風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

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第十章昴々渓・チチハル

第十章第十八節(若松騎兵隊)

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                十八
 
 この戦場における敵の騎兵は約三千。
 味方はと言えば……、わずか二百騎足らず--。

 この当時はまだ機甲部隊の黎明期れいめいきで、各国ともまだ戦術研究の途上にあった。技術面での研究は進んだが、折しも世界は軍縮ムードの真っただ中。実戦研究など、とても表立って進められる環境にはなかった。従って、陸戦における快速打撃部隊と言えば、依然として騎兵がその主役を務めた。

“ラストサムライ”ならぬ“ラストカヴァルリィ”--。
 昴々渓こうこうけいの闘いはまさに、騎兵から機甲部隊へと時代が移り変わる端境期はざかいきに当たり、騎兵時代の掉尾ちょうびを飾る華々しい戦闘として陸戦史に刻まれている。
 
 湯池とうち東方の高地を陣取って師団の右側面を警戒していた若松晴司わかまつせいじ中佐率いる騎兵聯隊は、午前七時半頃から行動を開始。攻撃準備のため湯池の部落へ入った。
 夜明けとともに現れた友軍機に心を躍らした師団司令部が、「スワッ、敵の襲撃かっ」と一瞬凍りついたのは、この時の若松部隊の移動を誤認したものだった。

 騎兵隊は湯池とうちで馬に水を飲ませ、馬装具を点検し蹄鉄ていてつの釘を締めて準備万端整えた。
 聯隊長の若松中佐は左翼隊の指揮所へ行って戦況を観察した。午前九時の攻撃開始からほどなくして、歩兵第二十九聯隊の左側面が大きく開き、敵の攻撃に晒されているのを見て取った。そこですぐさま部隊へ命じ、疾風怒濤のごとく敵を蹴散らした武勇伝は、すでに述べた通りだ。
 次いで第一中隊を右第一線、第二中隊を左第一線に展開し、下馬して徒歩攻撃に転じた。

 この支援の甲斐あって、第二十九聯隊が息を吹き返したのを見届けると部隊へ再度乗馬を命じ、再び突破口を抜けて頭兵站ずへいたん方面へ疾走した。
 騎兵は疾風はやてのごとく友軍の最前線を通り越し、敵が設置した障害物や散兵壕も飛び越えて、敵が撃ちだす迫撃砲にもめげずに遮二無二しゃにむに突進していった。
 退却する敵を目掛けて馬上からの射撃で擾乱かくらんし、乏しい起伏の陰に潜んだかと思えば、突如、丘の上から襲ってくるなど、神出鬼没の襲撃で敵の戦意を完全に奪い去った。
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