こえてきた。
「え……?」
予想していた雰囲気とは全然違って、頭が混乱する。
どういうことなの?
「あ、委員長、おかえり。如月さんは?」
「一人になりたいって、帰っちゃって……」
「あーあ。ちゃんと話できた?」
「それはその……なんというか……」
伝えなきゃ、と思っていたことは伝えた。だけど……。
「そ、それはそうと、早瀬くんたちは?」
如月さんとのことを上手く説明できなくて、言葉を濁した。
「え? 俺たち? あー、もしかして、雪ちゃんが男だったってこと?」
手を叩いて、早瀬くんは優斗くんに視線を向けた。そして、にっこりと笑う。
昨日までの笑顔と何一つ変わっていない、優しい笑顔だ。
「前も言ったでしょ。本当の姿がどんな姿でも関係ないって」
「それはそう、だけど……」
「そりゃあまあ、びっくりはしたよ。あんなに可愛い雪ちゃんが男だなんて、思わなかったし。でも、よく考えたら一石二鳥じゃない?」
「え?」
「だって、男の姿も女の姿も楽しめるんだよ? しかも、男の姿だって、綺麗で可愛いし」
「は、はあ……?」
いつも通りの勢いで言われると、心配していた私の方がおかしいの? という気分になってくる。
それくらい、早瀬くんに変化がないから。
「とにかくさ、好きなものは好き! それだけでしょ」
椅子に座って、早瀬くんは長い足を組んだ。その横で、優斗くんは複雑そうな表情をしている。
でも、どこか安心しているような気がした。
男だってことがバレても、早瀬くんの態度が変わらなくてほっとしたのかな。
「ねえ、委員長。たぶんだけど、委員長って、考え過ぎなんじゃない?」
「……考え過ぎ?」
「うん。如月さんのことも、自分のことも。考えるのはいいことだけど、考え過ぎちゃうと、どうすればいいか分からなくなっちゃう時もあるでしょ」
「……うん」
如月さんが大切だからこそ、いろいろと考えてしまう。せっかく築き上げた友情が壊れてしまうことが怖いから。
私が、臆病だから。
「俺は、正直に自分の気持ちを伝えるしかないと思う」
早瀬くんは、力強くそう言った。
「だって、相手がどう思ってるかとか、教えてくれないと分かんないじゃん。だからまず、自分が本音をぶつけないと。向き合いたい相手なら、なおさら」
「お前は直球過ぎるけどな」
横から優斗くんが口を挟んできた。優斗くんを見て、早瀬くんが嬉しそうに笑う。
「だって、それが俺の長所だから! 優斗くんだって俺のそういうとこ、嫌いじゃないでしょ?」
「調子乗んな、アホ」
優斗くんが早瀬くんの肩を軽く叩く。痛い、と言いながらも、早瀬くんは楽しそうだ。
短期間でこの二人、ものすごく距離が縮まったんだな。
やっぱり、ちゃんと本音で話せたから?
「ねえ、早瀬くん」
「なに?」
「修学旅行のこととか、如月さんが嫌がりそうなことを話題にしたのって、わざとだよね?」
「まあね。このままじゃ高等部にいけないかもって噂、聞いちゃったし」
早瀬くんは顔が広いから、いろんな噂を聞いていても不思議じゃない。
でも、そんな噂が流れてるなんて……如月さんが知ったら、よけいに教室へ行きにくくなっちゃうんじゃないのかな。
「俺、委員長にも如月さんにも感謝してるんだ。二人のおかげで、雪ちゃん……優斗くんと仲良くなれたわけだし。だから、俺もなにかしたくて」
あそこまで嫌がられるとはな……と呟いて、早瀬くんは頭をかいた。
「でも、とにかく現状はちょっと変わった。未来だってきっと、ちょっと変わってるはずだよ」
「そんなこと言って……」
「ごめんごめん。でも委員長も、このまま終わりにするつもりなんてないんでしょ?」
挑発するような眼差しに、当たり前だ、とすぐに頷きで返す。
今日はもう、如月さんは帰ってしまった。でも、ずっと話せなくなったわけじゃない。
私はちゃんと、如月さんと向き合いたい。
「委員長のこと、応援してる。それに如月さんもたぶん、本当は委員長がきてくれるのを待ってるんじゃないのかな」
「どうしてそう思うの?」
「ぶっちゃけ、ただの勘。でも俺の勘って、結構当たるから」
自信満々に言って、早瀬くんが笑った。その隣で、呆れたように、でも、穏やかな顔で優斗くんが笑った。
大丈夫だよ、如月さん。
変身部は、壊れてなんかない。私たちの居場所は、そんなに脆弱なところじゃなかったんだよ。
「じゃあ私、早瀬くんの勘、信じるから」
何の根拠もない、早瀬くんの勘。
でもなぜか、すごく信じられるような気がした。
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