風紋(Sand Ripples)~あの頃だってそうだった~

宗像紫雲

文字の大きさ
280 / 466
第十二章錦州

第十二章第十五節(第二次天津事件)

しおりを挟む
                 十五

 聯合通信の至急電を転電するかたちで錦州の危機をいち早く伝えたのは、大毎十一月二十日付の朝刊だった。
 東京朝日は翌二十一日付朝刊の中段に「錦州の奉(天)軍五萬、積極的に策動す」との見出しを掲げ、同じく聯合電を引いてきた。さらに翌二十二日の朝刊には本社記事として「満州の治安を脅かす、今後の禍根は錦州」という三段記事を載せた。
 これらの記事が示すように、北満と両睨みできた関東軍の目はいよいよ錦州へと注がれる。

 遼寧省りょうねいしょうの中央を南北につらぬき、営口えいこうへと注ぐ遼河りょうがが、北寧ほくねい鉄道と交わるところが巨流河きょりゅうがである。ここに工兵隊からなる日本の守備隊がいたのだが、十一月二十四日の午前、対岸の新民付近にたむろする現地武装警察の「公安隊こうあんたい」との間に不慮の衝突が発生した。この戦闘で日本側は将校一名と兵下士三名が戦死して、多数の負傷者を出した。

 歴史の中でほとんど語られることのない小規模な衝突だったが、南京政府に対しては少なからぬインパクトを与えたようだった。雇維鈞こいきん外交部長が英・米・仏の公使を集めて「中立地帯」案を打診したのも、この戦闘を受けて「いよいよ日本軍による錦州攻撃の幕が開けた」と見たからだ--とも言われる。
 それまでは馬賊討伐に専念していた関東軍も、この日正規軍を相手にした場合の軍の対処方針を固めた。

 「一、敵が積極的に北寧線沿いに攻めてくる場合は、新民しんみん付近でこれを迎え撃つ。
  二、敵が若干部隊をもって営口えいこうおよび通遼つうりょう付近で味方の後方攪乱を働く場合は、北寧ほくねい線方面から行動を起こし、これを駆逐する」

 関東軍の錦州攻撃は時間の問題--。
 そんな空気が濃厚になってきた矢先の十一月二十六日夜、申し合わせたかのように天津軍司令官、香椎浩平かしいこうへい少将から再び電報が届いた。

 「午後八時二十分、敵は突如日本兵営西方地区から銃砲火により我が軍に猛射を浴びせてきた。戦闘は全正面に拡大。第一線は直ちに火線について応射に転じている」

 八日の暴動以来、現地保安隊と租界警備の日本軍との間に対立感情がくすぶっていた天津で、またまた事件が発生した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【新作】1分で読める! SFショートショート

Grisly
ファンタジー
❤️⭐️感想お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐️忘れずに!コメントお待ちしております。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...