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誤解
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図書室の片隅で、エリシアは一人静かに本を読んでいた。ページをめくる手が一瞬止まり、無意識に窓の外へと視線を向ける。そこでふと耳にした名前に、驚きと共に心が跳ねた。
「エリシア・アルフォード」
低く、落ち着いた声。その響きが胸を強く打ち、思わず心臓が一瞬高鳴る。
ゆっくりと振り向くと、そこには銀髪の青年、レオンハルト・エーベルハルトが立っていた。彼の冷静な眼差しが、まるでこちらを見透かすかのように静かに見守っている。
「レオンハルト……様?」
驚きとともに、思わず声がわずかに上ずった。
彼が自分に話しかけてくるなんて、予想もしなかったことだ。それに、彼がこんなふうに近づいてきたのは初めてだった。
レオンハルトは一瞬の間を置いて、まっすぐに言った。「僕のことは知っているね。話がある。少し時間をもらえるかな?」
突然の申し出に、エリシアは戸惑いながらも、その真剣な眼差しに胸が少しだけ温かくなるのを感じた。
彼とは幼少期に一度だけ会ったことがある。しかし、その記憶はエリシアにとって特別なものだった。
「はい」
エリシアは迷いながらも答える。
彼の表情は硬く、どこか深い思索を感じさせる雰囲気が漂っていた。何を話すのだろう? そう思いながらも、彼に引き寄せられるように、エリシアは足を踏み出した。
二人は歩いている間、言葉を交わすことはなかった。エリシアはただ、彼の背中を見つめながら、自分の心の中に浮かぶ緊張と期待に包まれていた。
だが2人がベンチに付いてもレオンハルトは口を開かない。
彼女が意を決し話し出したその言葉には何の飾りも計算もなかった。
「私……ずっと、レオンハルト様にお会いできるのを楽しみにしていました」
その声には、まっすぐな想いが込められていた。
「婚約者だからではなく、昔、私が泣いていたときに優しくしていただいたことが、ずっと心に残っているんです。それが、ずっと忘れられなくて。私にとって、レオンハルト様はまるで絵本から出てきたような素敵な方でした」
エリシアの言葉は、彼に対する純粋な感謝と親愛の気持ちで溢れていた。その言葉を聞いた瞬間、レオンハルトの心の中で何かがゆっくりと崩れていった。
エリシアは、彼の名誉や地位に憧れているのではない。ただ一人の人間として、自分にとって特別な存在であることを伝えている。
その言葉が、レオンハルトにとっては予想外で、そしてどこか嬉しく感じられた。
(彼女は……駆け引きするような女性ではないのか?)そう考えたレオンハルトは、少しずつ心の中で疑念が晴れていくのを感じていた。
エリシアの言葉は、余計な飾りが一切なく、ただの素直な想いから発せられていた。その誠実さに、レオンハルトは次第に心を動かされていった。
「俺は、彼女のことを何も知らなかった。ただ、噂を信じていただけなのかもしれない」
その考えが頭に浮かんだ瞬間、レオンハルトはふとした後ろめたさを感じた。これまで、エリシアに対して疑いの目を向けていた自分が、少しだけ情けなく思えてきた。
帰りの鐘が鳴り、エリシアが静かに微笑んだ。「今日はお話できて、よかったです」
「……そうか」
「はい。ありがとうございました。またお会いするのを楽しみにしています」
エリシアが深く礼をする姿を見て、レオンハルトは一瞬、言葉に詰まる。彼女が彼に対して抱いている感情が、彼の予想以上に純粋で真摯なものであることに、再び気づいた。
(……俺は、何か勘違いをしていたのかもしれない)その考えが頭をよぎるが、それでもまだ完全に疑念が消え去ったわけではない。
彼は少し戸惑いながらも、「……ああ」とだけ返し、踵を返した。
エリシアは、レオンハルトの背中を見送りながら、ふわりと微笑んだ。その微笑みは、彼女にとって本当に満足のいくものであったのだろう。だが、レオンハルトはその笑顔の意味に気づかないまま、そっけなくその場を後にした。
エリシアの心の中では、少しだけ軽くなった気持ちが広がっていた。彼女はずっと、レオンハルトと話す日を楽しみにしていた。それが叶った今、心が少しだけ晴れたように感じていた。
その日の夕方、レオンハルトはセドリックと顔を合わせた。セドリックは興味津々といった様子で、レオンハルトの顔を覗き込んでくる。
「で? 結局どうだったんだよ、エリシア嬢とは?」
レオンハルトは少しだけ目を伏せ、深いため息をついた。
「……計算高い女ではなかった」
「ほう?」セドリックはにやりと笑った。
「ただまっすぐで、俺のことをずっと覚えていたと言っていた」
「ふ~ん、それってつまり……」
セドリックは意味ありげに笑みを浮かべ、軽くレオンハルトの肩を叩いた。
「よかったじゃないか。レオンハルトが疑ってたみたいな、したたかな女じゃなかったんだろ? ようやく肩の荷が下りたんじゃないか?」
「ああ」レオンハルトは小さく頷いた。エリシアの言葉を思い返しながら、自分の中でずっと絡まっていたものが少しずつ解けていくのを感じていた。
セドリックも、レオンハルトの表情を見て、ようやく安心したように笑った。「ま、これで安心だな。」
