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第十章昴々渓・チチハル
第十章第十九節(中央突破)
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十九
多門中将の中央突破は見事に成功した。
左右両翼の警戒隊は所定の進出線に沿って戦果を拡大した。坪井聯隊も正午頃には大興屯へたどり着いた。
午前十一時五十分、多門師団長は昴々渓の駅で全軍に追撃命令を下した。
「一、敵は退却を開始せり。
二、師団はただちにチチハルに向かい、敵を急追せんとす。
三、歩兵第十五旅団長は左記部隊(中略)を指揮し右追撃隊となり、斉克鉄道東側地区を竜江駅に向かい、敵を急追すべし。
四、歩兵第三旅団長は左記部隊(中略)を指揮し左追撃隊となり、斉克鉄道西側地区をチチハル南端南大営に向かい、敵を急追すべし」
先ず左翼追撃隊が前進を始めた。
途中割愛したが、今回の戦闘では当初から日本軍における部隊相互間の通信がほぼ途絶えていた。師団司令部、さらには左右両翼の各旅団、聯隊間の明確な意思疎通ができていないまま、ただ「右が動いたから左も動く」といった“阿吽の呼吸”で、辛うじて連携を保つことができた。
追撃に移ったあとも左右追撃隊の電話線は依然復旧せず、命令系統は混乱したままだった。多門師団長は左翼側にいるから、こちらは何とか指揮系統を維持したが、右翼追撃隊の天野旅団長は左追撃隊の動きを見て独断で前進を開始したのが実情だった。
さて、部隊が追撃に移って北へ北へと向かうなか、坪井聯隊長は後方に残してきた水口主計ら監視隊のことが気掛かりだった。
平野小隊長の一隊は作戦開始とほぼ同時に原隊へ戻ったが、残りの分隊はその後もついぞ追いついてこなかった。トラックが水没した後、サイドカーで弾薬を運んできた須藤銃工長も、第二便を最後に消息が途絶えた。
折しも、聯隊付の相葉健少佐が戦傷者を後送することとなったので、聯隊長は「ご苦労だが、少し足を伸ばして烏諾頭站の様子を見てきてくれんか」と、ついでの使いを頼んだ。しかし、少佐はとにかく戦傷者を早く後方へ送らなければならないと渋い顔をした。その任務を終えた後でいいから、ちょっと覗いて来てもらえないかということで了承を得た。
そうやって相葉少佐を送ったものの、聯隊長の胸騒ぎは収まらなかった。チチハルまでは五十キロあまりの道のりだ。そんなに離れてしまえば合流するのは難しい。聯隊長は少佐を送ってまだ幾時間も経たないうちに、宮澤曹長を呼びつけサイドカーでひとっ走り行ってきてくれと頼んだ。
多門中将の中央突破は見事に成功した。
左右両翼の警戒隊は所定の進出線に沿って戦果を拡大した。坪井聯隊も正午頃には大興屯へたどり着いた。
午前十一時五十分、多門師団長は昴々渓の駅で全軍に追撃命令を下した。
「一、敵は退却を開始せり。
二、師団はただちにチチハルに向かい、敵を急追せんとす。
三、歩兵第十五旅団長は左記部隊(中略)を指揮し右追撃隊となり、斉克鉄道東側地区を竜江駅に向かい、敵を急追すべし。
四、歩兵第三旅団長は左記部隊(中略)を指揮し左追撃隊となり、斉克鉄道西側地区をチチハル南端南大営に向かい、敵を急追すべし」
先ず左翼追撃隊が前進を始めた。
途中割愛したが、今回の戦闘では当初から日本軍における部隊相互間の通信がほぼ途絶えていた。師団司令部、さらには左右両翼の各旅団、聯隊間の明確な意思疎通ができていないまま、ただ「右が動いたから左も動く」といった“阿吽の呼吸”で、辛うじて連携を保つことができた。
追撃に移ったあとも左右追撃隊の電話線は依然復旧せず、命令系統は混乱したままだった。多門師団長は左翼側にいるから、こちらは何とか指揮系統を維持したが、右翼追撃隊の天野旅団長は左追撃隊の動きを見て独断で前進を開始したのが実情だった。
さて、部隊が追撃に移って北へ北へと向かうなか、坪井聯隊長は後方に残してきた水口主計ら監視隊のことが気掛かりだった。
平野小隊長の一隊は作戦開始とほぼ同時に原隊へ戻ったが、残りの分隊はその後もついぞ追いついてこなかった。トラックが水没した後、サイドカーで弾薬を運んできた須藤銃工長も、第二便を最後に消息が途絶えた。
折しも、聯隊付の相葉健少佐が戦傷者を後送することとなったので、聯隊長は「ご苦労だが、少し足を伸ばして烏諾頭站の様子を見てきてくれんか」と、ついでの使いを頼んだ。しかし、少佐はとにかく戦傷者を早く後方へ送らなければならないと渋い顔をした。その任務を終えた後でいいから、ちょっと覗いて来てもらえないかということで了承を得た。
そうやって相葉少佐を送ったものの、聯隊長の胸騒ぎは収まらなかった。チチハルまでは五十キロあまりの道のりだ。そんなに離れてしまえば合流するのは難しい。聯隊長は少佐を送ってまだ幾時間も経たないうちに、宮澤曹長を呼びつけサイドカーでひとっ走り行ってきてくれと頼んだ。
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