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第十章昴々渓・チチハル
第十章第三十三節(飛ばし)
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三十三
大毎は日本軍のチチハル入城を、十一月十九日付朝刊の一面トップに【奉天十八日聯合至急報】として報じた。朝日は【奉天特派員十八日発至急報】とのクレジット入りで扱った。
しかしすでに見たように、十八日といえば第二師団が三間房の敵防御線を突破し、昴々渓を経て追撃に移ったばかりである。つまり第一報は奉天から聯合と朝日が同時に「飛ばし」を発し、大毎本社がこれに飛びついたことになる。
大毎の第二報は、同日の夕刊(二十日付)に洮南の“尾島特派員発”から発信された次の記事だった。
「十九日午前十時馬占山軍から何等の抵抗をも受けずにチチハルに正式に入城した」
翌二十日付の大毎は朝刊一面トップに、「我が軍の後を追うて、深夜チチハルに入る」と題する現地発の記事を掲載した。ただし、執筆したのは従軍した洸三郎ではなく、援軍の森だった。
翌二十二日付朝刊二面には、金子の筆による「平穏のチチハル、一斉に店舗を開く」という続報が載り、二十三日付では再び森が「性こりもなく馬占い山再起か」と書いた。
また大毎は二十一日付で号外を発行し、石川忠行が後衣拉巴で撮影した前線の写真を両面に印刷して配布した。翌二十二日にはチチハル入城の場面を見開き四個面の号外にして、大々的に報じた。
では洸三郎が懐にした原稿はどうなったか……。
嫩江の報道で洸三郎に出し抜かれた朝日は、汚名返上とばかりに洮昴線沿線へ記者十人の大部隊を送り込んできた。京城から泰来まで飛行機まで飛ばし記事をリレーした。まあそれを考えれば、大毎も健闘した部類なのだろう。だが悲しいかな、洸三郎が苦労の末に書いた原稿は……、ついに日の目を見ることがなかった。
ところで彼の左目は、単なるゴミとか感染症では済まなかった。
目の凍傷--。
それもかなり悪化していた。金子はさっそく病院を探してくれたが、既述の通りチチハルに医師は残っていなかった。
軍医に診てもらえないだろうかとも思ったが、第二師団はすでに一千名以上の凍傷患者を出していて、とてもそれどころではない。思案の揚げ句、東支鉄道でハルビンの満鉄病院へ連れて行くことにした。
洸三郎を診た医師は厳しい表情で、「あと一日遅れていたら、失明するところだったゾ!」と脅してきた。そして療養には少なくとも年内いっぱいかかると診断した。
チチハル入城の翌日、多門師団長は大阪毎日新聞本社の本山彦一社長へ宛てて感謝状を贈った。
「貴社従軍記者、写真班諸氏が酷寒と烈風にさらされ弾雨を冒しながら軍隊と行動をともにし、わが師団ならびに配属部隊将兵が至誠および殉国の精神もって国民の期待に応えようとする姿を報道により伝えようとする姿勢を涙なくして見ることはできない。ここに貴社従軍記者諸氏を報告し、かつ貴社に感謝の意を表するのは軍の最も光栄とするところである。
十一月二十日
チチハルにて 多門第二師団長」
大毎は日本軍のチチハル入城を、十一月十九日付朝刊の一面トップに【奉天十八日聯合至急報】として報じた。朝日は【奉天特派員十八日発至急報】とのクレジット入りで扱った。
しかしすでに見たように、十八日といえば第二師団が三間房の敵防御線を突破し、昴々渓を経て追撃に移ったばかりである。つまり第一報は奉天から聯合と朝日が同時に「飛ばし」を発し、大毎本社がこれに飛びついたことになる。
大毎の第二報は、同日の夕刊(二十日付)に洮南の“尾島特派員発”から発信された次の記事だった。
「十九日午前十時馬占山軍から何等の抵抗をも受けずにチチハルに正式に入城した」
翌二十日付の大毎は朝刊一面トップに、「我が軍の後を追うて、深夜チチハルに入る」と題する現地発の記事を掲載した。ただし、執筆したのは従軍した洸三郎ではなく、援軍の森だった。
翌二十二日付朝刊二面には、金子の筆による「平穏のチチハル、一斉に店舗を開く」という続報が載り、二十三日付では再び森が「性こりもなく馬占い山再起か」と書いた。
また大毎は二十一日付で号外を発行し、石川忠行が後衣拉巴で撮影した前線の写真を両面に印刷して配布した。翌二十二日にはチチハル入城の場面を見開き四個面の号外にして、大々的に報じた。
では洸三郎が懐にした原稿はどうなったか……。
嫩江の報道で洸三郎に出し抜かれた朝日は、汚名返上とばかりに洮昴線沿線へ記者十人の大部隊を送り込んできた。京城から泰来まで飛行機まで飛ばし記事をリレーした。まあそれを考えれば、大毎も健闘した部類なのだろう。だが悲しいかな、洸三郎が苦労の末に書いた原稿は……、ついに日の目を見ることがなかった。
ところで彼の左目は、単なるゴミとか感染症では済まなかった。
目の凍傷--。
それもかなり悪化していた。金子はさっそく病院を探してくれたが、既述の通りチチハルに医師は残っていなかった。
軍医に診てもらえないだろうかとも思ったが、第二師団はすでに一千名以上の凍傷患者を出していて、とてもそれどころではない。思案の揚げ句、東支鉄道でハルビンの満鉄病院へ連れて行くことにした。
洸三郎を診た医師は厳しい表情で、「あと一日遅れていたら、失明するところだったゾ!」と脅してきた。そして療養には少なくとも年内いっぱいかかると診断した。
チチハル入城の翌日、多門師団長は大阪毎日新聞本社の本山彦一社長へ宛てて感謝状を贈った。
「貴社従軍記者、写真班諸氏が酷寒と烈風にさらされ弾雨を冒しながら軍隊と行動をともにし、わが師団ならびに配属部隊将兵が至誠および殉国の精神もって国民の期待に応えようとする姿を報道により伝えようとする姿勢を涙なくして見ることはできない。ここに貴社従軍記者諸氏を報告し、かつ貴社に感謝の意を表するのは軍の最も光栄とするところである。
十一月二十日
チチハルにて 多門第二師団長」
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