余命数日の公爵令嬢の影に転生した俺、毒を喰らって最強の影の大精霊になる

もふもふ隊

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中指を立てる影と微笑む令嬢

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サクラが叫び声を上げ、寄生精霊がカゲレナに貪り食われた瞬間。 ドロドロのピンク色をしたハート形の影が消失し、その下から、驚くほど「薄くて、ひょろひょろで、今にも消えそうな影」が姿を現した。

それが、この世界に転生してきた「サクラ」という少女の、本来の影の姿。

(…チッ。中身を食ったら、随分としょぼいのが残ったな。おい、これがお前の『本体』かよ)

カゲレナが鼻を鳴らすと、その薄い影はガタガタと震えながら、セレナの足元に向かって何度も頭を下げた。寄生精霊という「悪意のブースト」を失った彼女は、ただの「知識だけ持った非力な異邦人」に成り下がった。



「……フォルテス公爵令嬢。君が示したのは、教典にある『光』ではなかった」

玉座に座る老王が、鋭い眼光を向ける。

「だが、民を惑わす毒を喰らい、真実を暴いたその力……。我が国はそれを『影の守護』として認めよう。サクラは聖教皇国へ送還する。中身のない人形としてな」

(……へっ。送還ねぇ。あのアマ、向こうに帰ったら『聖女が壊れた』ってんで、さらに酷い目に遭うだろうぜ…ま、自業自得だ)

エドワードが口を開く。 

「父上。彼女の力は、もはや一公爵家の手に負えるものではありません。私の『婚約者候補』として、王宮で保護し、さらなる研鑽を積ませるべきかと」

「なっ……!?」 

レオンハルトが声を上げそうになり、アルトリウスがそれを無言で抑える。アイアンが「コン」と盾を鳴らし、カゲレナに視線を送った。

『……おい、カゲレナ。ここからは戦いの質が変わるぞ。王宮の影は、広場ほど甘くはない』

(……わかってるよ、鉄塊野郎…お嬢を王妃にするだのなんだの、面倒なことになりそうだが…ま、退屈はしなさそうだ)

「さて、フォルテス公爵令嬢に褒美を与える。何かあるか?」

「では、冒険者ギルドの登録の年齢を引き下げて欲しいのです」

静まり返る謁見の間。 老王の眉間には深い皺が寄り、エドワード王子は「…そう来るか」と苦笑い、レオンハルトに至っては「セレナ様が戦場に!?」と顔を青くしている。アルトリウスに至っては、「聖女様が冒険者に?」と驚いている。

「…冒険者だと? 公爵令嬢が、ドブネズミや魔物と剣を交えるというのか。ギルドの年齢水準を引き下げてまで」

老王の問いに、セレナは凛として答えた。

「はい。私は、影の中に閉じこもっていた頃から決めていたのです。このカゲレナと一緒に、自分の足で世界を見に行くと。聖女も、王宮の保護も、婚約者の座も、私にとっては狭すぎますわ」

(……ガハハ! 言ったな、お嬢! 冒険者なんて、俺みたいなガラ悪い影には最高の職場じゃねーか。泥水啜って、強いボスの影を食う……。王宮のパレードより100倍マシだぜ!)

カゲレナの影が、喜びで床の上をボコボコと沸き立たせた。


謁見の間を退出した後、長い廊下でセレナの隣を歩くレオンハルトは、いまだに魂が抜けたような顔をしていた。

「……セレナ様。本気、なのですか? 公爵令嬢がギルドの門を叩くなど、前代未聞です」

「あら、レオン様。あなたはまだ私を知らないようね」

セレナが茶目っ気たっぷりにウインクすると、レオンは降参したように肩を落とした。 その背後で、エドワード王子が声をかける。

「……面白いな。君を縛る鎖など、最初から無かったというわけか。だがセレナ、冒険者登録の特例を認める代わりに、条件がある」

『……ケッ、出たぜ、王族特有の「交換条件」ってやつか。お嬢、あんまり甘い顔すんなよ?』 

カゲレナが床を波立たせ、エドワードの影の端をわざと踏んで威嚇する。アイアンに盾をすぐに弾かれたのも気に入らない。

「条件……とは、殿下?」

「王室直属の『特別遊撃隊』としての籍も置いてもらう。君を完全に放流して、他国に拾われるわけにはいかないからね…基本は自由にしていい。だが、国家の危機には君自身とその『影』を貸してもらう…いいかな、カゲレナ?」

エドワードがセレナではなく、その足元の闇に問いかけた。 カゲレナは実体化こそしないものの、床から「中指を立てた影の腕」を一瞬だけ突き出し、すぐに引っ込めた。

『……ハッ! 国家の危機? 飯が大量に用意されてるなら、考えてやってもいいぜ』
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