レオンハルトは久々に気持ちが軽くなったのを感じていた。しかし、その時彼はまだ知らなかった。メリッサの企みが、すでに次の段階へと進んでいることを——。
「エリシア・アルフォード」
低く、落ち着いた声。その響きが胸を強く打ち、思わず心臓が一瞬高鳴る。
ゆっくりと振り向くと、そこには銀髪の青年、レオンハルト・エーベルハルトが立っていた。彼の冷静な眼差しが、まるでこちらを見透かすかのように静かに見守っている。
「レオンハルト……様?」
驚きとともに、思わず声がわずかに上ずった。
彼が自分に話しかけてくるなんて、予想もしなかったことだ。それに、彼がこんなふうに近づいてきたのは初めてだった。
レオンハルトは一瞬の間を置いて、まっすぐに言った。「僕のことは知っているね。話がある。少し時間をもらえるかな?」
突然の申し出に、エリシアは戸惑いながらも、その真剣な眼差しに胸が少しだけ温かくなるのを感じた。
彼とは幼少期に一度だけ会ったことがある。しかし、その記憶はエリシアにとって特別なものだった。
「はい」
エリシアは迷いながらも答える。
彼の表情は硬く、どこか深い思索を感じさせる雰囲気が漂っていた。何を話すのだろう? そう思いながらも、彼に引き寄せられるように、エリシアは足を踏み出した。
二人は歩いている間、言葉を交わすことはなかった。エリシアはただ、彼の背中を見つめながら、自分の心の中に浮かぶ緊張と期待に包まれていた。
だが2人がベンチに付いてもレオンハルトは口を開かない。
彼女が意を決し話し出したその言葉には何の飾りも計算もなかった。
「私……ずっと、レオンハルト様にお会いできるのを楽しみにしていました」
その声には、まっすぐな想いが込められていた。
「婚約者だからではなく、昔、私が泣いていたときに優しくしていただいたことが、ずっと心に残っているんです。それが、ずっと忘れられなくて。私にとって、レオンハルト様はまるで絵本から出てきたような素敵な方でした」
エリシアの言葉は、彼に対する純粋な感謝と親愛の気持ちで溢れていた。その言葉を聞いた瞬間、レオンハルトの心の中で何かがゆっくりと崩れていった。
エリシアは、彼の名誉や地位に憧れているのではない。ただ一人の人間として、自分にとって特別な存在であることを伝えている。
その言葉が、レオンハルトにとっては予想外で、そしてどこか嬉しく感じられた。
(彼女は……駆け引きするような女性ではないのか?)そう考えたレオンハルトは、少しずつ心の中で疑念が晴れていくのを感じていた。
エリシアの言葉は、余計な飾りが一切なく、ただの素直な想いから発せられていた。その誠実さに、レオンハルトは次第に心を動かされていった。
「俺は、彼女のことを何も知らなかった。ただ、噂を信じていただけなのかもしれない」
その考えが頭に浮かんだ瞬間、レオンハルトはふとした後ろめたさを感じた。これまで、エリシアに対して疑いの目を向けていた自分が、少しだけ情けなく思えてきた。
帰りの鐘が鳴り、エリシアが静かに微笑んだ。「今日はお話できて、よかったです」
「……そうか」
「はい。ありがとうございました。またお会いするのを楽しみにしています」
エリシアが深く礼をする姿を見て、レオンハルトは一瞬、言葉に詰まる。彼女が彼に対して抱いている感情が、彼の予想以上に純粋で真摯なものであることに、再び気づいた。
(……俺は、何か勘違いをしていたのかもしれない)その考えが頭をよぎるが、それでもまだ完全に疑念が消え去ったわけではない。
彼は少し戸惑いながらも、「……ああ」とだけ返し、踵を返した。
エリシアは、レオンハルトの背中を見送りながら、ふわりと微笑んだ。その微笑みは、彼女にとって本当に満足のいくものであったのだろう。だが、レオンハルトはその笑顔の意味に気づかないまま、そっけなくその場を後にした。
エリシアの心の中では、少しだけ軽くなった気持ちが広がっていた。彼女はずっと、レオンハルトと話す日を楽しみにしていた。それが叶った今、心が少しだけ晴れたように感じていた。
その日の夕方、レオンハルトはセドリックと顔を合わせた。セドリックは興味津々といった様子で、レオンハルトの顔を覗き込んでくる。
「で? 結局どうだったんだよ、エリシア嬢とは?」
レオンハルトは少しだけ目を伏せ、深いため息をついた。
「……計算高い女ではなかった」
「ほう?」セドリックはにやりと笑った。
「ただまっすぐで、俺のことをずっと覚えていたと言っていた」
「ふ~ん、それってつまり……」
セドリックは意味ありげに笑みを浮かべ、軽くレオンハルトの肩を叩いた。
「よかったじゃないか。レオンハルトが疑ってたみたいな、したたかな女じゃなかったんだろ? ようやく肩の荷が下りたんじゃないか?」
「ああ」レオンハルトは小さく頷いた。エリシアの言葉を思い返しながら、自分の中でずっと絡まっていたものが少しずつ解けていくのを感じていた。
セドリックも、レオンハルトの表情を見て、ようやく安心したように笑った。「ま、これで安心だな。」
レオンハルトは久々に気持ちが軽くなったのを感じていた。しかし、その時彼はまだ知らなかった。メリッサの企みが、すでに次の段階へと進んでいることを——。
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