放課後の秘密~放課後変身部の活動記録~

八星 こはく

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第3章 変身レッスン

第12話 中からの視点

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 部室の扉を開けると、制服姿の如月さんがいた。
 変身部の部室でいつもの如月さんに会うのは、なんだかちょっと不思議な気分だ。

「委員長、待ってたよ」

 私を見て、如月さんが安心したように笑う。
 頷いて、私は如月さんの隣に座った。

「ありがとう。急だったのに」
「ううん。委員長こそ、ありがとう。昼休み、一緒に過ごしてくれて」

 保健室で変身の練習をするわけにもいかないから、私たちは昼休みも部室で会うことにした。
 こっそりくるのはちょっと大変だったけど、やっぱりここは落ち着く。

「どこに行くのかとか、聞かれなかった?」
「図書館で勉強してくる、って友達には言っておいたから」

 テストに備えて少しの間昼休みも勉強したいのだと言えば、琴音に怪しまれることもなかった。
 嘘をつくのはちょっと罪悪感があったけれど、仕方ない。

「……そうだ。あのね、時間も限られてるし、私が最初の頃にやったこと、メモしてきたの」

 如月さんはそう言って、ポケットから小さなメモ帳を取り出した。グラデーションがかった緑色の綺麗な表紙は、なんだか蓮さんの瞳みたいだ。

「まずは、変身した自分について、いっぱい考えることが大事だと思う」
「変身した自分……私だったら、天使ももについて、ってことだよね?」
「うん。漠然としたイメージだけじゃなくて、いろんなことを考えるんだ」

 如月さんの目が、きらっと輝いた気がした。保健室にいる時より、顔色も明るい気がする。

「最初は私も、月城蓮について、曖昧なイメージしかなかったんだ。優雅で格好いい、みたいな」
「確かに蓮さん、優雅で格好いいよね」
「ありがとう。でもそれだけだと、難しかった。それって、他人から見た月城蓮であって、本人から見た月城蓮じゃないから」
「……なるほど」
「理想の自分、って考えると、つい外からの視点になっちゃいがちだけど……あくまでも自分だから、中からの視点も大事かなって」

 如月さんの言っていることはちょっとややこしいけれど、なんとなく分かる気がする。
 外から見た天使ももは、ちょっと痛いけどあざとくて可愛い子だ。そしてそれは、私の憧れ。

「月城蓮は格好いい、だけじゃなくて、どうして格好いい仕草をするのか、その理由を考えるとやりやすくなったよ」

 そっか。そうだよね。
 天使ももは、あくまでも一人の人間だ。だから行動には理由があるはず。

「ももが可愛い動作をするのは……周りから、可愛いって思われたいから。意識しなくても素で可愛いわけじゃなくて、可愛いを意識してやってる……」
「うん。そうやってイメージを膨らませていくのがいいと思う」

 私は今まで、どんな風に振る舞えば天使ももっぽいか、という風に考えていた。
 でも、それじゃだめなんだ。
 天使ももならどうするか。そう考えるべきだったんだよね。

「ありがとう、如月さん。すごく参考になる!」
「ど、どういたしまして」

 そう言った如月さんは明らかに照れていたけれど、すごく嬉しそうだった。

「あ、あとね、もう一つ、大事なことがあって」
「なになに!?」

 私がいきなり顔を近づけると、驚いた如月さんがびくっと肩を震わせた。それがなぜか無性におかしくて、声を上げて笑ってしまう。

「委員長、驚かせないでよ」

 少しだけ責めるような眼差しが、どうしてこんなに心地いいんだろう。

「ごめん。如月さんの話、すっごく聞きたかったから」
「……それは、ありがとう」

 小さい声で言って、如月さんは俯いてしまった。
 如月さんって、結構照れ屋だよね。

「それで、もう一つの大事なことって?」
「普段の生活の中で、変身した自分ならどうするかな、って考えること」

 ゆっくりと顔を上げた如月さんと目が合う。如月さんは、ちょっぴり得意げな笑みを浮かべた。

「実際に行動しなくても、こういう時、蓮だったらこうしただろうな……ってよく考えるんだ。そうすると、なんていうのかな。蓮っていう人間が、より浮かび上がってくるっていうか」

 日頃から頭の中で天使ももを意識しておく。
 大変かもしれないけれど、確かに大事なことかもしれない。
 ありがとう、と私が言ったのと同時に、遠くでチャイムが鳴った。昼休みが終わる五分前の合図だ。
 旧部室棟は教室と離れているから、急がないと授業に遅れてしまう。

「私は、もうちょっとゆっくりしてから保健室に戻るね」
「分かった。私はもう行くね」

 昼休みが終わる直前は、廊下も靴箱も、とにかく人が多い。如月さんは、なるべく人混みを避けたいんだろう。

「委員長。また明日、ここでね。……なんて、今日の放課後もここで会うんだけど」
「だね」

 目を合わせて少し笑った後、私は急いで部室を後にした。
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