【完結】夢魔の花嫁

月城砂雪

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第一章(初夜編)

1-5

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 口内の隅々まで、生き物のように這う舌が、きゅう、と。柔く拙い動きで逃げようとするジュゼの舌を絡め取る。溢れる唾液をちゅるちゅると吸われる度に、肌が火照るのを止められない。苦しさにもがいても夢魔の身体はびくとも動かず、身じろげば身じろぐほどその美しくも逞しい体躯の力強さを感じて、背筋が奇妙にぞわぞわした。
 舌に感じる唾液は、注がれる量に比例してますます蕩けるように甘く、鼻に抜ける蜜のような香りがジュゼの思考を曇らせる。凄まじい速さで脳に突き抜ける快楽に浸された身体からは力が抜け、感じる場所を心得た責め方に甘い喘ぎがこぼれ出した。

「ん……ふふ。ジュゼ、もっと口を開けてください」
「んむ、ぐ……んく、んっ」

 求めに応じたいわけではないのに、力の入らない口に舌を捻じ込まれると、それだけで自然と喉奥が開いてしまう。甘い唾液を嚥下する度に、妖魔の長い指が確かめるように喉元をすりすりと撫で回した。厚く柔らかな舌のざらつく表面が縦横無尽に口内をかき混ぜて、戯れのようにジュゼの舌を絡め捕らえては強く吸い上げる。
 刺激が続いていた股の間から膝が抜かれて、安堵したのも束の間、すぐに股間と股間を強くすり合わせるように抱き寄せられて、地面から離れた足がぴくぴくと震えた。

「ふ、ぅんっ、……は、う」

 何度も繰り返し唾液を啜られては与えられ、飲み込みきれなかったものが口の端をつう、と流れれば、勿体ないと言わんばかりに熱い舌に舐め取られる。唇を甘噛みされれば腰の辺りが重くなり、服越しにぐいぐいと押し付けられる股間に感じる灼熱の感覚に、いつしか恐怖よりも期待を感じて、爪先が震えた。

(きもち、い……)

 尻を抑えられて密着した股間がむずむずし、腰が勝手に揺れ始める。開き切った股の間で、健気に存在を主張するジュゼの幼いペニスは、妖魔の逞しい体躯に擦り付けられて昂っていた。
 身体の芯に炎が灯ったように熱く、呼吸の度にずくずくと音を立てて全身を巡る血の温度が次第に上がっていく。苦しさに耐え兼ねて酸素を求めようと口を開けば、より深く口中を貪られてくぐもった声が漏れた。
 いよいよ酸欠になってしまうという訴えを込めて、ジュゼは相手の白い袖を握り締める。その、思わず縋り付くような姿をくすりと笑うと、妖魔はどこか名残惜しそうに唇を解放した。

「んっ、ぷは、んぅ」
「……ジュゼ」

 唇が、ひりひりと熱を帯びている。はあはあと息をつくジュゼは酸欠で頭がくらくらしていたが、妖魔は物足りないらしい。ギラギラと熱を帯び始めた美しい瞳はぞっとするほどに美しく、無意識に煽ってしまったらしい事実に気付くよりも先に、ぐるりと視界が回った。
 慣れ親しんだ敷布に背を受け止められて、寝台に押し倒されたのだと理解すると同時に、厚みのある逞しい男の肉体が覆いかぶさってくる。首筋を舐められて悶えるジュゼの胸から腹にかけて、妖魔が鋭い爪を持つ指を滑らせれば、それだけで服が切り裂かれて前開きに肌を露わにされた。

「あ、だめ……っ、やだ」

 いやらしいこと、は。服を脱いで肌を合わせるのだと。それくらいのことは知っている。他者に肌を晒してしまった恥ずかしさに上った血が下がる間もなく、妖魔はジュゼの肌に白い手を滑らせた。反射的に隠そうとする手を絡め取られると、有無を言わせぬキスに唇を嬲られて黙らされる。
 手つきの優しさに反して、荒々しい雄々しさを感じる強引な口付けに、思わず感じ入った吐息を漏らしてしまったジュゼは、それでも必死に首を横に振った。

「だめ……!」

 いやいやと、必死になって裂けた服を合わせようと手を握り締めれば、頑なな指の上を白い指が艶めかしく這って肌が粟立った。妖魔がもたらす快楽に怯えながら、それでも次の刺激に胸がときめくことを止められない。そんな自分を心底恥じる、清く幼く初心な様に赤い瞳を微笑ませると、妖魔はジュゼを抱き締めて宥めるように額に口付けた。
 切り裂かれた衣服の下にするりと忍び込んだ指に、背骨を辿るようにすりすりと撫でられて。人に触れられたことのない肌が、不安と歓喜に揺れながら赤く上気していく。淡い月明かりにぼんやりと浮かび上がる、薄暗い部屋に満ちる淫靡な気配に背筋がぞくぞくして、ジュゼは固く瞳を閉ざして身を捩った。

「ふふ、可愛い方。時間はたくさんありますから、ゆっくりあなたを拓かせてくださいね」

 ことん、と。何か固いものが置かれる音に、閉ざしたばかりの瞳を恐る恐る持ち上げる。妖魔の手が伸びる先に顔を向ければ、寝台の横の、小さな文机のその上に。鄙びた家具には不釣り合いな、深い藍色の豪奢な砂時計が置かれているのが目に入った。
 月明かりに似た銀色に光る金属めいた砂が、儀式に使われる水時計よりもゆったりと、宝石のような輝きを散らしながら下の層に降り積もっていく。綺麗な光景にひと時視線を奪われていたら、無防備に晒された耳を熱い舌が這って、甲高い声を上げてしまった。誰かに聞き咎められることを恐れて、はっと口を押さえれば、妖魔は耳元であえかな笑い声を上げた。

「魔界の時間を少しだけ、魔王様から頂いてきました。……この砂が尽きるまでは、どのような声を上げても大丈夫ですからね」

 囁く声はジュゼを宥め、だから声を我慢しなくていいんですよ、と。優しく笑う。どんなに悲鳴を上げても、助けを呼んでも、誰も来てくれないと――そう、告げられたに等しいその言葉は、絶望的な内容であるはずなのに。安心してくださいね、と。笑う妖魔の瞳に意地の悪い真意は見当たらない。
 まるでジュゼが、自ら望んで。誰に憚ることもなく声を出せる現状を喜んでいるような、そんな物言いをされて。ジュゼの頭は、たちまち羞恥が生み出す甘美な熱に浮かされた。困惑を漏らすことも許されない内に、すぐに甘い口付けに塞がれた唇からはとろりと体を蕩かすような熱が注がれて、厚みのある体が圧し掛かってくる。
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